第四話|遅れてきた理解
扉が静かに、閉まる。
音は小さい。
だが——
残る。
「……」
誰も、すぐには動かない。
「……」
バルドは、その場に立っている。
さっきと同じ位置で。
「……」
言葉が、出ない。
何を言えばいいのか、わからない。
「……」
「……帰るぞ」
低い声が落ちる。
父だ。
「……」
それだけで、反射のように
足が動く。
「……」
廊に出る。
空気が変わる。
軽い。
だが——
どこか遠い。
「……」
二人分の足音が響く。
揃わないまま。
「……」
バルドは、何も考えずに前を見る。
「……」
「……どういうことだ」
やっと、小さく言葉が出る。
「……」
返事はない。
「……」
「ただの形式だろう」
自分に言い聞かせるように、続ける。
「……」
「そのうち戻る」
「……」
足音が、止まる。
「……」
父が、振り返る。
「戻らん」
短く、それだけ。
「……」
そのまま、言葉が落ちる。
沈む。
「……」
「……父上、何を言って」
笑おうとするが、うまくいかない。
「……」
「公爵家の後ろ盾は、もうない」
淡々と続く。
「……」
「今回の件で、それもはっきりした」
「……」
頭の中で、何かが止まる。
「……」
「お前は……選ばれなかった側だ」
「……」
言葉が、入ってこない。
「……」
理解が、追いつかない。
「……」
「そんなはずはない」
かすれた声が、やっと出る。
「こちらが——」
「違う」
また、切られる。
「……」
「選んだつもりでいただけだ」
「……」
その一言で、何かが音もなく崩れる。
「……」
ほんの一瞬、視界が揺れる。
「……」
振り返り、さっきの扉を見る。
閉じられたまま、動かない。
「……」
戻れない。
それだけが、はっきりする。
「……」
「……行くぞ」
父が言う。
それで終わりだ。
「……」
足が、動く。
重く、遅く。
「……」
自分が、どこにいるのかわからなくなる。
「……」
今まであったはずのものが、どこにも、見えない。
「……」
ただ一つ、残っているのは。
「……」
選ばれなかった、という事実だけだった。




