第三話|静かな圧
「遅くなりました」
バルドが扉の前で、軽く頭を下げる。
「……」
返事はない。
「……失礼します」
扉を開ける。
「……」
室内には、すでに人がいた。
机の向こう側。
その前に、二つの影。
動かないまま。
「……」
空気が、重い。
だが——
張りつめているわけではない。
ただ、逃げ場がない。
「……」
バルドは、歩み寄る。
視線を感じる。
横から。
背後から。
「……」
距離を保ったまま、止まる。
「……」
机の向こうの男が、視線を上げる。
それだけで、場が決まる。
「……」
「用件は理解している」
低く、落ちる。
「……」
言葉が止まる。
続ける余地がない。
「……」
「今回の件だが」
淡々と続く。
「……」
誰も、口を挟まない。
挟めない。
「……」
「娘は、すでに意思を示している」
それだけ。
「……」
空気が、わずかにさらに沈む。
「……」
「本件は、あくまで娘の意思によるものだ」
静かに、重ねる。
「……」
横で、誰かが小さく息を呑む。
「……」
バルドは、口を開く。
「それは——」
「異論はないはずだ」
間を置かずに、被せられる。
「……」
言葉が、続かない。
「……」
無意識に視線が、逸れる。
「……」
「その上で」
続く。
「今後の形について話す」
「……」
室内の誰もが、動かない。
ただ、聞いている。
「……」
「互いに無理をする必要はない」
穏やかに。
だが、温度はない。
「……」
「関係を整理し、相応の形に収めるのが望ましい」
「……」
言葉は柔らかい。
だが——
拒む余地はない。
「……」
「幸いにも」
視線が、わずかに動く。
一瞬だけ、机の前の影へ。
「すでに縁は繋がっているようだ」
「……」
その意味を理解する。
遅くはない。
「……」
誰も、名前を出さない。
だが、全員が同じ人物を思い浮かべている。
「……」
「望むのであれば」
淡々と続く。
「そちらで、まとめるのが自然だろう」
「……」
提案の形をしている。
だが——
それしか残されていない。
「……」
横で、誰かが姿勢を正す。
決断の気配。
「……」
「……つまり」
バルドの声が、わずかに硬い。
「こちらに任せる、ということですか」
「……」
「違う」
短く返る。
「……」
視線が、合う。
逃げ場がない。
「すでに決まっていることを、確認しているだけだ」
「……」
その一言で、場が閉じる。
「……」
横の影が、深く頭を下げる。
「……承知いたしました」
続くように、もう一つの影も動く。
「……」
それで、終わる。
何もかもが、あっさりと。
「……」
バルドは立ったまま、動けない。
「……」
自分だけが、その形で取り残されている。
「……」
それでも、まだ——
何が終わったのか、理解しきれていない。




