第ニ話|選ばれなかった側
「……何だ、その顔は」
軽く笑いながら、バルドが言う。
「別に」
返す声は、曖昧だ。
「……」
視線が合わない。
それだけで、十分だった。
「……」
違和感が、残る。
「……何かあったのか?」
今度は少しだけ強く、もう一度聞く。
「……いや」
短く返る。
それ以上は続かない。
「……」
空気が、妙に重い。
いつもなら、もう少し軽いはずだ。
「……」
バルドは、肩をすくめる。
「まあいい」
興味がないように見せる。
「……」
だが、気にしていないわけではない。
「……」
視線の端で、誰かがこちらを見ている。
すぐに逸らす。
「……」
それが、一人ではない。
「……」
「……何だよ」
小さく、舌打ちする。
「……」
答える者はいない。
「……」
少し離れた場所で、声が落ちる。
低く、抑えたまま。
「……聞いたか?」
「……ああ」
「……」
自分のことだと、わかる。
「……」
聞き取れないはずの距離。
だが、空気で伝わる。
「……」
面倒だと、思う。
それだけだ。
「……」
「バルド様」
柔らかい声が、横から入る。
「……」
ソフィが、微笑んでいる。
いつものように、少しだけ寄る。
「気にしなくていいですよ」
軽く。
「……」
その言葉に、頷く。
「そうだな」
迷いなく。
「どうせ、大した話じゃない」
「ええ」
同じように返る。
「……」
だが、その笑みがわずかに揺れる。
ほんの一瞬だけ。
「……」
気づかないふりをする。
気にするほどでもない。
「……」
そう思う。
「……」
「それより」
ソフィが続ける。
「今後のこと、少し考えた方が——」
「必要ない」
即座に、被せる。
「……」
ソフィの言葉が、止まる。
「……」
「もう終わった話だ」
バルドは軽く言う。
「……」
「こちらが選んだだけだ」
それだけ。
「……」
間が、短く落ちる。
だが、どこか引っかかる。
「……」
ソフィは、何も言わない。
言えない。
「……」
周囲の視線が、また揺れる。
さっきよりも、はっきりと。
「……」
その中に、同情が混じる。
「……」
わずかに、眉が動く。
「……何だよ」
苛立ちが混じる。
「……」
答えは、ない。
「……」
その時、扉が静かに開く音がする。
「……」
「エスカリオ家のご子息」
形式ばった声で、名を呼ばれる。
「……」
バルドが、振り返る。
「……何だ」
「お呼びです」
短く、それだけ。
「……」
「どこに?」
問い返す。
「……」
一瞬だけ、間があく。
「……外務大臣閣下より」
「……」
空気が、完全に止まる。
「……」
ソフィの指が、わずかに動く。
袖を掴みかけて、止める。
「……」
バルドは、薄く笑う。
「……なるほどな」
軽く言う。
「ようやく、か」
「……」
その言葉に、誰も反応しない。
「……」
さっきよりも、はっきりと
違和感が残る。
「……」
だが——
まだ、わからない。
何が、変わったのか。
「……」
ただ一つ、確かなのは。
「……」
呼ばれた、という事実だけだった。




