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抱え込みすぎて壊れる前に消えた私が、別の世界でやり直したら  作者: 絵宮 芳緒
第四章|動き出した歯車

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第一話|噂は、遅れて届く

「……聞いたか」


低い声が、落ちる。


酒の香りが残る部屋の中。

軽いはずの話題が、どこか重い。


「何をだ」


返す声は、まだ気楽だ。


「舞踏会だ」


それだけで、十分だった。


「……」


一瞬、間が空く。


「……ああ、あの」


思い出したように、誰かが言う。


「王が出ていたとかいう」


「出ていただけじゃない」


被せる。


「隣にいた」


「……」


言葉が止まる。


「誰が?」


問いが落ちる。


「……」


答えは、すぐには出ない。


だが——

誰もが、同じ名前を思い浮かべる。


「……公爵令嬢だ」


短く、落ちる。


「……」


空気が、変わる。

さっきまでの軽さが、消える。


「……あの?」


確認するように。


「婚約の——」


「もう違う」


即座に切られる。


「……」


短い沈黙。

だが、重い。


「……あれだけ派手にやっておいて」


誰かが、苦く言う。


「結局、あの形か」


「……」


小さく、笑う声。

だが、乾いている。


「……エスカリオ家も終わりだな」


ぽつりと落ちる。


「……」


否定する者はいない。


「公爵家の後ろ盾を手放して」


別の声が続く。


「何が残る」


「……」


答えは出ない。

誰も、言わない。


「……」


「しかも」


声が、少しだけ落ちる。


「最近、戻ってきたらしい」


「……誰が」


「第二王子が」


「……」


息が、止まる気配。


「……冗談だろ」


「冗談ならいいがな」


「……」


誰も、続きを言わない。

言えない。


「……」


その場にいない誰かの名前が。

形を持ち始める。


「……」


一人が、杯を置く。

わずかに音が響く。


「……ラングレイ家も動くだろうな」


誰かが、低く言う。


「……」


その名に、空気がさらに沈む。


「……巻き込まれる形になるか」


「いや——」


短く否定が入る。


「もう、切り離されるだろう」


「……」


誰も、否定しない。


「……」


「バルドは知っているのか」


別の声が落ちる。


「……さあな」


短く返る。


「……」


「知らないはずがないだろう」


「……」


だが——

確信はない。


「……」


噂は、遅れて届く。

いつも、少しだけ。


「……」


だが、一度届けば止まらない。


「……」


「呼ばれるぞ」


ぽつりと、落ちる。


「……」


「どこに」


「決まってる」


それだけで、十分だった。


「……」


視線が、わずかに逸れる。

誰も、口にしない。


だが——

同じ場所を思い浮かべている。


「……」


王城。


あるいは——

外務大臣の執務室。


「……」


空気が、冷える。


「……」


遅れて届いたものは、軽くはない。


「……」


もう、どこにも戻らない。



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