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抱え込みすぎて壊れる前に消えた私が、別の世界でやり直したら  作者: 絵宮 芳緒
第三章|回り始めたもの

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第七話|触れたままの距離

夜は、深い。

音は少ない。


だが——

静けさは、途切れていない。


「……」


窓の外に、灯りが点々と続く。


王都の夜。

揺れずに、そこにある。


「……」


アリシアは、椅子に座っている。


手元の書類は、閉じられている。

もう、追ってはいない。


「……」


足音が、近づく。

迷いのない、一定の速さで。


「まだ起きているのか?」


低い声が落ちる。


「ええ」


短く返す。


「少しだけ」


それだけ。


「……」


ルシアンが、近くで止まる。

距離は、一歩分。

変わらないはずの距離。


「……」


「無理はするな」


静かに言う。

前と同じ言葉。


「していないわ」


同じように返す。


だが——

少しだけ、柔らぐ。


「……」


沈黙が落ちる。


重くはない。

むしろ、ほどけている。


「……」


「……一人ではない」


ふと、短く呟く。


「……」


アリシアは、その言葉を、受けるように視線を上げる。


「……知っているわ」


迷いなく返す。


「……」


わずかに、息が触れる距離。

近い。

だが、嫌ではない。


「……」


立ち上がると椅子が、小さく音を立てる。


一歩、自然に前に出る。


「……」


すれ違うはずだった。


その距離で——

止まる。


「……」


ルシアンの手が、迷いなく

伸びる。

アリシアの手を、取る。


「……」


指が、確かめるように絡む。

逃がさないように。


「……」


わずかに、引く。


強くはない。

だが、確実に。


「……」


距離が、一気に縮まる。

呼吸が、触れそうなほどに。


「……」


アリシアの瞳が、わずかに揺れる。


だが、逸らさない。


「……」


そのまま、受ける。

引かない。

離れない。


「……」


絡めた指に、ほんの少しだけ力がこもる。


「……」


「それでいい」


低く、すぐ近くで落ちる。


「……」


その声に、迷いはない。


「……」


アリシアは、小さく息を吐く。

だが、確かに。


「……」


「……頼るわ」


もう一度、さっきよりも、はっきりと言う。


「……」


その言葉を、受け取るようにルシアンの指が、わずかに締まる。


「……」


それ以上は、引かない。

それ以上は、求めない。


「……」


絡めたままの距離。

近いままの空気。


「……」


やがて、ゆっくりと手がほどかれる。


急がずに、名残を残すように。


「……」


だが、距離は、離れない。


「……」


並ぶ。


同じ高さで。

同じ位置で。


「……」


もう、全部は抱え込まない。


「……」


任せることも、選べる。


「……」


ルシアンがいる。

それだけで、支えになる。


「……」


夜は、静かだ。

だが、止まってはいない。


「……」


ゆっくりと、流れている。

確実に。


「……」


アリシアは、一瞬だけ目を閉じる。

それから、開く。


「……進むわ」


小さく、落とす。


「当然だ」


迷いなく、すぐに返る。


「……」


そのまま、並んで歩き出す。

同じ速さで。


「……」


距離は、変わらない。


だが——

もう、同じではない。


「……」


回り始めたものは、止まらない。



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