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抱え込みすぎて壊れる前に消えた私が、別の世界でやり直したら  作者: 絵宮 芳緒
第三章|回り始めたもの

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第五話|ほどける距離

風が、やわらかい。

庭に、静けさが落ちている。


「……」


アリシアは、ゆっくりと歩いている。

隣に、気配がある。


「……散歩か?」


低い声が落ちる。


「ええ」


短く返す。

それで足りる。


「……」


同じ速さで、並んで歩く。


「……」


沈黙は、重くない。

むしろ、ほどけている。


「……」


ふと、足が止まる。


花壇の前。

小さな花が並ぶ。

一つだけ、わずかに傾いている。


「……」


手を伸ばす。


触れる前に——

止まる。


「……」


横から、自然に手が入る。


支える。

整える。

それだけ。


「……」


距離が、わずかに近い。


「……」


ルシアンの指先が、土を払う。

そのまま、離れない。


「……」


アリシアは、動かない。

逃げない。


「……」


「直した方がいいと思っただけだ」


低く、落ちる。


「……そうね」


小さく返す。


「……」


沈黙。

だが、途切れない。


「……」


ふと、ルシアンの手がわずかに動く。


触れない距離を、越える。


「……」


指先が、ほんの少し手首に

触れる。


「……」


アリシアの呼吸が、わずかに止まる。


だが、引かない。


「……」


「離れるな」


低く、短く。


「……」


否定しない。


「……」


そのまま、少しだけ近づく。


「……」


肩が、触れるか触れないか、その距離。


「……」


確かに、温度がある。


「……」





——ピッ

音が、入る。





「……」


一瞬、視界が揺れる。


「……」


紙の音。

乾いた声。


「順番、違う」


「……」


「それじゃ戻る」


「……」


空気が、張りつめる。

息が、詰まる。


「……」


——違う






「……」


視界が戻る。


庭、夜、風。


「……」


ルシアンの手は、変わらず

そこにある。


「……」


アリシアは、息を吐く。

少しだけ、深く。


「……」


「どうした?」


低く問われる。


「……少し」


言葉を選ぶ。


「思い出しただけ」


「……」


それ以上は聞かれない。


「……」


そのまま、手をほどかない。


「……」


「戻るか」


静かに落ちる。


「ええ」


頷く。


「……」


歩き出す。


今度は——

少しだけ近いまま。


「……」


もう、止まらない。

止めない。


「……」


だが、忘れてもいない。


「……」


二つは、切れていない。

そのまま、静かに繋がっている。



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