第四話|守る側に立つ
「……一度、止める」
年上の女性が短く、言う。
「順番、崩れてる」
「……はい」
若い方の手が、止まる。
少しだけ、遅れて。
「……」
紙を取り直す。
積み直す。
整える。
さっきよりは、丁寧に。
「……」
流れを、見ている。
止まっていた場所。
詰まっている箇所。
「……」
ここまでは、できる。
「……」
だが——
頭の奥に、浮かぶ。
別の場所。
「……」
あの現場。
「……」
最初は、自分が入っていた。
一人で、回していた。
「……」
回らなかった。
「……」
人も足りない。
時間もない。
担当者とも合わない。
判断も、全部自分。
「……」
息が詰まるような日が続いた。
「……」
ある日、逃げた。
正確には——
手放した。
「……」
代わりに入ったのが、あの人だった。
「……」
最初は、一緒に整えた。
流れを作って、順番を決めて。
崩れない形にしていった。
あの人の知り合いを不在の担当者に呼んで。
「……」
それでも、大変なのは変わらなかった。
「……」
あの人は、残った。
自分は——離れた。
「……」
それから、あの現場には、あまり入らなくなった。
「……」
若い方は、行けなかった。
行ってもかき回すだけで、
回せないから。
「……」
現場の人間も、頼らなかった。
わかっていたから。
「……」
だから、あの人だけが、動いていた。
必死に。
「……」
それを、知っていた。
見ていた。
「……」
それでも、戻らなかった。
「……」
理由はいくらでもあった。
他の現場。
家庭のこと。
義母のこと。
「……」
でも——
「……」
目を逸らしていたのは、確かだ。
「……」
「……ここ、終わりました」
若い方の声で、戻る。
「……」
視線を落とす。
今の現場へ。
「……」
紙は、整い始めている。
まだ甘い。
だが、繋がっている。
「……」
「……ここ、もう一回」
静かに言う。
「詰めが甘い」
「……はい」
今度は、素直に返る。
「……」
少しずつ、動いている。
「……」
あの人も、こうやっていたのだろうか。
何度も。
何度も。
「……」
ふと、思う。
「……」
戻ったら、どうなるだろう。
あの現場に。
「……」
怖い、が先に来る。
「……」
それでも、目を逸らす理由にはならない。
「……」
小さく、息を吐く。
「……」
「……終わったら、行く」
誰に言うでもなく、落とす。
「……え?」
若い方が顔を上げる。
「……何でもない」
短く返す。
「……」
視線を戻す。
今の現場へ。
「……」
止めない。
整える。
繋げる。
「……」
やるべきことは、同じだ。
「……」
ただ一つ。
違うのは——
逃げないこと。




