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抱え込みすぎて壊れる前に消えた私が、別の世界でやり直したら  作者: 絵宮 芳緒
第一章|壊れる前に消えた私

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第三話|止まらない現場

馬車が止まる。

揺れが、すっと消える。


扉が開く前に、外の音が入り込む。


重い。

同じ高さで揃わない声が、いくつも重なっている。


「……」


アリシアは、降りる。


足が地面に触れた瞬間、違和感が走る。

空気が、どこかで詰まっている。


「お嬢様!」


遅れて、声が飛ぶ。

駆け寄る靴音が重なる。


止まりきれずに半歩ずれる。

互いに避けて、また足が止まる。

揃っていない。


「……」


視線を上げる。

門の内側に人はいる。


だが——

同じ方向を見ていない。


同じ荷を、三人が別々の場所へ運ぼうとしている。


途中で止まり、言い合い、また動き出す。


「それ、奥じゃないのか!」


「違う、さっきはこっちって——」


「だから間に合わないって言ってるだろ!」


声がぶつかる。

返ってきて、また別の声にかき消される。


「……」


屋敷の中へ入る。

扉を抜けた瞬間、さらに濃くなる。


机の端に積まれた書類が崩れ、誰かの袖に引っかかる。


拾い上げる手が重なり、止まる。

廊下を横切る影。


ぶつかりかけて、同時に引く。

そのまま、立ち止まる。


流れが、どこにも続いていない。

同じ場所で、手だけが空回りしている。


「……」


足を止める。


耳に入る言葉。

視界に入る動き。

それだけで、足りる。


何が詰まっているのか。

どこで止まっているのか。


見える。


「……」


頭の中で、線が引かれる。


人を分ける。

順を決める。

流れを作る。


やるべきことは、はっきりしている。


「……」


喉が開く。

言葉が、形になる。


——まず、全員を止めて。


——流れを一本にして。


——自分が、指示を——


「……」


息が、止まる。


胸の奥で、何かが引っかかる。


同じ形だ。

見えているから、全部抱えようとする。


そのまま、崩れる。


「……」


指先が、空を掴む。

触れる前に、止める。

胸の奥に残る、短い言葉。


——任せる。


「……」


息を吐く。

肩の力を、ほんのわずかに抜く。


「全員、一度手を止めて」


声を出す。


高くも低くもない。

通る位置に、置く。


「……」


ざわめきが、ほどけるように切れる。


動いていた手が止まり、視線が集まる。


紙が一枚、床に落ちる音がやけに響く。


「状況を確認する」


短く、告げる。

それだけでいい。


「……」


散っていた動きが、わずかに寄る。


中心を探すように。


その時、奥の廊下に動かない影が、一つ。


「……」


こちらを見ている。


逸らさない。

揺れない。


ゆっくりと歩いてくる。

足音が、一定だ。

周囲のざわめきと、噛み合わない。


目の前で、止まる。


「——お戻りでしたか、お嬢様」


低い声。

抑えられているが、奥行きがある。


「……」


距離は一歩分。

近すぎず、遠すぎない。


「この状況で、手を入れますか」


わずかに、目が細まる。


「随分と——お早い」


言葉は穏やかだが、温度がない。

試している。


「……あなたは?」


問いかける。


「管理を任されています」


間を置かず、返る。


「アルノーと申します」


その名が落ちた瞬間——


空気が、わずかに沈む。

誰かが息を止める気配。


「……」


アリシアは、そのまま見返す。


逸らさない。

この男が、流れの芯にいる。


動かせば、全体が動く。

動かさなければ、何も変わらない。


「……」


一歩、踏み出す。

距離が、半歩縮まる。


「状況は見えているわ」


静かに、置く。


「なら、結論も出ているはずだ」


アルノーが重ねる。


「どこから、手をつけます?」


選ばせる声。

逃げ道は、ない。


「……」


息を整える。


答えは、ある。

だが、全部ではない。


「……」


口を開く。

その一語を、選ぶために。


——何を、任せるか。

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