表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
抱え込みすぎて壊れる前に消えた私が、別の世界でやり直したら  作者: 絵宮 芳緒
第ニ章|選ばれるということ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
21/90

第八話|動き出す場所

紙は、動かない。

同じ場所に、重なったまま。


「……」


誰も、手を出さない。

出せない。

線が引かれていない。

判断が、ない。


「……どうしますか?」


小さな声が、落ちる。


蛍光灯の白い光に、かき消されるように。


「……」


返事は、ない。

視線だけが揺れる。


机の上と、互いの顔を行き来する。


「……」


時計の針が進む音だけが、やけに響く。


規則的に、容赦なく。


「……」


誰も、動かない。

動けない。


「……」


紙は、そのまま。

触れられずに、残る。

流れは、ない。

繋がらない。


「……」


同じ場所で、すべてが止まっている。








音楽が、流れている。


弦の音が、天井の高みでほどける。


燭台の灯りが揺れ、床に金の光を落とす。


「……」


アリシアは、歩く。

裾がわずかに揺れる。

靴音が、やわらかく返る。


止まらない。

そのまま、進む。


「……」


視線が集まる。

今度は、逸れない。


触れるように寄って、そのまま留まる。


「……」


横に、気配がある。

変わらない距離。

一歩分の。


「……」


ルシアンは、何も言わない。

だが、離れない。


その位置を、崩さない。


「……」


アリシアの呼吸が、少しだけ整う。


胸の奥に残っていた硬さが、ほどけていく。


「……来るわ」


小さく、落とす。


「来させた、が正しいな」


穏やかに返る。

わずかに、口元が緩む。


「……強引ね」


視線を前に向けたまま、言う。


「必要なだけだ」


軽く返す。

それ以上は言わない。


「……」


人の流れが、わずかに変わる。

遠巻きに、距離を取るように。


「……」


二つの影が、近づいてくる。

迷いを残した足取りで。


「……」


バルドと、ソフィ。


「……」


少し手前で、足が止まる。

それ以上は、踏み込めない。


「……」


沈黙が落ちる。

音楽だけが、流れる。


「……アリシア」


バルドが口を開く。

声は抑えている。

だが、揺れている。


「さっきの件だが、少し話を——」


「必要ありません」


やわらかく、遮る。

声を荒げないまま。


「……」


言葉が、止まる。


「……すでに決まっています」


アリシアは、視線を外さない。


「ここで話すことはありません」


淡々と、それだけ。


「……」


バルドの手が、わずかに動く。

掴みかけて、止まる。


「……話くらい」


かろうじて、言葉を繋ぐ。


「聞く理由がないので」


柔らかく、重ねる。

だが、迷いなく。


「……」


ソフィが、一歩だけ前に出る。

不安を隠しきれずに。


「でも、あの——」


「あなたにも、同様です」


視線だけで、止める。

それ以上、続けさせない。


「……」


空気が、静まる。

ざわめきが、遠のく。


「……」


その時、わずかに気配が動く。


「……」


ルシアンが、半歩だけ前に出る。

それだけ。


だが——

視線が、集まる。

逸らせない形で。


「……」


何も言わない。

ただ、そこに立つ。


それだけで、十分だった。


「……」


バルドの足が、無意識にわずかに引く。

距離が、広がる。


「……」


アリシアは、静かに告げる。


「以上です」


一言。

それだけで、終わる。


「……」


視線を外す。

もう見る必要はない。


「……」


迷いなく、背を向ける。


「……」


その横に、ルシアンが並ぶ。

自然な位置へ。


「……」


アリシアへ、わずかに視線が落ちる。

一瞬だけ。


「……よくやった」


低く、小さく。

他には届かない距離で。


「……まだよ」


わずかに返す。

口元だけ、ほんの少し緩む。


「これからでしょう?」


「……ああ」


短く、笑う気配。


「その通りだ」


「……」


足音が、重なる。

揃いはしない。


だが——乱れない。


「……」


人の流れが、迷いなく二人を通す。


「……」


残された空間だけが、静かに冷えていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ