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抱え込みすぎて壊れる前に消えた私が、別の世界でやり直したら  作者: 絵宮 芳緒
第ニ章|選ばれるということ

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第五話|関係のない人

音楽は、変わらず流れている。

灯りも、同じように揺れている。


だが——

距離だけが、変わっている。


「……」


バルドは、歩く。

人の流れの中を、さきほどよりも速く。

確かめるように。


「……」


中心へ、灯りの集まる場所へ。


「……」


人が、自然に分かれる。

邪魔されるわけではない。

だが——通しはしない。


「……」


一瞬だけ、視線が向く。

すぐに、外れる。


「……」


それでも、止まらずに進む。


「……」


その先に、見える。


淡い金の髪。

揺れない姿。


「……」


アリシア。


「……」


その隣に、外務大臣。

さらに、その前に第二王子。


「……」


距離は、近いはずなのに。

遠い。


「……アリシア」


少しだけ、強く声をかける。

音楽に紛れないように。


「……」


彼女の視線が、ゆっくりと動く。

こちらへ。


「……」


止まる。

外さない。


「……」


その目は、覚えているものと同じだ。

だが——

温度が、違う。


「……話がある」


息を整えながら、バルドが言う。


「少しだけでいい」


「……」


アリシアは、答えない。

代わりに、一歩だけ距離を整える。

近づきすぎない位置へ。


「……」


それだけで、わかる。

ここから先には、入れないと。


「……」


それでも、言葉を続ける。


「さっきのは、どういうことだ?」


抑えた声。

だが、焦りは隠れない。


「……」


短い沈黙が落ちる。

だが、長く感じる。


「……決まったことです」


静かに、返る。


「……それだけか?」


思わず、言う。


「説明くらい——」


「必要ありません」


やわらかく、被せられる。

だが、迷いなく。


「……」


言葉が、止まる。


「……」


アリシアは、視線を逸らさない。

そのまま、続ける。


「あなたにお伝えする理由がないので」


「……」


胸の奥が、引っかかる。


「……俺は——」


言いかける。

何を言うつもりだったのか。

自分でも、わからない。


「……」


アリシアは、待たない。


「本件は、ヴァルディエール公爵家の管轄となりました」


事実だけを置く。


「以後の対応も、すべてこちらで行います」


淡々と、それだけ。


「……だから、何だ」


かろうじて、言葉を繋ぐ。


「俺には関係ないってことか?」


「……」


わずかに、間が空く。


「はい」


短く、それだけ。


「……」


音楽が、流れる。

灯りが揺れる。

人の気配も、消えない。


だが——

その一言で、すべてが切り離される。


「……」


バルドは、何も言えない。

言葉が、浮かばない。


「……」


アリシアは、視線を外す。

それ以上、続けない。


「……失礼いたします」


静かに、一言。

それで終わり。


「……」


迷いなく、背を向ける。

そのまま、第二王子の横へ戻る。

自然な位置へ。


「……」


バルドは、立ち尽くす。

手が、動かない。

声も、出ない。


「……」


呼び止める理由が、もう、ない。


「……」


関係が、ない。

ただ、それだけのこと。


「……」


音楽は、続いている。

灯りも、揺れている。


だが——

何もかもが、遠い。


「……」


バルドは、その場に残る。


一人で、置き去りのまま。

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