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抱え込みすぎて壊れる前に消えた私が、別の世界でやり直したら  作者: 絵宮 芳緒
第2章|選ばれるということ

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第4話|決定事項

音楽は、変わらない。


高い天井に触れて、やわらかくほどけていく。


燭台の灯りが揺れ、磨かれた床に細い光を落とす。


だが——

人の流れが、わずかに変わっている。


中心が、移る。

ゆっくりと、だが、確実に。


「……」


バルドは、その場に立っている。


動けないまま。


グラスの中の氷が、静かに溶けていく。


指先に残る冷たさだけが、やけに強い。


「……」


会場の奥へ、視線を向ける。


人が、集まっている。


押されたわけでも、呼ばれたわけでもない。


それでも、自然に。


引かれるように。


「……」


その中心に、立つ影。


黒髪に、わずかな白。

揺れない視線。

整えられた気配。


「……」


外務大臣。

それだけで、十分だった。


「……」


その隣に、淡い金の髪。


灯りを受けて、静かに光る。


動かない。

揺れない。


「……」


アリシア。


「……」


さらに、その隣。


わずかに前に出る影。

黒に近い濃紺の髪。

銀灰の瞳。


「……」


第二王子。

ルシアン・ヴェルノワール。


最近、帰国したと聞いている。


「……」


三つの位置が、揃う。

崩れない形で。


「……」


バルドの足が、わずかに動く。


一歩、踏み出す。


「……」


だが、止まる。

それ以上、進めない。


距離が、遠い。


「……」


声が、落ちる。


「外務大臣閣下」


抑えられた声。

だが、明確に。


「……」


空気が、引き締まる。

それだけで、十分だった。


「……」


外務大臣が、視線を巡らせる。

個ではなく、全体へ。


「本件について」


低く、落ちる。


「方針は定めた」


短く、それだけ。


「……」


誰も、口を挟まない。


「ヴァルディエール公爵家が引き取る」


淡々と続く。


「以後の判断は、こちらで行う」


「……」


それで、終わる。

異論は出ない。

出せない。


「なお……」


わずかに続く声。


「これまでの取り扱いについては、見直す」


「……」


空気が、わずかに揺れる。

誰も、問い返さない。

意味は、共有されている。


「……」


バルドの喉が、わずかに動く。

言葉にならない。


「……」


少し離れた位置で、低い声が交わる。


「……今の、どういう意味だ」


押さえた声。


「見直す、というのは——」


「声を落とせ」


すぐに、遮られる。


「……ですが父上」


焦りを抑えきれない。


「ヴァルディエール公爵家の後ろ盾が——」


「わかっている」


短く、切られる。

それ以上は、続かない。


「……」


視線が、自然と中央へ戻る。


外務大臣。

その隣の令嬢。

そして——第二王子。


「……」


言葉にしない。

だが、理解している。


「……まずいな」


小さく、落ちる。

確認ではない。

結論。


「……」


バルドの父は、何も言わない。


言えない。

視線を伏せる。


「……」


兄の手が、わずかに握られる。

だが、すぐに緩む。

ここでは、何もできない。


「……」


その沈黙が、すべてを示していた。


「……」


視線を中心へ戻す。


「……」


アリシアは、動かない。

ただ、そこに立っている。


それだけで。


「……」


第二王子が、わずかに位置を整える。


出すぎない。

だが、外れない。


「……」


三つの影が、揃う。

崩れないまま。


「……」


遠い。


さっきまで、手が届いていたはずの距離が。

今は、届かない。


「……」


外務大臣が、踵を返す。

終わりの合図のように。


「……」


人の流れが、迷いなく動き出す。


「……」


音楽は、続いている。

灯りも、揺れている。


だが——

すべてが、変わっている。


「……」


バルドは、その場に立ち尽くす。


取り残されたまま。


「……」


すでに、終わっていることに気付きながら。

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