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抱え込みすぎて壊れる前に消えた私が、別の世界でやり直したら  作者: 絵宮 芳緒
第一章|壊れる前に消えた私

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第十二話|触れたままの均衡

足音が、重なる。


揃いはしない。

それでも、乱れない。


「……」


アリシアは、前を見る。


歩みは変わらない。

止めない。


「……少しだけ」


隣から、低く、静かに声が落ちる。


「力を抜け」


「……」


視線だけを動かす。


「命令かしら?」


わずかに返す。


「提案だ」


すぐに返る。


「却下する理由は?」


「……今は、止めたくないの」


短く、それだけ。


「止めろとは言っていない」


声は変わらない。


「張り続けるなと言っている」


「……」


言葉が、少しだけ遅れる。


返さない。

返せないわけではない。

ただ、探していない。


「……」


ルシアンの手が、わずかに動く。


触れない。

だが、距離は近い。


「……」


アリシアの指先が、意識しないまま緩む。


「……それでいい」


小さく、落ちる。

それ以上は、続かない。


「……」


歩みは、変わらない。


だが——

ほんのわずかに、軽い。


「……」


廊下の先に、人の気配が増える。


視線が集まる。

揃った所作。

整えられた動き。


「……」


ルシアンの位置が、少しだけ前に出る。


半歩、それだけ。


「殿下」


声が落ちる。

抑えられている。


だが、明確に。


「帰国なさっていたのですか」


「つい先ほどな」


軽く返す。


そのまま、アリシアへ視線が流れる。


「ヴァルディエール公爵令嬢」


丁寧な声。


「今回の件について——」


「今は現場を優先しているわ」


柔らかく、被せる。

だが、外さない。


「後で」


それ以上は与えない。


「……」


相手の言葉が、止まる。


「……しかし」


わずかに食い下がる。


「王都全体に関わる問題です」


「承知しているわ」


声は変わらない。


「だからこそ」


視線を外さないまま。


「止めていない」


「……」


言葉が続かない。


「……」


ルシアンが、わずかに前へ出る。


「話は後で聞く」


低く、落とす。


「今は、動いている」


短く、それだけで十分だった。


「……承知しました」


一歩、引く。

それで終わる。


「……」


再び、歩き出す。

止まらない。


「……」


背後の気配が、変わる。


整っていたものが、わずかに動き始める。


「……」


アリシアは、息を整える。


「……来るわね」


小さく、落とす。


「当然だ」


隣から返る。


「止まっていたものが動けば」


少しだけ間が空く。


「上も動く」


「……」


否定しない。

できない。


「……父も」


わずかに、言葉を置く。

それ以上は続けない。


「……」


ルシアンは、何も聞かない。

ただ、前を見る。


「……」


それで、十分だった。


「……」


アリシアは、視線を上げる。


止まらない。

止めない。


「……」


足音が、続く。


重なる。

揃いはしない。


だが——乱れない。


「……」


触れてはいない。


それでも、距離は変わらない。


「……」


そのまま、進む。


均衡を崩さないまま。

次の場所へ。

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