ようこそ!夢の世界へ!
ここから本編が始まります。この話は第一話のプロローグと大まかな内容が被っておりますが、読んでいただけたら幸いです。よろしくお願いします!
私は、走っていた。
森のような場所を、走っていた。
一見すると森のようだが、そうじゃないようなそうであるような、なんとも言えない感じだ。
自分の目はもちろん、テレビやネットなどでも見たことの無い色をした木々、そして、その隙間から覗くピンクや紫色などの禍々しい色をした空、足元から伝わるのは、やけにクッション性のある地面。
ここは、どこなのか。
そんなことを考える暇もないほど、私は走っている。いや、私は逃げている。
「だれか......だれか!助けて!!」
涙が溢れてきた。
*
気がついたときには、すでにこの森の中にいた。訳が分からないまま、呆然としていると、近くの草むらから物音が聞こえた。
私はすぐにそちらを振り向こうとした。
しかし、振り向けなかった。
それは、恐怖から。
その存在はこちらを敵視しており、絶対に敵わない、そう直感させた。
それは、嫌悪感から。
まるでゴキブリを見たかのようなおぞましい感覚。
私は、その姿を見ずに駆け出した。
あれから、どれだけの時間、走っただろうか。
自分にこれほど体力があったのかと驚くほど、走った気がする。
しかし、限界は訪れ、足がもつれて、私は転んだ。
幸いなことに、クッション性のある地面のおかげで、痛みを感じなかった。おそらく、怪我もしていないだろう。
ほっとしたのも束の間、後方から先程の感覚を感じると共に物音が聞こえた。
私は、地面にへたりこんだまま、逃げられないと悟り、とうとう振り返ってしまった。
そこにいたのは、ウサギだった。
体毛はピンク色で可愛らしさをアピールしていて、まるでぬいぐるみのようだ。
しかし、そのサイズは大型犬ほどであり、可愛いとは全く思えない顔をしている。
何より、一際、目を引くのがその額から生えた悪魔のような角である。その先は鋭利であり、最初に感じた嫌悪感や恐怖は、特にそこから感じられる。
「ひっ、ひぃん......」
私は、助からない。
そう思い、声を上げて泣き出した。
そんな様子を見たウサギは、ニタリとした表情を貼り付けてこちらに角の先端を向ける。
私は、目をギュッと閉じ、時が来るのを待った。
......しかし、その時は一向にやってこない。
怪訝に思い、目を開けるとウサギがいたはずの場所には、私よりも小さな女の子がいた。
「あ!ごめんね、遅れちゃって。もう少し遅かったらやばかったかも」
女の子がこちらを向き、私の顔を覗き込みながらそう言った。
「色々と聞きたいこと、言いたいことあると思うけど、それは一旦置いておいて、まず一言だけ言わせてね」
置いておけるわけが無い。ウサギはどこに行ったの?あなたは誰なの?ここはどこなの!?そう思うが、先程まで泣いていたために声が出ない。
女の子は、言うことを聞いて貰えたと考えたのか、立ち上がり、両腕を広げた。そして、こほんと咳払いをし、こちらを見下ろし、笑顔を向ける。
「ようこそ!夢の世界へ!」
その笑顔はとても可愛らしいはずなのに、なぜだかとてもおぞましく感じた。
「夢の、世界......?」
私は訳も分からないまま、ただ、女の子の言葉を反芻した。
「そう、夢の世界だよ!和泉友夢ちゃん」
女の子は、またここが夢の世界だと言い、そして驚くことに、教えた覚えが無いのにも関わらず、私の名前を口にした。
女の子は、さらに続けて、私を驚愕させた。
「それと、ついさっきまで、お友達も来てたよ!苺谷ももちゃんとー、愛洲美瑠玖ちゃんに心愛ちゃん、堀江クレアちゃんと、後は......三葉黄菜子ちゃん」
女の子は薄ら目を開けて、ニタリと笑みを浮かべながら、幼なじみ五人組の名前を口にした。しかも、その五人はついさっきまでこの世界にいたと言う。
そんな馬鹿なとは思うが、実際に名前を知っており、先程から現実にはない体験をしてしまっている。
「皆は!皆は、無事なの......?」
先程までの体験を思い出し、皆が危険な目に遭遇していないかが心配になった。あんなに恐ろしいウサギがいたのだ。心配して、当然だろう。
「あれ......そういう感じ?あ、気にしないで、こっち話だから!......えっとね、皆は無事に帰ったし、もうこの世界の説明もおわったよ!というか、その五人に説明しててユユちゃん助けるの遅くなったんだー。ごめんね?」
よかった、皆は無事らしい。そのことに一安心すると、先程の皆にこの世界の説明をしたと言っていた事が気になってきた。この子......女の子はこの世界において何なのだろうか。
「それじゃ、ユユちゃんにも説明するねー?」
「あ、ちょ、ちょっと待って」
「うん?どしたのー?」
私は説明を始めようとする女の子を慌てて止めて、そのことについて質問をした。
「それより、あなたは誰なの?」
女の子は、目をまん丸にして、キョトンとした。
「えへへ、ごめんね!すっかり忘れてたよ!」
にっこりとした笑みを浮かべ、女の子は続けた。
「エミはね、エミ!」
私が、自己紹介をしているエミに注目していると、エミの様子が変化していった。
頭には、この世界で初めて出会ったウサギに生えていたものに似た、悪魔のような角が二つ。
背中には、その体のサイズには合わない蝙蝠のような小さな羽が一対。
お尻の上の方には、黒くて艶のある細長いものがのびており、先端にハート型のものがついた尻尾が一本。
そして、全身には、禍々しい紋様が浮かびだした。
「夢の世界の、支配者だよ!」
*
逃げなきゃ、そう思うと同時に、逃げられないとも思った。
見た目はとても可愛い小悪魔のはずなのに、ウサギよりも圧倒的なほどに強い恐怖。それは、先程のウサギは角から感じられたが、目の前の女の子は全身から感じられる。
そんな、恐怖の塊のような女の子、エミがこっちににっこりとした笑みを向け、目を合わせてくる。まるで蛇に睨まれた蛙のような気分だ。
こんな状況のため、少し気を緩めれば気を失うことが出来そうな気がするが、エミの目がこちらを向いている限り叶いそうにない。
私から質問したにもかかわらず、何も言えず、何も出来ずにいた私に対して、エミは気にした様子もなく、笑顔のまま続けた。
「それじゃあ、時間もやばいから説明するよ?そのまま静かにしててね。ちょっとだけだからね!」
そう言ってエミは説明を始めた。まとめると、次のようになる。
まず、この世界で三十日間、夜に寝ている間の一日一時間、夢の世界に呼び出されるため、生き残ること。
そして、必ず友達、全員の力を合わせること。
以上である。
「どーお?何か質問、ある?」
エミは、質問を訪ねてくると同時に、角や尻尾などの禍々しいものを消した。
そのことにより、私は、エミから感じる圧倒的な恐怖がなくなり、声を出せるようになった。まだ少し怖いけど。
「さっきのウサギみたいのから、どうやって生き残ればいいの......?」
これは、本当に気になることだ。ついさっきまで私は逃げることしか出来ず、近くに来るまで気付くことすら出来なかった。そんな相手にどう生き残れと言うのだ。
「うん?あれ?何かこれができる!っていう感覚、なーい?」
エミは心底、不思議そうにこちらをみた。しかし、そんな事言われても何もわからないし、何も出来ない。
「えっと、なんのこと?」
「うーん、じゃあこれならどう?」
エミは、右手を前に出した。その途端、その場にはあのウサギが出現した。
「ひっ、いやぁぁぁ!!」
そのウサギからも、当然、かなりの恐怖感を覚えた。それに加え、さっきまでの体験を忘れていなかったことで咄嗟に声が出た。
「落ち着いてー」
エミはそう言うと、角や尻尾などを全部出した。
そうなると、私はもちろん声すら出なくなった。
なんだ、私を怖がらせてそんなに楽しいのか。私はちっとも楽しくない!怖いよ!やめてよ!
私が頭の中でそんなことを考えていると、エミがウサギの角を鷲掴みし、こちらに問いかけてきた。
「これでも、何か出来る感覚ない?」
私、声出ないんだけど。怖いです。
「すごく怖いのは、最初の方だけだよ?もう慣れたと思うんだけどなー......」
エミは、ウサギをこちらに突き出し、どうなのかと問い詰めてきた。
「えっと、あ。なにか出来そう......あれ、でも」
私は、エミの方を見た。ウサギだけでなく、エミにもその感覚があったのだ。
その視線に気づいたのか、エミが口を開いた。
「ありゃりゃ、怖がらせすぎてたかな?ごめんね!けど、それなら大丈夫そうだね!他になにかある?」
エミは、誤魔化すように矢継ぎ早に言葉を放ち、次の質問を催促する。
私は、考えまいと、そう考えていたが、絶対に聞いておかなきゃいけない質問を恐る恐る投げかけた。
「......生き残れってことは、私、失敗したら、死んじゃうの?」
そう。生き残れと言われたのだ。それは、まるで何かあったら死んでしまうように聞こえる。いや、事実そうなのだろう。私が、なぜこんなことに巻き込まれたのかを考え始めたとき、エミの声が聞こえた。
「え?いや、そんなことないよ?」
それは、素っ頓狂な声で、言外に何を言っているんだと言われた気がした。私は、ばっと顔を上げると、エミの顔は言葉通りの表情をしていた。
これに対して、私は死んじゃうことは無いんだと、安心したが、それは少し早かったらしい。
「だって、夢の世界だよ?現実の物に対して何にも影響しないし、すぐに忘れちゃう。けど……それだったらこんなことやる意味、ないよね」
エミは言葉を続けた。先程までのにっこりとした笑みを、ニタリとしたものに変えて。
「もし、この世界で死んじゃったら......あなた達にとって、大切なものを奪わせてもらうよ」
エミは、その表情をまたすぐににっこりとした笑顔に変えた。
しかし、そんなことはとてもじゃないが気にならなかった。それよりも、エミは、何と言ったのか。大切なもの。私にとって、大切なもの……!
「モモちゃん達に、何をする気なの!?」
エミは、私の言葉に一瞬、虚を突かれたような顔を見せたが、感心したような呆れたような声音と表情で話し始めた。
「ここで、お友達のことが一番に出てくるなんて。すごいね!」
私は、私だけでなく、モモちゃん達との友情のことまで馬鹿にされたような気分になり、怒りのあまり先ほどの恐怖も忘れて、とっさに声が出た。
「早く答えて!!」
「さっきまで、あんなにブルブル震えて、怖がってたのに」
「茶化さないで!」
エミは、さっきから私のことを煽っているのだろうか。もはや、素のように思えてきた。
エミはどうして怒っているかわからないとでも言いたいような態度で返答をしてきた。
「もぉ、現実の物に対しては影響しないって言ったでしょ?それに、それだけ大切な友達なら、ちゃんと協力して生き残れるはずなんだから気にしなくていいじゃん」
拗ねるような彼女の言葉にひとまず、納得しておくことにした。現実には影響しないなら問題ないだろう。うまく乗せられたようにも感じるが、そうだ、私とモモちゃん達ならできるんだ。私が、そう意気込んで、彼女への怒りをすっぱりと忘れていると、正面の方でエミが動く気配を感じた。
「ごめんね、そろそろお別れの時間みたい」
小さな足でステップを踏むように踵を返し、彼女は笑顔でこちらに振り向く。
「ばいばい、また明日」
かわいい。私は、先ほどまで、恐怖や憤りを感じていた相手に対して、そう素直な感情を抱き、エミの女の子らしさを実感した。
ここで私の意識はだんだんと薄れていった。
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