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夢見るロンリーガール 〜Dreaming Lonely Girl〜  作者: 樹唯
第一章 ロンリーガール
30/31

思い

よろしくお願いします!

 私は、独り、取り残された。


 正面にはユニコーンがいる。しかし、私のことは興味ないようだ。そのまま、寝てしまった。


 この後、どうしようか。ほとんどの時間が残ってしまっている。この世界を見て回るのもいいだろうか。


 ……皆、いなくなってしまったが、どうにも実感がわかない。これもまた、夢の世界での出来事だからだろうか。


 私は、心が、感情が、行く先が定まらないまま、歩き出す。



「どーこ、行っくの♪」



 毎度おなじみ、いつものように突然現れるエミの方を向く。



「……なに?」


「あれ、ユユちゃん。雰囲気変わった〜?まあ、いっか!それより、これ聞こえないの?」



 エミの言葉に周囲の音に耳を傾ける。すると、なぜ気づかなかったのかが不思議なくらいの大きさで、鐘の音が鳴っていた。



「何の鐘?これ」


「終わりの鐘だよ〜?」


「まだ、時間じゃないと思うんだけど」


「ううん、おしまい!一人になっちゃったからね!言ったでしょ?皆で協力して生き残ってねって。それに、現実ではもう互いのことを覚えてられないからね!」



 今更になって、ゲームオーバーの条件が判明した。それは、後出しで狡くないかと思う。



「まぁ、普通ならそうなんだけど、ユユちゃんが一人生き残った場合はちょっと違うんだー」


「どういうこと……?」


「まぁまぁ、そこはおいおい説明するよ!」


「おいおい?」


「そそ。ユユちゃんには、この世界の説明をしてあげるから、そこでねー」



 エミはそう言うと、さきほどまでのほんわかとした雰囲気を急変させて、真剣な表情でこの世界の目的を説明し始めた。



「この世界の目的は、いじめを解消することにあるの」


「いじめ?」


「そう、いじめ。ねぇ、ユユちゃん。いじめって何が原因で起きると思う?」


「……人間関係」


「もちろんその理由はいっぱいあってそれもなんだけど……エミはそれらをひっくるめて、環境こそ一番の理由だと思うの。ユユちゃんの言う通り周囲の人間、他にもちょっとした生活の変化……そんな自分ではどうしようもないことでいじめは起きる。だったら、そんな環境をリセットすれば良い。その人にとっての環境がグループによって作られるなら、そのグループの人は互いのことを全部忘れちゃえば良い」


「……だから、みんなの記憶を消したって言うの?」


「そうだよ。ユユちゃん、いじめられてたからね。あんな奴らの記憶なんて、奪っちゃえばいい。そうすれば、全て一からやり直せる。いじめを作り出すグループだってなくなってるからいじめられる危険もなくなる」



 そう告げるエミの目を黒く、私を見ている気がしない。


 しかし、エミの発言に私は少し、反論をする。エミの勘違いを、私は正さなければいけないからだ。



「私はいじめられてなんかいない。それに、どうして、そこまでやるの?いじめらてる本人に原因があることだってあるでしょ」



 そう、私はいじめられてなんかいない。その証拠にモモちゃんは変わらず接してくれたんだ。それに、他の皆とも、少しすれ違いがあって避けられていただけだ。それくらい、自分の力と時間で解決できたはずなんだ。見当違いなことをまるで本当のことのように言わないでほしい。


 しかし、そんな私に対して、エミは冷静な態度で返してくる。



「そんなの、何が嫌なのか言われなきゃわからないでしょ。勿論、本人が確実に悪い場合もあるけど……だからと言っていじめても良いわけがない。そのことを本人に言う、周囲の人間に相談する、それでも改善しないなら、本人に自分達の意思を伝えて関わらないようにすればいい。それでも付き纏われるなら、それこそいじめられてるって言ってもいい……あと、ユユちゃんはいじめられてたよ。これからもっと酷くなってた。この世界に呼ばれるのはそういうグループだけなんだよ。それに……キナコちゃんも全部言ってたのに無理があるよ、ユユちゃん」



 キナコちゃんの言っていたこととは、最後に話していたことだろうか。別に修学旅行で一緒になれないくらいよかった。悲しくないと言ったら嘘にはなるけど、一人になるよりはよっぽどマシだ。だから、この問題はこれで解決したはずだ。



「……それより、私の記憶はどうなるの?」


「あはは!話、逸らしたね〜……だめ、逃がさない。ねぇ、ユユちゃん。いつまでそれを言うつもり?」


「……それってなに?」



 エミは笑ったかと思えば、すぐに顔を真剣なものへと変えた。



「いじめられてないってこと。ユユちゃん、さっきも言ったけど、この世界はね、いじめられてる子を救うための世界なの。だから……ユユちゃんのできること、そんなに弱いもののはずがないんだよ。つまり……ユユちゃん、嘘ついてるよね?」


「……私はいじめられてないから、弱いんだよ」


「……はぁ。その強さってね、そのできることを最大限に使えば、ギリギリこの世界を一人で生き抜くことができるかどうかくらい強いんだよ。つまり、その気になればユニちゃんだって何とかできるの。ユユちゃんがちゃんと協力してたら、苦戦はしても、誰一人いなくなることはなかったんだよ?」



 エミは呆れたまま、いじめられている子の強さを示した。



「ねぇ、もう一回聞くよ?ユユちゃん、情報がわかるだけなんて嘘だよね?」


「……」


「まだ、だんまりなの?……よし、それじゃあ、予想してあげる!えっとねぇ〜……まずは、情報がわかるのは本当だよね?けど、時間ってところが嘘かな!見ただけで全部わかるんでしょ!あとは〜……」



 エミは、それから色々と自分の予想を好き勝手に述べた。荒唐無稽なものから、私のできることから考えられることまで、様々だ。それでも、私が黙っているとエミはまたため息をついて続けた。



「はぁ……ユユちゃん、エミね、何も適当に言ってるわけじゃないんだよ?エミはこの世界の支配者だよ?起こったことなんて全部知ってる」


「全部?それこそ嘘でしょ。だって私のできること、わからないじゃん」


「いいから、聞くの!!」



 エミは私の言葉に少し苛立ちをみせると、先程までの私を諭すような雰囲気を変えて、もういいやと呟くと、ニタリとした笑みを浮かべながら自分の見てきたことだと言うことを並べていった。



「えっとね〜、初めてユニちゃんと会ったとき、ユユちゃんが見てた人をユニちゃんが攻撃してたよね!」


「それと、モモちゃんのときは、ユニちゃんが転んでたけど、どうやってユニちゃんを転ばしたのかな?ユニちゃんがあんな転び方するはずがないんだよね〜」


「あとねあとね、ミルクちゃんのとき、ミルクちゃんがユユちゃんのことを庇うまでユニちゃんの動きが止まってたのは何で〜?都合よく近くにいたのも、ユユちゃん、もしかしてわざとミルクちゃんの近くで寝っ転がってたんじゃない?」


「あとは〜……あっ、二人がいなくなって残った三人にハブられてたのに、一度もエミのお友達に襲われなかったことと、誰も不思議に思ってなかったのが不思議だった!!ねぇねぇ、あれどうやってたの!?あんなことがいつでもできるはずないから、何か条件でもあるのかなっ?」



 エミは私の肩を揺すりながら、自分の疑問を叩きつけてくる。私は目を見開きながら、思わずエミの顔を見ると、エミはニタリとした笑みをさらに邪悪にした。口の端をつりあげて、まるで三日月のような口元だ。そして、私の耳元でこう囁いた。



「ユーユちゃん♪『ふ・く・しゅ・う』楽しかったね♡」



 私の中で、何かが弾けた。



「あんたが!!!あんたが、この世界にさえ呼ばなければ……!!!!こんな事にはならなかったんだ!!!!!」


「あはは!!!ユユちゃん、怒った〜!!やっと、人間らしい反応したね〜。それと、それ、認めたって事でいいかな?」


「うるさい!!」


「やっぱり、嘘だったんだね〜。ユユちゃんの嘘つき〜!」


「黙ってよ!!!」



 私は煽り続けるエミに向かって掴みかかった。エミがいなければこんなことにはならかったはずだ。私は全ての怒りを込めて詰め寄る。


 しかし、私の体はエミをすり抜けた。掴みかかった手から地面につき、派手に転ぶ。



「ありゃ、やりすぎちゃったかな?かな?残念!ユユちゃんからはエミのことは触れられないよ!!」



 何もできない悔しさ、叩きつける行き場をなくした怒り、ここに来て実感したみんなを失った悲しみ、様々な感情がごちゃまぜになって涙へと変わる。


 それでも煽るような話し方をするエミをぼやける視界のまま、私は睨みつける。


 そんな私に根負けしたのか、エミはニタリとした笑みを、困ったような優しげな表情へと変えた。



「さてさて、ここで話が戻るんだけど……いじめられてた子が生き残った場合、つまりユユちゃんには選択肢があるの。一つは、この世界のことも皆のことも全部忘れちゃう選択肢。もう一つは、この世界での皆との会話、そして現実で皆のことを覚えたままにする選択肢。ねぇ、ユユちゃん、どっちがいい?」



 先ほどとは打って変わったエミの優しげな言葉は、なぜか私の頭へとすっと入ってきた。



「どうして……覚えてられる選択肢があるの?」


「いじめられないためだよ。今後、似たようなことがあっても、対処できるように」



 エミによって突然与えられた選択肢の意味は理解した。そして、私の口から言葉が、漏れ出てくる。



「……私がこの世界に来て、初めてモモちゃん達にあったとき、モモちゃん達の考えてることとか、感情とか……全部、わかったの。モモちゃん以外の皆は、私のことを邪魔に思っていて。それどころか、クレアさんはほとんど興味がなかったみたい。だからかな、四人の中でクレアさんだけは名前を呼んでくれたの。それでね、モモちゃんはね、悩んでたみたいなんだ。キナコちゃんに持ちかけられた提案を。悩んでた、んだって……」



 私はここで、涙を堪えきれなくなってしまった。



「モモちゃんも、私のこと、邪魔だったんだって!私、何も悪いことしてない!!ただ、皆と仲良くしようとしただけなのに!!どうして、こんな目に合わないといけないの!?どうしたら、こんな目にあわないで済んだの!!?」



 私は今までの思いを全部、叫び、口にした。そして、少し落ち着くと出会った頃からのことを思い出しながら話を続けた。



「……今思えば、現実でもそうだった。ココアちゃんはあまりミルクちゃんと仲良くして欲しくなさそうだったかもしれない。クレアさんは、私から話しかけなきゃ、会話すらなかったかもしれない。キナコちゃんは、丁度いい距離感なんかじゃなくて、露骨なほどに避けてたのかもしれない……ねぇ、これじゃあ、私、一人ぼっちだよ……」



 私は泣きながらエミにお願いをする。



「エミ、お願い……もう、全部……終わらせて」



 エミは私のお願いにニッコリと笑って答える。



「任せて!辛かったね、苦しかったね……そんなこと、全部忘れさせてあげる。エミは、いつだっめいじめられてる子の味方だから!」



 そう言って、エミは泣きながら座り込んでいる私に一歩ずつ歩いて近づいてくる。そして、右手の指を閉じて、自身の左肩あたりまで掲げる。


 その手が勢いよく斜めに振り下ろされ、私の首元へと迫る。このまま、私の首は刎ねられるのだろう。最早、抗うことなど不可能だ。


 私はエミの顔を見る。ニッコリとしていて、可愛らしく、心から私を救おうとしているのだろう。


 その顔を見たまま、私はエミの手を受け入れる。


 エミの手が私の首へと当たり、振り抜かれる。


 その直前。


 私は、口の端をつりあげて三日月のようにして。


 エミのような、ニタリとした悪辣な笑みへと変えた。


 首が、地面に落ちた。


 ゴトリと、音が二回鳴る。


 エミによって刎ねられた私の首だけでなく、もう一つ、その場に首が転がる。


 私はその事に満足して目を閉じ、自身の体が光の粒子へと変わるのを待った。


 しかし、時間がいくら経っても消えないことに疑問を持つ。それどころか、自分の体に感覚があることに気づいた。そのとき、私の側から笑い声が聞こえてきた。



「……ふふふ、あはははは!!!すごいね、ユユちゃん!!私、首が離れるなんて初めてだよ!!ねぇ、これ、どうやったの!!?すごーい!!」



 私は目を開けると、目の前の状況を理解するのに数秒の時間を要した。


 首が落ち、体が倒れながらもこちらを向いてにっこりと笑いかけるエミ。


 見事に顔が向き合う形で落ちたらしい。


 なぜ、喋れている。私は、なぜ、消えていない。



「あ!ねぇねぇ、ユユちゃんも驚いてるの!?そっかぁ、そうだよねー。エミね、体ないんだよ?知ってるでしょ?さっき、掴みかかってきたじゃん!だからね、首が切れたくらいじゃ、何ともないよー?」


「……なんで、同調は成功したはずなのに……どうして、どうしてよ!!」


「あ、それがユユちゃんのできること?ねぇ、そうなの?」



 エミの言葉は私の耳に入ってこなかった。何か尋ねられているようだが、私の頭怒りと絶望によってぐちゃぐちゃになっていて理解できない。



「絶対に、エミだけは、絶対に許さないって決めたのに!!!」


「それこそ、なんでよー?エミは味方だよ?」


「エミがこの世界に呼ばなければ、エミさえいなければ!!皆のことに気づくこともなかったんだ!!!全部、全部、全部全部全部全部全部、エミが悪い!!!!!」


「あはははは!!!なにそれ、責任転嫁ってやつ?そんなのだめだよー……悪いのはモモちゃん達、でしょ?」


「違う違う違う違うぅぅ!!!」



 エミは、自分の言葉を聞き入れない私にいらついた様子を見せ始めた。



「喚いて、騒いで、悪いのは全部一人だって……それは、酷いんじゃないの?現実に目を向けないでいじめてた人じゃなく、手を差し伸べたエミのことを責めて。そんなことしてたら、嫌われちゃうよ?それでもいいの?いや、そんなのエミが許さないよ?また、この世界に来たいの?」



 私は、喚いて騒いで少しだけスッキリした頭で何とか聞き取れた、エミが悪いのではなく私をいじめてたやつが悪い、むしろ、エミは救ってあげてるというエミの言い分に反論する。



「あの化け物は!!エミの友達なんでしょ!!?あんなにたくさんの友達と寄ってたかって私たちを襲って、笑って、それこそいじめなんじゃないの!!!?」



 これはエミの地雷だったのだろう。今までに一度も感じたことないほどの威圧感、恐怖感を私に与えながら、エミは顔を真っ赤にして、私へと怒った。



「な、あ……!!!!?エミを!!あんなクズどもと一緒にするなぁぁ!!!」



 エミは先程まで倒れていた体を起こし、私の頭を蹴り飛ばした。


 衝撃と共に私の世界がぐるぐると回る。少し気持ち悪さを残したまま、私は私の体を含めてその場全体が見えるところまで転がった。


 体が見えてしまえば、なんとか体を動かすことができた。そして、エミに掴みかかるも、やはり私からは触れることができない。


 しかし、それと同時であれば向こうからも接触できないようだ。私はエミの動きを封じる腹づもりで何度も何度もエミに触れようとする。



「エミが、いじめなんかするわけないでしょ!!!?ユユちゃんは、エミのことも全部知ったんでしょ!!!?どうして、そんなことが言えるの!!!!??」


「知ったからなに!?誰かにいじめられたら、誰かをいじめてもいいって言うの!!?」


「だから!!あれは、いじめなんかじゃない!大人が見て見ぬふりをするから、いじめの危険に晒されてる周りの子供に責任を押しつけるから!!だから、誰かがやらなきゃいけないの!!じゃなきゃ、他にどうしろって言うの!!?」



 エミの考えが伝わる。よくわかる。私はエミの全てを知ってしまったから。誰よりもいじめを憎んで、嫌って、目を背けたくて。それで、どうしようもなくなって、今の姿になった後でも、こうして足掻いている。


 私とエミは、互いに息が切れて、燃え尽きたかのように一度静かになる。


 そして、私は、



「……それでも、私はエミを一生許さない。絶対に、絶対に。その覚悟も、あるんでしょ?ねぇ、受け止めてよ……」



と、本当はわかっていても、それでも、行き場の失った気持ちをエミに受け止めるように懇願する。



「……そう。それなら、そこまで言うなら……ずっと許さなくていいよ。だから……忘れさせてあげない。エミを、この世界を、ずっと覚えてて。もう、逃がさないから」



 私には、エミの気持ちがわかる。わかってしまう。今だけじゃなくて、これまでも、これからも。だから、



「……ありがとう」



と、色々な意味を込めて、この一言を一応、贈っておくことにした。

ありがとうございました!

もし、面白いと感じたり、これからも読みたいと思ったりしていただけましたら、ぜひこの下にある☆評価やブックマークなどで応援していただけると嬉しいです!

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