モモちゃん
よろしくお願いします!
「あの……!」
そう、意を決したように話しかけてくれた人物の方へと振り向くと、そこには可愛らしい少女がいた。
私も誰かに話しかけようとしていたところであったので、少し意気込んでいたこともあり出鼻をくじかれたように感じもしたが、それと同時にラッキーだと思った。
「えっと、私かな?どうしたの?」
と、返事をすると、向こうは少し困惑した顔を見せた。
「あ、え、どうしたのって……私が言いたかったんだけどー」
「え?」
「えっとー、さっきから困ったり、悩んだりした顔してたからどうしたのかなーって……それで、つい、話しかけちゃったんだけど」
私の考えは、顔に出ていたらしい。恥ずかしい!と、そう思ったとたんに顔が赤くなっていくのを感じる。
「あはは、顔、赤くなってるよ~」
「やめて~!恥ずかしい……」
そう赤くなっている私に、まぶしいくらいの笑顔を向けながら少しからかってくる。人ってからかうときはニヤニヤすると思うんだけど、とてもかわいい笑顔だ。
「ごめんねー、からかっちゃって。けど、やっぱり何か困ってたのはほんとみたいだねー、どうしたの?」
少女は、謝りながらそう言って私のことを心配してくれた。
「あ、えっとね、実は筆箱を忘れちゃって。けど、初日だし何か書いたりすることもないかなって。だから悩んでたんだけど、そこに、えっと、あなたが話しかけてくれたの。ありがとう!」
「そうだったんだー、よかったら何かいくつか貸すよ?」
「いいの?ありがとー!えっと、そういえば、自己紹介まだだったね。私はユユ。和泉友夢だよ!」
「私は、苺谷もも。よろしくねー!」
こうして私とモモちゃんは互いの名前を知ったのだった。
*
「それじゃ、和泉さん。シャーペンとか消しゴムとか貸すよー。他になにがいるかなー?」
と言って、苺谷さんはカバンの中を探し始めた。
「あ、良ければユユって呼んで?今までもそう呼ばれてたから」
私がそう名前で呼んでくれるかなと期待を込めて言うと、
「そうなのー?じゃあ、私もモモでいいよー……ってあれ?」
と、快く承諾し、自分も下の名前で呼んでいいと言ってくれた。しかし、それからカバンを探している様子がおかしくなり、中のものを全部出し始めていた。
「あれ、モモちゃん、どうしたの?荷物全部出して……」
カバンの中身を全部出していることから、私は何となく予想はついていたが、そうたずねた。
その答えは予想通りで、
「ごめんユユちゃん……私も筆箱忘れちゃったみたい」
と、モモちゃんも筆箱を忘れていたことが発覚した。
ま、まあ、初日だし?筆箱使わないよね!?
そう思ってみたはいいが、私は、モモちゃんになんて声をかければいいか迷っていた。
荷物を出し始めたあたりで、ひょっとしてとは思っていたが、もともとなくても大丈夫だろうと思っていたから問題はない。
しかし、貸して頂くという立場であった私からは少し話しかけづらい状況にあった。というのも、モモちゃんは顔が真っ赤になっているのである。
さっきからかわれた仕返しはしづらいし、恥ずかしいことに対して下手に慰めてもますます、恥ずかしくなるだけのような気がする。そう悩んでいると、
「ご、ごめんねー!私から貸すって言ったのに、ちょっと他の人に借りてくるよー!」
と、そそくさとした動きで他の人に借りに行こうとしていた。これに対して私は、
「待って待って、大丈夫だから!?」
と、慌てて止めた。モモちゃんはそんな私の方に、まだほんのり赤い顔を向けて不思議そうな顔をした。
私は、そんな顔をするモモちゃんこそが不思議なのだが、そのまま続けた。
「だって、入学式の後で知り合いもいないでしょ?そんな無理してまで借りなくても……多分、自己紹介とか、なんかの説明とかだと思うし、ね?」
モモちゃんは、そういう私を見ながら不思議そうな顔をさらに深めた。と、思ったとたん何かに納得したように顔をほころばせた。
「え、ふつうにいるよー……?あぁ!そういえば、ユユちゃん、転校生だったね!」
今度は私が不思議そうな顔をする番になった。しかし、すぐにそのことに思い当たり、羞恥で顔を真っ赤に染め上げた。
「そっか、そうだよね!小学校からの友達とかいるもんね!うわ~恥ずかしい……」
確かによくよく考えなくても近くの小学校から入学するわけだから、知り合いがいて当然である。
そのことに思い至らなかったことを恥ずかしく思っている私をよそにモモちゃんは続けた。
「普通に話してたからすっかり忘れてたよー。ここ、近くの小学校からほとんどの人が来てるからー、ユユちゃんみたいな人以外、皆知り合いだよー!」
私はその言葉に疑問を覚えた。確かに、モモちゃんの友達や知り合いがいるのは当然である。
しかし、転校生と決めつけるのは早計ではないか。なぜなら、他の小学校から来る人がいる可能性があるからである。
私がそのことを聞いてみると、
「ううん、ここには来ないんだー。ここから少し離れたところに大きな中学校があって、そっちには小学校二つ分の生徒がいるらしいよー?」
と、返してくれた。
「そっか、そうだったんだ。皆が知り合いってすごいね!けど……やっぱり、筆記用具はいいよ。いざとなったら、先生に借りるから」
私は、そう言って断った。
「そー?ならいいけど……何か困ったことがあったらすぐに言ってねー?力になるよ!」
「うん!ありがとう!」
それでも、私のことを心配してくれるモモちゃんの優しさに、私は自然と笑顔になっていた。
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