↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢見るロンリーガール 〜Dreaming Lonely Girl〜  作者: 樹唯
第一章 ロンリーガール
26/31

気まぐれ

よろしくお願いします!

「早すぎるわよ!?あと、二十分もあるのよ!?」



 ユニコーンの早すぎる登場に、ココアちゃんが文句を言って、事態の凶悪さを口に出す。


 昨日にユニコーンと出会った時間は終了時間間際だった。そうでなくとも、今までももう少し最後の方まで避けることができていたはずだ。


 それなのに今回は、一人欠けた上に動けない人までいるような、今までで一番最悪なコンディションの時に長時間、ユニコーンと相対さなければならないと言うのだ。


 無理だ。


 私は即座にそう判断して、せめてもの提案をする。



「皆……森に逃げよう!森の中ならまだ可能性が……」



 私の提案は今までの中でも比較的時間を稼ぐことのできた方法だ。これなら、可能性が全くないなんてことはないだろう。しかし、私の言葉は皆には届かなかった。


 ミルクちゃんは静かにトコトコと歩いてクレアさんの側に行くと、その場でユニコーンの向かってくる方へと壁を作った。


 ココアちゃんとキナコちゃんも、ミルクちゃんに倣ってクレアさんの側に行くと、ミルクちゃんの背を支えた。



「ごめんね、ミルク。私のできることは、敵を見てからじゃないとほとんど意味ないから……ミルクを頼るしかないのよ」


「私のできることは、あいつが相手だと何も役に立てないの。お願い、ミルク」


「お姉ちゃん、キナコちゃん……うん、任せて。今度こそ、絶対に、守るから」



 三人は、既にこの場で迎え撃つ準備をし始めた。とはいえ、三人にできることはほとんどなく、ただ待ち構えるだけだ。そんな三人を見て、



「だめ……皆、逃げて。私なら動けるから」



と、クレアさんが引き止める。しかし、その足の傷は深く、動かせるような状態ではないことは一目瞭然だった。それでも、クレアさんは立ち上がろうとしたが、やはり、その場で転んでしまう。



「何言ってんのよ、その足で。無理に決まってるじゃない。いいのよ、クレアは休んでれば」


「クレアはいつも、私たちを守ってくれてたでしょ」


「だから……今度は、私たちの、番。ね?」



 ここまで言われてしまえば、クレアさんは何も言い返すことができない。三人の背中をただ見つめていた。


 そして、ユニコーンがもうすぐ近くに来るといったところで、ミルクちゃんがチラリと私の方を見た。しかし、私とミルクちゃんの目が合うと、すぐに逸らされてしまった。



「くるよ!」



 もうおなじみとなったキナコちゃんの掛け声で、全員の意識が集中する。


 ユニコーンは、パカリ……パカリ……と、足音を鳴らしながらゆっくりこちらへ向かってくる。私たちが逃げないことに気づいてるらしく、全く走り出す様子がない。


 私たちのすぐ側まで来て、ユニコーンはピタリとその足を止めた。そして、壁越しに一人一人の顔を見る。


 そのまま、無言の、無音の時間が続く。


 何を確認しているのだろうか。じっと、こちらを見つめ続けるユニコーンに対して、私たちは困惑しながらもその目をキッと睨み続ける。


 やがて、その睨み合いは終わり、ユニコーンは踵を返した。皆が、どうしたのかと訝しむ中、私は動きを読んでいたことから、次に何をするかわかった。



「後ろ蹴りがくる!」



 私が一言、そう告げた直後、凄まじい勢いの後ろ蹴りがミルクちゃんのはった壁を襲った。私の声が聞こえたからかはわからないが、ミルクちゃんはこれに反応し、ギリギリで上へと逸らした。


 ユニコーンは、前傾姿勢となってバランスを崩したかと思いきや、前足を軸に、器用に後ろ足と尻尾を使いクルッと回って、角を横薙ぎにはらった。


 このような猛攻が数分もの間続けられ、ミルクちゃんは、ココアちゃんとキナコちゃんの二人の力を借りながらも、ギリギリの所で逸らしていった。ミルクちゃんの目からは、このまま凌ぎ切るという強い意志が感じられた。


 ふと、ユニコーンはその猛攻をやめて再度、皆の表情を確認する。先程とは変わらないどころか、さらに強い意志を感じさせるその表情に、ユニコーンはどこか呆れたかのような態度をとったと感じた。


 そして、今度は踵を返して、私たちから離れていった。


 その動きから、次の行動が優に予想できた。


 距離を取ったのだ。つまり、アレがくる。


 ユニコーンは、角を天へと掲げ、空を変貌させる。元から薄気味悪い空がドス黒くなることで、その度合いは強くなり、空気には気持ち悪さが漂う。空が一点に集中して雫が一粒、落ちてくる。その黒い雫によって、ユニコーンの角はまるで装飾されるように見た目を変化させた。


 その角を真っ直ぐ、私たちに向かって地面と平行になるように突き付ける。


 直後、その場にいたユニコーンが姿を消した。そう錯覚するほどの速度で私たちへと向かってきて、壁を破壊し、私たちを吹き飛ばした。


 ミルクちゃんによって、少しだけ向きを逸らされており、その角に直撃する者はいなかったが、しかし、モモちゃんがいた時とは異なり、全員が地面に倒れている。


 当然だろう。モモちゃんの支援があってやっとのところで、黒い角を防ぐことができていたのだから。


 少し離れたところに立っているユニコーンはこちらを見たまま微動だにしない。


 そして、一分が経過し、ミルクちゃんの壁が復活したのを確認すると、また黒の角を突き付けてきた。


 二度、三度、四度……幾度と繰り返され、残り時間もあと少しであるが、ユニコーンはやめようとはしない。


 ユニコーンには、私たちにとどめを刺す機会などいくらでもあった。なぜそうしないのか。なぜわざわざ回復を待って攻撃をするのか。皆は理解できないまま、思考の時間も与えられずに何度も痛めつけられた。


 私たちは地面に転がった。何度も何度も転がされ、私に少し疲れが出た。そのため、ユニコーンから目を逸らし、地面に目を向けて俯いたのである。その直後、変化が訪れる。今まで、攻撃する以外で動かなかったユニコーンがパカパカと足を鳴らしながら、早足で歩き出したのだ。


 私が顔を上げると眼前には、ユニコーンがいた。それは前足の片方を持ち上げていた。そこで、動きを止めている。


 ユニコーンは憎らしげに私を睨んでいた。


 そして、時は来る。ユニコーンの持ち上げられた足が踏み下ろされる。


 その直前、近くまで這い寄って来ていたミルクちゃんによって、私の体が押し退けられた。


 結果、私の真横でパキャッと音が鳴った。


 それは、ミルクちゃんの頭が踏み潰された音だった。



*



 私たちはユニコーンに弄ばれて、その結果としてミルクちゃんを失った。


 まだ終わりの鐘は鳴っておらず、時間は残っている。しかし、ユニコーンは私たちを一瞥し、最後に光となり消えてゆくミルクちゃんを見ると、この場から立ち去っていった。


 ミルクちゃんの消えていく速度は、頭部を砕かれたからかモモちゃんよりも早く、既に上半身が消えていた。


 その様子を見て、ココアちゃんが這いつくばりながら手を伸ばす。



「ミルク……!あぁ……だめ、そんなの、許さない……いやよ、いやぁぁぁぁぁ!!!!!」



 あと少し、あと少しで手が届くといったところで、ミルクちゃんの体が完全に消えてなくなった。



「あぁぁ……!!?あぁぁぁ、あぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」



 ココアちゃんの悲痛な慟哭が私たちの頭に強く響く。


 彼女はそのまま地面に蹲り、もう何も見たくないと言うかのように顔を伏せた。


 最愛の妹を失った悲しみは、私どころか、クレアさんとキナコちゃんでも分かり合えないだろう。


 私は何も言えず、何も動けずにその場に止まっていた。そんな様子を見て、キナコちゃんが、



「あんたが!ちゃんと避けてればよかったのに!!私たちが必死で戦っている時に何をしてたの!!?」



と、ミルクちゃんに庇われた私を責める。その会話が聞こえていたらしく、ココアちゃんが顔を上げて、私を睨みつけてきた。



「……そうよ。あんたが、無様な格好さらしてなければ、ミルクだって庇うようなことしなかったのよ!!あの子は優しくて、あんたみたいなやつですら手を差し伸ばしちゃうの……だから、あんたさえいなければ!あんな事にはならなかった!!」


「けど……私はどうしたら……」


「何もできないなら、端っこの方で縮こまってればよかったのよ!!どうして私たちと一緒にいたのよ!!!」


「それじゃあ、私は他のやつに……」


「知らないわよ!!ミルクがいなくなるくらいなら、あんたが消えなさいよ!!!どうして……!一番頑張ったミルクが、やられなくちゃ、いけないのよ……」



 私はこれ以上、口を開くことができなかった。ココアちゃんとキナコちゃんだけでなく、クレアさんまでもが私のことを責めるような目を向けている。


 この間も、二人は私のことを責め続けた。


 私を庇ってミルクちゃんがやられてしまったのは、事実だ。このまま、二人による責めは続くと思われたが、それは終わりの鐘の音によって遮られた。



「あーあ、二人目だね〜。このままじゃ、すぐ終わっちゃうかもね!!」



 終わりの鐘が鳴り終わると同時に、エミがケラケラと笑いながらそう言って私たちの前に姿をあらわした。



「何が、面白いの……?」



 クレアさんの怒りを滲ませた声がエミへと届く。



「えー?うーん……面白くもあるしー、面白くもないかな?」



 エミは、何に対して言っているのかわからないように答えた。ただ、愉快な気持ちになることと、不愉快になったことがあることだけがわかる。


 その後、エミは私の方をちらりと向いた。それは一瞬であったが、その目は生暖かいような、優しげなものであるように感じられた気がする。


 次に、ゴミを見るような目で他の三人を見て、すぐに目を閉じた。



「ま、これ以上はめんどくさいので。まったね〜」



 そして、早々に会話を切り上げたのだった。

ありがとうございました!

もし、面白いと感じたり、これからも読みたいと思ったりしていただけましたら、ぜひこの下にある☆評価やブックマークなどで応援していただけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。