悪魔
よろしくお願いします!
今日は日曜日。両親はいつものように出かけた。私も、もちろん誘われるのだが、今日は複雑な気分だったので、断った。断られたときの父の顔がすごく残念そうだったため、来週なら行けると伝えるとすぐに機嫌を直していた。
両親を見送ると、自分の部屋へと戻り、複雑な気分を整理する。今まで悩んでいたことに対して胸のつっかえがとれたような晴れ晴れとした気分と、大切な何かを失ってしまったような胸の奥がきゅっとする気分がごちゃ混ぜになっている。それと同時に怒りがどこかにある。
しかし、この気持ちになったことに思い当たることもないため、どうすることもできない。なんとか気持ちを切り替えようとしてスマホを手に取った。ミルクちゃんやココアちゃん達から連絡が来ていないか確認するも、あるのは両親からの連絡だけ。
ふと、グループに「モモ」という見覚えのない名前があることに気づく。直近の履歴にも上の方にその名前があった。
私はそれを見て……特に何も思わなかった。
スマホを閉じ、今日はある程度まで勉強を進めたら、動画でも見ようとぼんやりしながら考える。いつもだったら、誰かに連絡をしていた気がするが、思い違いだろう。気を取り直して、私は机へと向かい、その違和感をすっぱり忘れた。
*
その日の夜、また、夢の世界へと呼び出される。私を含めたモモちゃん以外の五人がその場へと揃った。
「モモは……来ないわね」
「むぅ……?一度やられたらこの世界には呼び出されないってこと?」
「そうなるんじゃない?実際、モモがここにいないんだし。それより、モモに何があったのかが問題。誰かわかる?」
キナコちゃんの問いに誰も答えることができない。皆は口を揃えて現実で何か違和感があったと言うが、それだけであり、思い出せることはなかった。そもそも現実の物に影響はないはずだ。しかし、思い当たることがあるような気はしており、あと少しといったところではっきりしない。
私も、みんなと同じだと口に出そうとしたそのとき、宙に圧倒的な存在を感じた。私は、話すことをやめて、咄嗟にそちらへと顔を向ける。
そこにはニタリとした笑みを顔に浮かべたエミがいた。
「あんたのその顔……何か知っているの?モモはどうなったの……?」
ココアちゃんが堪らず、質問を投げかけた。しかし、エミは、
「さあ?どうなっていると思う?どうなっているかな?きっと、明日になればわかると思うよ!」
と言って、質問に答えずはぐらかした。
「それより〜……一人いなくなるだけで、かなり大変になるからね!だから、今までちょっとずつ増やしてたエミの友達の数、少しだけ減らしたげる!それでも、ユニちゃんの強さは変わらないし、明日からはまた増えてくから気をつけてね?」
エミは、露骨に話を逸らした。しかし、その内容と口調からはどこか優しさが感じられた。実際、一人減ったことを考慮して敵の数を減らしてくれると言う。
また、その話の中に重要なことがあった。夢の世界の仕組みに関わることだ。なんとなく予想はできていたが、この世界では日を重ねるごとに少しずつ敵の数が増えていたらしく、これからもそれは変わらないとのことだ。
「むぅ?倒したらその分は減るの?」
クレアさんのこの質問に、エミはそうだと返して、
「けど〜、わかってると思うけど、ユニちゃんと出会いやすくなるからね?」
と、続けた。事実、戦闘が多くなると、それに比例してユニコーンとの遭遇率は高くなった。先程はスルーしたが、ユニちゃんとはユニコーンのことだろう……そんな見た目ではない気がする。
この後、七日目が始まった。ミルクちゃんとキナコちゃんで防御を行い、ココアちゃんとクレアさんによって、遭遇した敵は処理された。
実際に敵の数が少ないことは実感でき、キナコちゃんのできることもあって、遭遇率はかなり減ったが、全くないとは言えず、最後にはユニコーンに見つかってしまった。しかし、ユニコーンが、こちらに駆け寄ってくるのが見えたところで、終わりの鐘が鳴り、難を逃れることができた。
エミによってうまく話を逸らされたが、全員、違和感が拭えないまま、七日目は終了した。
*
私は、今日も朝早くから学校へと向かい、キナコちゃんが来るのを待っていた。
今日は、先週の金曜日と異なり、朝早くから登校してきた。私はその姿を確認すると、すかさず、
「キナコちゃん、おはよう!」
と、挨拶をする。これには、もちろん挨拶が返ってくるだろうと期待する。しかし、そんなことはなかった。
彼女は、私の方を一瞥もせずに自分の席へと向かい、荷物をしまうとノートへと向かった。私は、聞こえなかったのかと思い、もう一度挨拶をしようとしたが、ノートに集中するキナコちゃんを見て邪魔するのは悪いと考えて、話しかけるのをやめた。
そのまま、段々と教室は賑わい、全員が揃った。私は誰と話すわけでもなく、ただ一人机へと向かい、すでに終わっている宿題を広げながらボーッとしていた。
一度、隣の教室にいるミルクちゃん達を訪ねようとして覗き見たがクラスにいる人と共に修学旅行の班はどうするだったり、どこに行こうかだったり話していたために、近づくのが躊躇われた。
私は誰とでもそれなりに話ができる自信があるとは言え、さすがに自分が全く関われない話に割って入る度胸は持ち合わせていない。
教室に戻ってぼんやりと黒板を眺めていると、今度は逆に、ミルクちゃんとココアちゃん、クレアさんが私の教室へと来ていた。
目的はキナコちゃんだったようで、幼馴染の中で一人だけ別のクラスになったことによる修学旅行の班決めを心配しているらしい。
数分もすると、キナコちゃんが三人を追い返していた。
私は、今日は特定の誰かと話すことなく、クラスメイトの話している会話に混ぜて貰いながら修学旅行について考えて過ごした。
ふとした時に気づいたことだが、同じクラスに一人、名前を思い出せない子がいた。
その子は、教室にとても馴染んでいて、忘れるはずのないような子だった。しかし、その事は異様なほどに気にならず、ど忘れしたか、あまり関わりがなかっただけだと思い直す。
一応、クラスメイトなのだから、名前だけは知っておきたいと考え、教室にある掃除当番表とクラスの人を照らし合わせて確認した。
その子の名前は、「苺谷もも」だった。
*
その日、八日目の夜、私たち五人は夢の世界に呼び出されていた。
皆の反応はそれぞれだった。
大切な人の喪失に泣く者。
泣く者を慰める事で自身の恐怖を誤魔化す者。
その場に立ち、歯を食いしばりながら両手を握り締め、何かを決意する者。
只々、呆然と立ち竦む者。
何故、このような事態に陥ってしまったのか。それは、現実で、モモちゃんの事を忘れてしまっていた事を認識したからだ。
現実では、モモちゃんの事の一切を忘れていた。それどころか、連絡アプリなどから感じた違和感も意識することができなくなっていた。また、モモちゃんの様子からして、彼女の私たちに対する認識は、私たちの彼女に対するものと同様だと考えられる。
つまり、モモちゃんと私たちは互いに互いのことを忘れてしまったのである。
私はもちろんであるが、それよりも、小さな頃から付き合いのあった幼馴染である四人の悲しみは計り知れない。
だが、この夢の世界は無慈悲だ。小悪魔の支配する世界であるが故に、悪夢だ。
私たちの前に、エミが姿をあらわす。そして、こんな言葉を投げかける。
「昨日、気付けないなんて友達失格だね〜?」
その表情は、容易に予想ができて。目の前にいるのは小悪魔なんて可愛らしいものではなくて。
私たちの前には、ニタリとした笑みを貼り付けた、悪魔がいた。
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