喪失
よろしくお願いします!
「やった、やった、よ!」
「まだ、終わってない!鐘は、鳴ってない!」
「皆、こっちに!」
ミルクちゃんが喜びを表現するも、未だ油断できない状況であるために、分かち合う暇がない。クレアさんはそのことを指摘し、それに合わせてキナコちゃんが先導をする。
あれだけの音が鳴っていたのだ。近くにウサギが潜んでいる可能性もあるため、できるだけひらけた場所を選んで逃げる。
透明化しているカメレオンはココアちゃんが、空から襲ってくるトリはクレアさんが、キナコちゃんの指示によって倒していく。
「ミルク!壁はもう出せるの!?」
「お姉ちゃん、まだ、むり!」
先ほどのユニコーンの攻撃により、壁は真っ二つになり、砕けてしまった。このことにより、すぐに壁を作り出すことは叶わず、一分は必要とのことだ。次に壁を出せるのは、かなり終了時間にぎりぎりとなるだろう。
「時間といえばー……!ユユちゃん、能力は全部わかったの!?」
「わかったけど!皆がもう知ってる通りだよ!基本的に身体能力が高くて、角を黒くするときはさらに強化されてるってことと、寝てる時は完全に気配がなくなるってことくらい!」
モモちゃんに尋ねられ、私はあまり芳しくない成果を告げる。
「むぅ……あの攻撃の後、何かデメリットとかない?」
「なかったよ!強いて言うなら真っ直ぐにしか進めないことかな?」
クレアさんが期待を込めて質問してくるが、同じくいい報告は出来なかった。
「……っということは!?」
「どうしたのよ、クレア!」
「ユニコーンのあの技、連続で使える!」
そのことに気づいた時、背後から三度目の感覚を覚えた。その姿は遠くてしっかりと確認できないが、空の様子によりユニコーンが再度、あの技を使おうとしていることは明白だった。
「使える、よ!!モモちゃん、お願い!」
「おっけー!まかせてー、ミーちゃん!」
ユニコーンが攻撃に移るよりも早く、ミルクちゃんの壁が復活し、ミルクちゃんに応えてモモちゃんが力強い演奏を再度、始めた。
これにより、この場にいる全員に力の支援がされる。私とキナコちゃんはミルクちゃんの補助へと入り、正面から防ぐ態勢になる。
「よし、私もできたわ!」
ココアちゃんが突然、何かをできたと言うため、そちらへと目線を移すと、彼女の両手の先には以前に見たハートの形の爆弾が完成していた。
それは今にも爆発しそうなくらいパンパンになっており、ココアちゃんも両手でしっかりと押さえないと暴発してしまうらしい。
「クレア、これはチャンスよ!これなら、あいつも喰らうのを避けてたわ!だから、ミルクが逸らした後にこれをぶつけて隙を作るから、その間に腹をぶった斬ってやりなさい!!」
その爆弾にどれだけの想いを込めたのか。元々、爆弾の威力は時間ではなく、その想いを込めた量で決まる。それでも、最大威力には目安として一分かかると言っていた。気分によっては長くなることもあるのだろう。しかし、今は三十秒ほどという、半分も短縮して作り出していたのだ。このことから、どれほどユニコーンに対して鬱憤が溜まっていたのかが、容易に推察できる。
この話を持ち掛けられたクレアさんは、少し困った表情を見せながらも、仕方なくといった様子で協力の意を示した。
「むぅ……はぁ、わかった、私が合わせるから好きにやって」
「ふふ、そうこなくっちゃ!」
こうして、私たちは、防御どころか反撃の準備まで済ませ、後はユニコーンが突っ込んでくるのを待つだけとなった。
遠くに見える空からドロリとした黒いものが垂れていく様子が確認され、皆の顔つきが変わる。万全とは言えないかもしれないが、それなりの用意ができており、自信ありげな表情だ。
「くるよ!」
キナコちゃんの合図の直後、ユニコーンが真っ直ぐ迫ってきた。距離があることで、いくら速いと言えどその様子を見ることができる。私はユニコーンをじっと見つめ、意識を集中させる。
轟音が近くまで寄ってきたことで、ミルクちゃんは壁を動かすタイミングをはかる。
その時だった。ユニコーンが突如、ガクッと前のめりになったのは。
まるで動きが一瞬、止まったかのようで。バランスを崩したその勢いのまま、飛び込むようにしてミルクちゃんの壁にぶつかる。
ユニコーンの突然の動きによってタイミングをずらされたことで、角と壁のぶつかる角度は、彼女が想定していたものとは少し異なってしまった。
その少しのずれが、結果を大きく変えてしまう。
元々、ユニコーンの角を黒くした攻撃は、完璧な角度で、壁を壊してやっと逸すことができるほどのものだ。その角度がずらされたのだ。
黒い角の先端が、壁へとめり込み貫通する。それでも、正面のミルクちゃんやキナコちゃん、そして私に向かう角の方向は少し変えることに成功する。
しかし、角の先が向けられている方は……モモちゃんのいる場所だった。
黒い角は壁を突破し、吸い込まれるようにしてモモちゃんへと向かう。
私たち三人は防御の態勢のまま動くことは叶わず、後の二人は反撃の準備をしていたために、間に合わない位置にいる。ココアちゃんの爆弾も現在、最大威力のために、機動力として使うこともできず、ユニコーンに叩きつけて吹き飛ばすには他のみんなまで巻き込んでしまう。
その場にいる誰もが、見ていることしかできなかった。
そして……とうとう、黒い角がモモちゃんに到達した。
その位置は胸の中心、心臓がある辺りで。
その瞬間は、まるでユニコーン以外の時間が止まったかのようで。
いとも簡単に、あっけなくモモちゃんを貫通した。
動くものはいない。皆は、自分の見ている光景を信じることができないからだ。
このタイミングで、待ち侘びていた終わりの鐘が鳴った。それにより、ユニコーンがぬいぐるみへと戻って消え、私たち六人だけとなる。
ぐったりとしたまま動かないモモちゃんに私たちは駆け寄る。
「モモ!あんた、まだ生きてるわよね!?大丈夫なのよね!?」
「コーちゃん……ううん、もう、ねー、だめ、みたい」
「なん、で!?まだ、生きて、る!!」
モモちゃんの言葉通り、本当に助からないようだ。それは、段々と足の先から光の粒子になって消えていく様子から察することができる。
「モモ、足が!消えないで、消えないでよ!」
「あ、みん、な、泣かない、でー?別に、ほんとに、死んじゃうわけじゃ、ないん、だよー?」
「それでも……なにも、ないわけじゃない」
モモちゃんは、皆の顔を一人一人見て、こう告げた。
「そう、だねー……ミーちゃん、コーちゃん、クーちゃん、キーちゃん……皆は、頑張って、生き残って、ね?」
モモちゃんの言葉に皆は涙を堪えられなくなる。
「ユユちゃん、耳、かして?」
次に、モモちゃんは私へと顔を向けた。私がモモちゃんの最後の求めに応じ、近づいて耳を彼女の口元に寄せると、
「ユーちゃん、今まで、ごめんなさい」
と、今まで一度も呼んだことのない、他の皆と同じような呼び名で、そう謝罪をしたのだった。
「……なんのことかな。けど、受け取っておくよ」
「そっか、よかったー……」
私がそう答えると、モモちゃんはどこか胸のつっかえがとれたような表情で笑った。そして、完全に光の粒子となり、私たちの前から姿を消したのだった。
こうして、波乱の六日目はモモちゃんを失い、終了した。
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