眼前の悪夢
よろしくお願いします!
ふりふりでゆめかわな格好のまま、夢の世界での生き残りの三日目が始まってしまった。
最初は皆、戸惑いを隠せていなかった。それぞれ、思っていることは違うようだが、顔を赤く染めていることは共通している。
だが、このままではまずいため、口を挟むことにした。
「皆、ちょっといい?昨日のユニコーンのことなんだけど……」
ユニコーン、この一言で皆の表情が一変し、怯え、緊張といったものとなる。
「むぅ……よく皆無事だったね」
「というより……昨日の傷はどうなってるのよ。私……腕が千切れてたと思うんだけど」
ココアちゃんは、自身の両腕を見て、さすりながら思い出したくもないといった様子で、苦しそうに昨日のことを言葉にする。
「昨日は、皆怪我してた。多分なんだけど、生きてさえいれば、翌日は完全な状態に戻してくれるんだと思う」
私が、今回の初めに見た光の粒子が集まっていき、体が形成されていたことから予想をたてると、キナコちゃんから、
「実際に怪我は治ってるからそんなこと考えても無駄でしょ」
と、冷たい回答が返ってきた。
「それよりも、皆ってことはあんたはどうだったの?」
「私は……終わりの鐘がなって、ぎりぎり何ともなかった……」
「はぁ!?皆があんな目にあってたっていうのに、何もしなかったの!?」
私が無事だったことを伝えると、彼女は助けもせずに見ていただけの私へと怒りを向けてきた。
先程までからは考えられないほどの険悪な空気が漂う。
彼女から向けられる目線に、私は、夢の世界ではかかないはずの汗が背中を伝う感覚を覚えた。
モモちゃんが心配そうに私の方を見ている。どうにかして、空気を変えようとしたそのとき、
「キナコ、今は誰かを責めてる暇なんてない。それに……」
「それに、なに?何かしてたって言うの?」
「むぅ……ううん、なんでもない。それより、ユユ。ユニコーンについてわかったことって?」
クレアさんが口を挟み、若干、キナコちゃんの圧に押されていた気がするが、話の流れを元に戻してくれた。そのことに慌てて私は回答する。
「えっとね!昨日、能力はほとんどわからなかったんだけど、突然現れた理由がわかったの」
「……どう、いうこと?」
「あのユニコーンは、私たちの近くで寝てたみたいなの。だからね、もしかしたら寝てる間はいつも感じる存在感とかは感じられないんじゃないかって。実際、遠いけど今はあっちの方に感じられると思う、んだけど……」
皆が黙って話を聞いているために、少し自信がなくなり、言葉尻がすぼまっていく。
「なんだか、ウサギみたいだねー……」
「むぅ……?そういう能力ってこと?もしそれが本当なら、存在が感じられない時は、必要以上に大きな音は出さない方がいい。ココア、ココアのできることはここぞという時にしよう」
「そうね。仕方ないわ」
クレアさんの言葉で私たちがまとまっていく。そして、攻撃は主にクレアさんが担当することになり、私たちは行動へと移った。
キナコちゃんの険悪な雰囲気に、皆がどこか、禍根を残しながら。
*
エミの用意した服は、思いの外、動きやすかった。ひらひらとしてボリュームがあるにもかかわらず、軽く、空気抵抗も感じられない。
クレアさんの動きが、より速くなった気がするほどだ。
現在は、また新しく現れた敵と相対していた。その相手は、全身にある禍々しい紋様が特徴の、空を自由に飛ぶ小さなトリである。羽は普通の羽だった。
そのトリは、一羽ではなく群れであった。そのため、一羽の能力はそこまで高くなく、その全身が弱点であるほどだ。
しかし、速度は凄まじく、キナコちゃんが事前に気づいたものの、攻撃手段である翼での斬撃によって、出会い頭にモモちゃんの腕が浅く切り裂かれてしまっていた。幸いなことに腕の動きに支障はなく、ピアノは弾けるようだ。
その速度に目で追いかけることに苦労はしたが、私のできることでも三十秒くらいで全ての能力がわかった。
その能力はすり抜けであった。ミルクちゃんが壁を用意してもすり抜けた時は焦ったが、一度すり抜けを使うと数秒は解けないらしく、私たちまですり抜けていった。
ひとまず、壁は壁としての役割を果たしてはいないが、敵の攻撃から身を守るためには使えるため、クレアさん以外の全員がミルクちゃんの側にいた。
そのクレアさんは一人、トリと戦っていた。
一部は、私たちが引き付けることができているが、その大多数が彼女へと殺到している。
しかし、それでも彼女はひらりひらりとスカートを広げながら、避けていた。その姿はまるで踊っているようで、エミのセンスを褒めたくなるほどだ。
また、彼女は避けてばかりではなく、すれ違いざまに一羽、また一羽と次々に切り捨てていった。数分もすると、一人で全滅させてしまった。
このほかにウサギやカメレオンなど、一度遭遇したことのある敵と数度ほど出会ったが、今のようにクレアさんが殲滅していき、ユニコーンとは出会わずに三日目、四日目と日が過ぎた。
異変が起きたのは五日目だった。
今日はユニコーンによる威圧感とかが感じられないと話してすぐの戦闘のことだ。
今まではウサギならウサギ、カメレオンならカメレオンという感じで数は複数現れることはあれど、必ず一種類の敵としか遭遇しなかった。
だが、五日目となり、ウサギと戦っていたところにトリが出現したのである。キナコちゃんのできることによって事前に気づいたため、傷を負う人はいなかったが、今までみたいにクレアさんが主だって戦うことは困難となった。
そのために、モモちゃんはピアノを、ココアちゃんは爆弾を使わざるを得なくなり、次から次へと現れる敵に対して連続して大きめな音を鳴らすハメになったのである。
そうしなければ、だれか、少なくともクレアさんがやられていただろう。ほかに取る手段もなく、仕方のないことだったのだ。
だからといって、それほど連続して鳴らされた騒音が許されるはずもなかった。
これから起こることを境に、事態は急激に悪化の一途へと辿るのである。
*
その場にいた全員の背筋が凍った。
敵の全滅まであと少しといったところで、すぐ近くから威圧感、恐怖感などの負の感情を感じたからだ。
それが少し遠くにいれば、全力で逃げのみに徹すると決めていたが、それの存在の位置はあまりに近すぎた。
では、戦うのか。否、半分そうであり、半分間違いである。
これから私たちが行うのは、時間稼ぎだ。
弱点を狙わない限り、ユニコーン相手に決定的な攻撃手段は、私たちにない。そして、弱点の腹を狙うのも困難である。
よって、正面から戦って勝つことを諦めた。
幸いなことに、この世界には時間制限が設けられている。
逆に、ユニコーンから生き残る手段として、時間稼ぎ以外、残されていなかったとも言える……
「皆、くるよ!!」
キナコちゃんの合図の後、すぐにユニコーンが現れた。その姿を確認し、クレアさん以外の全員が一箇所に固まりながらミルクちゃんの壁を背後に、森の中へと入る。森の中だと、木が障害物にも、目隠しにもなるからだ。
ここで、モモちゃんのピアノの演奏が開始する。それは、誰もが聞き惚れる力強い演奏で、これにより、私たち全員の力が支援される。今回、力の支援を選んだのには理由がある。
それは、前回にミルクちゃんだけでは支えきれない攻撃があったからだ。そのため、モモちゃんに強化された私とキナコちゃんの情報組が協力し、それぞれのできることをしながらも、ミルクちゃんを支えることで吹き飛ばされることがないようにするのだ。
また、クレアさんにも力の支援がされている。その理由は、木の奥から聞こえる戦闘音にある。クレアさんは足止めを試みており、私たちだけに真っ直ぐ向かってこないように引きつけるだけでなく、足へ攻撃することで機動力を奪おうとしているのである。
ユニコーンから距離をとっていれば、他の敵に出会うことは当然のことだ。
これには、ココアちゃんが一人で対応した。本来、ココアちゃんのできることは当てる対象を見てからじゃなければ威力を上げることができない。しかし、今はすぐそばにユニコーンがいる。そのため、最大威力までずっと上げ続けることが可能となり、現れた敵に叩きつけることで迅速な排除が実現できている。
この作戦は功を奏した。機動力を奪うことは叶わなかったが、クレアさんとココアちゃんの二方向に狙われる方向を分散することで、ユニコーンから攻撃される回数を大幅に減らすことができ、やられる危険性がかなり低くなったからである。
「これなら、最後までいけるよー!」
モモちゃんが、その手応えに喜びと希望の声をあげた。これにはその場の全員が同意であり、自ずと力が入る。そんな時、
「皆、ユニコーンの様子がおかしい!」
と、クレアさんから忠告が入る。
「どうしたっていうのよ!」
「私を無視する!刀も避けずに、そっちに向かってる!」
クレアさんの言葉の直後、空気が、いや、世界が変わった。
空が、ユニコーンのいる辺りの上空へと集まり、色が混ざってどす黒くなっていく。
さまざまな色が凝縮されることで出来上がった黒の塊から、ユニコーンの角へ向かって、雫がたらりと垂れていく。角の先に黒いものがつくと、螺旋を描きながら根元へと向かい、紋様へと広がっていく。
やがて、黒い塊の全てが角へと移ると、その先端を私たちへと向けた。
「なに、あれ……あれは、だめ!ヤバすぎる!!逃げ……」
キナコちゃんの忠告は間に合わなかった。
角の先端が、ミルクちゃんの壁へと突き立てられる。すぐに壊れることはなく、私とキナコちゃんが咄嗟に支えることでぎりぎり押しとどめることができていた。
しかし、徐々に壁にヒビが入り、角の先端がこちら側に突き出してきた。
私の意識は、壁を作っているミルクちゃんへと向けられる。
もう少しで壁が砕けるのではないかと思われた時、突然、
「もう、だめ!!!」
と、キナコちゃんが叫んだと思ったら、ミルクちゃんを自身の方へと引っ張った。
これにより、壁は支えを失い、崩壊する。
私は、ミルクちゃんを、キナコちゃんの反対側から支えていた。そのミルクちゃんが引っ張られてしまえば、支えていた人物がいなくなることでバランスを崩してしまう。その結果、私は、一歩、前へと足を踏み出すことになった。
ミルクちゃんがいた場所には、私がいる。
つまり、角の行先に、私がいる。
「……え?」
事態の展開に、私は追いつけなかった。目の前には迫り来るユニコーンの角。避けることは叶わない。
私は、突き飛ばされた。
ありがとうございました!
評価、感想、ブックマークなど、お待ちしております!




