ゆめかわ
よろしくお願いします!
目が覚めると、昨日とは違って少しすっきりとした気分だった。それは、まるでとてもいいものを見た、もしくは鬱憤が晴れたかのようだった。
しかし、その理由となる何かの夢を見た気がするが思い出すことができない。
気にならないと言ったら嘘になるが、忘れてしまうほどのことであるし、忘れたかったのかもしれないと、そう思い直し、朝の支度へと取り掛かる。
昨日は、キナコちゃんと話すことができたし、今日も早く登校してみようかな?と、いそいそと準備をした。そんな私の様子を見て、両親が、
「ユユ、何かいいことでもあったの?」
と、聞いてくるほどだ。もちろん、私はにっこりとした笑みで、
「うん!今日も少し早く行くね!」
と、答えを返し、その後、飛び出すようにして家を出る。両親は少し安心した顔で、私が曲がり角を曲がるまで見送ってくれた。
*
学校に到着し、教室へと入る。前回よりは少し遅くきたため、もしかしたらキナコちゃんがいて、なんらかの会話、それこそ来週にある修学旅行の班決めについて話せないかと期待する。
その期待とは裏腹に、教室には誰一人としていなかった。がらんとした教室は静かで、どこか空気がよどんでいた。窓を開けて換気でもして待つ事にした。
しかし、待てども待てども、キナコちゃんはやってこない。
だんだんと、教室が賑わってきたころ、とうとう、キナコちゃんより先に、モモちゃんがやってきてしまった。今日は、キナコちゃんと話すことは厳しそうだ。
今やってきたモモちゃんも、昨日より登校時間が遅く、そのうえ、
「おはよー……」
と、かなり元気がない様子だった。
「おはよ!どうしたの、モモちゃん。もしかして、体調よくないの?」
「ううん、体調は悪くないよー。熱も出てないし、咳も出ない。けど、すごーい嫌な気分。多分、昨日見た夢が原因だと思うんだけど……たまになーい?死んじゃうかと思うほど、怖い夢」
私が彼女に心配の声をかけると、すぐに理由を話してくれた。おそらく、彼女も誰かに話したかったのだろう。
「あれ、昨日もその前も怖い夢を見たって……」
「それよりも酷かったんだよ〜!というかー、ユユちゃんだって昨日と一昨日はそうじゃなかったー?」
「そうだったけど、今日はすっきりだったよ?」
「あれー?……ユユちゃんもかなー、なんて思ってたけど、違うのかー。それなら、キーちゃん達も違うのかなー?」
彼女は、私もそうじゃないか、悪夢を見たんじゃないかと、昨日と一昨日のことから予想していたらしく、おかしいなーと、首を傾げていた。
「うーん、キーちゃんにきいてみよー……ってあれー?ユユちゃん、キーちゃんは?」
「それがね、わからないの。昨日は早くきてたみたいだから、また話せるかなって期待して早く来たんだけど」
「え!?ユユちゃん、キーちゃんと話したの!!?」
「え、うん。別に話すよ?確かに機会は少ないけど。急にどしたの?」
「あ、ううん、なんでも。えっと、あ、ユユちゃんがキナコちゃんと話してるとこ、あんまり見たことないなーって」
私が彼女に、キナコちゃんと話したことを伝えると、先ほどまでのぐったりした様子は何処へやら。とても驚いた様子で、机に身を乗り出して聞き返してきた。確かにあまり話さないが、そこまで驚くほどのことではないと思う。
「……なーんだ。キーちゃんだってはなしてるんじゃん」
ボソッとモモちゃんが何かを言っていたが、私にはあまり聞き取ることができなかった。
「なんて?」
「あ、気にしないでー。もう、驚いてすっかり気分が変わったよー」
「……あはは、それはよかった」
こうして、私とモモちゃんは長々と会話を続けていた。それでも、キナコちゃんがくる気配は一向になく、ようやく来たのは遅刻ぎりぎりの時間だった。
今日、私とキナコちゃんが会話することはなかった。
*
だんだんと意識が覚醒する。夢の世界だから、少し言葉が違う気もするが。それでも、それはまるで微睡みから覚めるようで、他に適切な言葉が浮かばない。
今日は、私が一番だった。少し広い空間にたった一人。寂しくないと言えば嘘になるが、どうせすぐに誰か来る。ここまで考えて、誰も来ない可能性に思い至る。何せ、昨日は皆が散々にやられたのだ。
しかし、そんな心配はすぐに解消された。
私の目の前で、光の粒子が集まり、一人の人の形へと変化する。形ができたら、足の先から段々と色がついていく。
そこに現れたのは、傷一つないきれいな体をした一人の女の子、モモちゃんだった。
「……モモちゃん?」
私が声をかけると、彼女の瞼がゆっくりと持ち上がる。どこかボーッと、虚な目をしていたが、だんだんと理性の光をその目にともしていく。
そして、彼女の目と私の目があった。
キョトンと私の目を見ていたが、一拍置いてすぐに彼女は飛びついてきた。
「ユユちゃん!ユユちゃん!!!」
彼女は、私の名前を何度も何度も呼んで、私の胸の中で泣いた。……彼女は、自分が殺されかけたというのに、私の心配をしてくれているのだろうか。
少しすると、一人、また一人と光の粒子が集まり、形取られていく。ミルクちゃん、ココアちゃん、クレアさん、そして、キナコちゃん。夢の世界に呼び出されている私たち全員がこの場に揃った。
昨日のユニコーンには誰一人として殺されておらず、作戦は成功したらしい。
モモちゃんは、一人一人現れるたびに駆け寄り、泣いて喜んだ。その涙につられてか、皆も泣いていた。あのクレアさんまでもが、目に涙を浮かべていたほどだ。
程なくして、エミが現れた。エミは、皆が泣いているのを見て、呆れながらも少し待ってくれる……なんてこともなく、
「そろそろはじめるよ〜?準備はいーい?」
などと、空気を読まずに発言をした。
皆は、ちょっと待ってほしいだとか、空気を読めだとか言うかと思ったが、そんなことはなかった。エミの声が聞こえた途端に、それぞれの程度は違えど、怯えた様子を見せたのだ。
一言も発さず、エミのことを見つめ続ける私たちに、エミは、
「これはこれは!いい気味だね!まぁ、それは置いといて、いいの?準備しなくて」
「……準備ってなに?昨日までそんなのなかったよ」
皆が返答できないため、私が問い返す。
私の問いに、ニタニタとした笑みを浮かべ、ココアちゃんの方を向いた。
「えっとぉ〜……お洋服、とか?」
エミの言葉にここにいる全員が、自身の格好を見直した。私は、特に何も問題ないただのパジャマだ。買うときは少し可愛すぎるために勇気を必要としたが、着心地も良く、何よりも可愛いパジャマで身を包んでいることに満足感を覚えているので、全く後悔していない。
他の皆も似たような物だ。クレアさんがモコモコのパジャマを着ているのは意外だったが。クレアさんは、彼女から感じるクールな印象とは違い、可愛いものが好きなようだ。思い返してみれば、ちょっとした小物とかから女の子らしさを感じられたように思う。
では、なぜエミは服装を指摘したのか。一人だけ、昨日までと服装が違う人物がいたからである。その人は、エミの視線の先にいたココアちゃんだった。
自分の服装を見て、羞恥から顔を真っ赤にしている。彼女は、パジャマの下、ズボンを履いておらず、パンツ姿であった。
「ちょっ!!!?見ないで!あっち向いて!!」
彼女は手で上着を下に向かって引っ張り、下着を隠しながらそう捲し立てた。その後、見えないように、そろりそろりと動き、ミルクちゃんの陰へと隠れた。いつもとは立場が逆であり、なんだか微笑ましく感じる。しかし、照れたココアちゃんとはレアだなぁ……かわいい。
私が彼女に見惚れていると、キッと睨まれてしまった。さすがに嫌われたくはないので目を逸らす。
「お姉ちゃん、そういえば、暑い、とか言って、脱ぎ捨ててた」
「うそ!?てか、なんで現実の服装のままなのよ!パジャマで戦うとか、変なのよ!エミ!これ、どうにかなんないの!?戦うどころじゃないわよ!」
ミルクちゃんが、現在の惨状の理由を解き明かした。てっきり、夢だからパジャマだと考えていたが、現実世界での服装がそのまま反映されているらしい。
「え〜?パジャマかわいいじゃん!それに……まだ五月だし、皆服着てるよね、大丈夫だよね!って思ってた!」
「理由なんて聞いてないのよ!早く、どうにかしなさいよ!!」
さすがに同姓しかいないとはいえ、森の中で下半身下着のみというのは相当な恥ずかしさらしい。先程から、昨日までの恐怖を忘れてエミにまで食ってかかっている。また、理由を自分が聞いたにも関わらず、文句を言っており、思考もまともに機能していないようだ。
「えぇ〜……」
その言い草にはエミですら引いている様子である。
「一応、どうにかできるけど……」
「けど、なによ!」
「皆が似たやつじゃないと可愛くないからやだ。お揃いとか可愛いよ?」
エミは、服装はどうにかできるという。しかし、可愛くないからなんて理由で全員が似た服装であることを希望している。
「逆に言えば、皆が服装を変えればいいってことよね!?」
ココアちゃんは、そう言うと、首をぐりんっと回して、ミルクちゃんの陰から私たちの方をじっと見つめる。
目は口ほどに物を言うという言葉を、これほど感じたことはない。それに、このままでは戦うどころじゃないというのも本当であるため、全員が了承した。
「おっけー、それならいいよ!それじゃあ、いっくよぉ〜!!」
エミが手を前に出すと、そこから光の粒子が出て私たちの体を包んだ。
あれ、そういえば、どんな格好になるんだっけ?
私のそんな疑問をよそに、どんどんと形が完成して色がついていく。
その格好は、ゆめかわコーデと調べたら一番に出てくる格好のようであり、ひらひら〜、ふわふわ〜とした服装だった。
それぞれが違うのは色や細部であり、大まかなデザインはかなり似ている。
モモちゃんはピンク、ミルクちゃんは白が多めの白黒、ココアちゃんは黒が多めの白黒、クレアさんは茶色と白、キナコちゃんは黄色を基調としている。
私は、水色だった。苗字が和泉だからだろうか。
「きゃぁ〜!かわいい、かわい〜!!それじゃ、これからはずっとそれで!変更はなし!頑張ってね!」
それは、満面の笑みだった。とても楽しそうににっこりと笑い、そして、この格好に有無を言わせる暇もなく、虚空へと消えた。
あの笑顔が見れたならこの格好も良しとしよう。私は、それだけの価値があったと考えながら、初めてあった日の去り際のエミの笑顔を思い出していた。
しかし、皆はそう簡単に納得できなかったらしく、顔を赤くしながら、
「「「「「えぇぇ!!!?」」」」」
と、叫んでいた。
昨日のことに怯えている暇などなかったのは、彼女たちの様子から言うまでもないだろう。
ありがとうございました!
評価、感想、ブックマークなど、お待ちしております!




