ここから本番
よろしくお願いします!
今日の宿題は終わり、明日の準備をした。後はもう寝るだけだ。今日は、修学旅行という学生生活最大の行事と言ってもいいことを思い出し、一日中はしゃいでしまった。モモちゃん達は少し困っていたようにも思える。少し、反省をしなくてはならないだろう。
私の様子が朝とは一変し、両親はひどく困惑をしていたが、もうすぐ修学旅行の班決めがあり、とても楽しみだと言うと、すっかり納得した様子を見せ、もしかして忘れていたんじゃないかと笑われてしまった。事実、その通りなので私も笑った。家族みんながこんなに笑うのは久しぶりだったため、とてもいい気分だ。
こんな感じで、一日をはしゃいで笑っていたら少し疲れてしまったようだ。それなりの眠気が襲ってきた。なんだか、デジャヴを感じる気がするが、眠気のあまり考えがまとまらない。
私は、布団に潜るとすぐに、眠りへついた。
*
ぼんやりとした意識が徐々にはっきりとしていく。私はさっき布団に潜ったばかりのはずなのに……もう朝になったのだろうか。それほど深い眠りに落ちていたのだろうか。そんなことを考えていると、どこかからともなく声が聞こえてきた。
「……ちゃ……!ユユちゃん!」
それは、聞き慣れた友人の声で。その子に名前を呼ばれると少し嬉しくなる。手を伸ばすとその手がぎゅっと握られ、そこで意識がはっきりとした。
「……!ここは……モモちゃん?」
「ユユちゃん!目が覚めたー?もう他のみんなは目が覚めてて、後はユユちゃんだけだったの。昨日のこと、覚えてるー?」
辺りを見回すとすでに他のみんながいて私のことを見下ろしていた。それも、どこかソワソワとして何かを聞きたそうにしていた。
「むぅ……ユユ。ウサギの能力はどこまでわかった?」
クレアさんにそう言われて、やっとはっきりと思い出した。皆、昨日の結果を知りたがっている。
「ごめんなさい……全部はわからなかった。あと一つ、何かがあるってことまではわかったんだけど」
「そっ……か」
私の言葉に、皆は落胆を隠せていなかった。それはそうだろう。昨日、決死の思いで頑張ったことが報われなかったのだ。そんな気持ちになって当然だ。
「……ん、あれー?ユユちゃん、あと一つということは、ほとんどわかったってことー?」
「あ、うん。ウサギの能力で分かったのは……」
私はモモちゃんに聞かれ、ウサギの能力についてわかったことを全て説明した。
攻撃手段は、基本的に角を突き刺すのみであり、そのため直線的な攻撃が多いこと。
ウサギらしく耳がよく、不意打ちが難しいこと。
走る速さは、体の大きさもあり、そこまで速くなく、人が走るのと同じくらいであること。
そして、ゆっくりと移動をすることで、ほぼ完全に気配を消して移動することができること。
ここまで聞いて、皆がポカンとしていた。
「なによそれ、目的の部分がわかってるじゃない。それに、あと一つって、昨日見たことでしょ」
「そう……だね。昨日、仲間を、呼んだから……多分、それ。そして、それを、使うときは」
「ウサギの感情が昂る、とか?全身が赤くなってたから、特に怒りとかじゃない?」
「むぅ?ユユ。これで全部?」
あと一つ、それの詳細がわからなくて、私は皆の期待に応えられなかったと、そう思っていた。しかし、皆がそうではないと示してくれた。
「う、うん。これで全部だよ。私、皆の役に立てた、かな?」
「ユユちゃーん!すごいよー!これで、ウサギに遭遇する確立がグッと下がるよー!」
私が、不安そうにしていると、モモちゃんがすぐに飛びついてきて、目をキラキラさせて喜んでくれた。その顔を見ると私も笑顔が浮かんでくる。
私たちの間に喜ばしい空気が広がる。これなら、生き残ることができるかもしれないと希望すら見えてきた。
そんな空気を台無しにする声が聞こえた。
「やっほ〜!夢の世界へいらっしゃい!それとも、おかえりかな?皆、そろった?」
宙空から、突然現れたのは小悪魔のような姿を見てしたエミだった。小さな羽をパタパタと羽ばたかせて、空を飛んでいる。
エミによっていい話がされた試しがなく、何しにきたのかと皆が警戒していた。そして、案の定予感は当たり、思いもよらない言葉が発された。
「初日から、大変だったね〜。けど、あれは自分のできることを確認するチュートリアルみたいなものだから!これからが本番だよ!」
……何を言っているんだ。
皆がそう口に出したいと考えているが、驚愕のあまりに声が出ない。
そんな皆の様子を見ながら、エミはニッコリとした笑みを浮かべ、嬉々として続きを話す。
「昨日まではウサギさん以外の他の子は隠れてさせてたけど、今日から出てもらうからね!あとは……気づいてたと思うけどすごい存在感の子がいたでしょ〜?その子も今日から動き出すよ!!すっごく強いから、気をつけてね!!」
話している途中からニッコリとした笑みが、だんだんと口を三日月の形にしてニタリとしたものへと変化させた。彼女に対しての恐怖が高まる。
「ふ、ふざけるんじゃないわよ!昨日だけで、私たちは何回も死にかけたのよ!それ以上なんて、生き残れるわけないじゃない!!」
震えながらも、抗議の言葉を口にしたのはココアちゃんだった。彼女は、震えるミルクちゃんをその背に守るようにして立ち、エミを睨みつけた。
「わ!すごーい!今、結構本気の威圧をしたのに、よく言い返せたね!!すごい、すごい!ご褒美に〜、少しだけ教えてあげる。何がいいかな〜……あ、そだ。一番強い子意外は、ウサギさんとおんなじくらいだから、そんなに心配しなくて大丈夫だよ!数は多くなるけどね!」
エミは、ココアちゃんの態度に感心したらしく、ニコニコしながら楽しそうにして、少なくとも無理難題ではないと説明してくれた。
「何度も言うけど、みんなで協力すること!これが大事だからね!それじゃ、そろそろはじめよ〜!」
彼女は、片手を振り上げ、手をグーにして上へと突き出した。
「ではでは、鐘の音が鳴るまで!頑張ってね〜!」
彼女は、終始テンションが高く、楽しそうにしたまま、どこかへ消えていった。
反対に、私たちのテンションは地の底まで下がっていたが。
*
私たちの雰囲気は最悪だった。昨日あれだけ頑張ってギリギリだったと言うのに、これからもっと厳しくなると言うのだ。
強さ的には変わりないとは言っても、どんな力を持っているか不明であり、それを知るには昨日と同じくらいのことをしなきゃいけない。皆はそれが、わかっているだけに辛いのだ。
「むぅ……ぼんやりしてる暇はない。ひとまず、作戦を立てよう」
いち早く、気を持ち直したのクレアさんだった。
「近くになにも感じられないから、今のうちだよ。気づいたらすぐに知らせるから」
キナコちゃんも、すでに気持ちを切り替えて、辺りの警戒を開始していた。
クレアさんを中心に作戦をまとめた。とは言っても基本的には昨日と変わりなく、強いて言うなら、モモちゃんとミルクちゃん、そして私はできる限り近くにいること、そして、初めての敵が来た時はミルクちゃんの壁を支える力を強化するためにモモちゃんは力の支援をすることくらいだ。
ミルクちゃんは壁があることから背後を、ココアちゃんは昨日に一人でもかなり対処できることがわかったため一人で左側を、クレアさんは右側を、そして、キナコちゃんが先陣を切り、私たちは進み始めた。
エミがいなくなり、スタートしてからすでに十五分ほど経つが、キナコちゃんのおかげで未だに敵と遭遇していない。
今日はこのまま……なんて、淡い希望を持ってみるが、すぐに打ち砕かれた。
「止まって。あの木の真ん中あたりから嫌な感覚がする。ここまでこないと気づかなかった上に、姿が見えないの。みんな、注意して!」
「もしかして、ウサギが、気配を、消してる、とか……?」
「それはない。ウサギが気配を消した時は、素早く動くまで気付けないから」
「ユユ。能力の把握を最優先でお願い」
私は、クレアさんの指示に従い、ミルクちゃんの壁の後ろからそちらを眺めて、私のできることをしようとした。だが、
「待って、どこにいるの!?」
「あれー……もしかしてー、ユユちゃん」
「うん……見えなきゃ、能力がわからない!!」
ここにきて、私のできることの弱点が発覚した。
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