変化する日々
よろしくお願いします!
昨日の夜はぐっすりと眠れた。三年生になってから少し時間が経って、疲れが出たのだろう。眠気は全くなく、目はぱっちりとしている。
だというのに、なんだか寝覚めが悪い。疲れもなければ、頭も冴えている。それなのに、気分が乗らないのだ。また何か嫌な夢を見た気がするが、それが原因だろうか。体は最高、気分は最悪、といったところである。
こんなことでは、またお父さんとお母さんを心配させてしまう。そう思い、なんとか気持ちを切り替えようとするが、中々うまくいかない。こんな時は、顔でも洗ってすっきりするところだが、体はすっきりしているからたちが悪い。
……ひとまず、少し明るく大きな声で挨拶してごまかそう。そして、さっさとご飯食べて学校に向かおう。
私は、両親と顔を合わせる時間を極力減らす努力をして、朝を乗り切った。
*
今日も、変わらない日々。私は、三年目の学校に対して、少し期待をしすぎていたようだ。
部活をしていないために、他のみんなより一足早く、受験勉強へと乗り出し、最近は家の近くの塾にも通いだした。もともと、モモちゃんたちと何かをするわけでもない日は勉強をしていたのもあって、現在でもそれなりに高いレベルの学校を狙えるらしい。
ただ、私は来年、どこの地域に引っ越すかまだわからないために目標の高校がなく、あまりモチベーションが上がらない。できれば、引っ越す場所に可愛い制服の学校があることを願いたい。
今朝は、早くに学校に着いてしまった。私は今、教室には一人ぼっち。特にすることもなく、ボーッと黒板を眺める。
図書室でも行こうかな……
あまりに暇だったので本でも読もうかなとそんなことを考えていると、ふいに教室の扉がガラッと勢いよく開いた。
私は、考え事をしていだ事に加え、ここまではやく来る人はいないだろうと思っており、驚きのあまりに机と椅子をガタッと鳴らして、音の鳴った扉の方へと視線を向けた。
私を驚かす原因となった人物も驚いていたようだ。その表情をみれば、誰が見てもすぐにわかるだろう。
「なんで……あんたがいんの?」
少し語調を強くして、そう言い放ったのはクラス委員長を務めているキナコちゃんだった。
いつもよりもかなり口調が悪いことから、なぜか機嫌が悪いことがうかがえる。それとも、朝はこうなのだろうか。こんなキナコちゃんは初めて見たかもしれない。
「いつもより、少し早く目が覚めちゃって。体と頭はすっきりしてるんだけど、なんか気分は最悪だけどって感じで……気分転換に早く来てみたんだよ」
少し早く起きたのは本当だ。いつもなら、目覚ましの後もお布団の中で十分は粘る。粘り続けてお母さんに叩き起こされる。
「なにそれ、あんたも?」
「……?ということは、キナコちゃんもそんな感じ?早く来たのも?」
「早くはいつものこと。一番に来てる。だから驚いたの。ねぇ、悪夢かなんか見たの?」
「え、うん。もしかして、キナコちゃんも?」
「……モモの話からすると、こいつも二日連続……何か関連が?となると、モモたちも今日、悪夢を見てるかもしれない……」
キナコちゃんは私の答えを聞くと、何か考え込んでしまった。え、放置?聞きたいこと聞いて?
「ねぇ、悪夢のことで何か覚えてない?」
また質問だ。キナコちゃんは、彼女の中でこのことに何か心当たりがあって考えているのか。随分と気になっているようである。
「ちょっと、答えてよ」
「あ、ごめん。目が覚めると、ほとんど覚えてなかったよ。けど、何かがあと少しだったことは覚えてる」
「何かって?」
「わすれちゃった」
「そう……一応、伝えとくけど、私もそんな感じだった」
私は、忘れたことを正直に伝えた。これにより、キナコちゃんは呆れた顔をするだろうと危惧していたが、彼女はあっさりと納得した。それどころか、自分もそうだと言うのである。
「え?なんで教えてくれたの?」
「なんでって。さすがに聞くだけじゃ感じ悪いから。それに、気にならないの?まぁ、もういいや。それじゃ」
キナコちゃんは、次々と言葉を放つが、面倒に感じたのか、会話を終わらせた。彼女はそれっきり、自分の机で何かに取り組んでいた。
……なるほど。朝早くに来ればキナコちゃんと二人きりで会話できるチャンスがあるのか。覚えとこ。
私は、普段話すことができないキナコちゃんとの会話に浮かれていた。しかし、今日はもう会話が終了してしまった。教室には二人もいるのに、ただ呼吸音と、シャーペンで何かを書く音だけが耳に響く。
気まずいとは思わない。これが私たちの距離感だと思う。たまに話す機会があったが、いつもこんな感じであったために慣れてしまったのだ。
普段、話せないキナコちゃんと話せて、私の気分はそれなりに回復していた。早起きは三文の徳とはよくいったものだ。
キナコちゃんとの会話のない時間は気まずくなくても、暇な事には変わりない。
モモちゃん、早く来ないかな……
私は、モモちゃんさえ来れば暇なことはないだろうと、そう考える。その願いが通じたのか、また扉がガラッと開き、お待ちかねの人物が入ってきた。
「あ!モモちゃん、おはよー!」
「……あれー!?ユユちゃんが朝早く来るなんてー……雹でも降るかなー?」
「えぇ!そこまで言う!?ひどいよー……」
「あはは、ごめんねー。それほど、びっくりしたってことだよー」
「もー!」
さっきまでの静寂が嘘のように騒がしくなる。モモちゃんと私の距離感。二年間の努力の結晶だ。
ただ、彼女はどこか無理をしているように感じる。いつもより元気だが、何かを隠すために元気を装っているといった様子だ。
これにはキナコちゃんも気づいたようで、横目でモモちゃんをチラチラと見ている。その後、何か考え込み、それがまとまったのか、私たちの近くへと寄ってきた。
「モモ、どこか無理してるでしょ……もしかして、また何か嫌な夢でもみた?」
「……!わかるー?さすがにバレちゃうねー。ぐっすり眠れたはずなんだけどー……死んじゃうかと思うくらい怖い夢を見たの。それだけしか覚えてないけど、逆にこれだけは覚えてる」
初めは茶化すような口調でだったが、だんだんと真剣になり、そして少しずつ震えていった。
キナコちゃんはその話を聞くと、やっぱりかと呟き、何かノートに書き留めていた。そして、顔を上げると真剣な顔で、
「ユユ、安心して。私たちがそばにいるから」
と言って、その手を握りしめた。モモちゃんの震えは少しおさまり、自然な笑顔が浮かぶ。
「うん……ありがとー、キーちゃん」
その後、だんだんと人が増え、朝のホームルームの時間となる。
……キナコちゃんと会話をするのは今までもたまに機会があった。つまり、やはり私の日々は変わってはいないのだ。ちょっとしたことに少し気分が上下されるが、それだけだ。ぼんやりと、先生の話を聞き流す。
いつも通り、特にこれといった話はない。もうすぐ、受験だからしっかり勉強するようにだったり、最近の教室は少し汚れているから掃除をしっかりと行うようにだったり、以前にも聞いたことある内容だ。
私はそう考えていると、その考えを吹き飛ばすような内容の話が先生の口から飛び出てきた。
「後は……来週の時間のある時に、修学旅行の班員を決めてもらいます。数は基本的に一つの班に五人から七人です。あまり、時間は取れないので、事前にある程度話し合っておいて下さい。以上で朝のホームルームを終わります。日直さん、お願いします」
「きりーつ、れーい」
皆が、ありがとうございましたと口を揃えて言っていたが、私はその言葉を口に出すことができなかった。
修学旅行、だって!?
そうか、そんなものがあった。すっかり忘れていた。なんてことだ。私はそれに三年間の友達と一緒に行くことができると言うのか。
そのことを実感すると、あぁ、私はなんで幸せなんだろう、と思えてくる。今からとても、楽しみになってきた。そういえば、どこにいくかも知らない。私には縁がないと諦めてチェックしていなかったのだ。あとでモモちゃんに聞いてみよう。
私は、ずっと浮かれてこの高いテンションのまま、一日を過ごしたのだった。
*
「モモ、あいつなんであんなにテンション高かったの?」
「あはは、多分、修学旅行のことだねー。楽しみだもんねー」
ユユの帰宅後、モモとキナコは二人で今日のことに対して会話をしていた。
「それか。そうだ、そのことなんだけど、モモ。前に言ったこと、考えてくれた?」
「それはー……」
「私たちのためなんだよ。ちゃんと、わかってるの?」
「……うん。あっ、そろそろ時間だ!私、いかなくちゃー!またねー!」
モモは明らかに、話題を避けて、逃げ出した。
「もう、時間がないって言うのに……」
キナコはモモが飛び出して行った扉の方向を眺め続けた。
ありがとうございました!
評価、感想、ブックマークなど、お待ちしております!




