更なるできること
よろしくお願いします!
前話において、モモのことをユユと誤って表記してしまった部分があったため、修正しました。大変申し訳ございませんでした。
私たちは、キナコちゃんに先導をしてもらい、ミルクちゃんは後方、他の人で左右を警戒しながら、すこし早足に森の中を進む。
クレアさんは右手で肩をおさえている、というより私たちに見せないように隠しており、あまり心配させないようにしている。
しかし、その怪我をすることになった理由である、庇われたモモちゃんがそれを見て無視できるはずもなく、先ほどのウサギと戦った場所からある程度、離れたことを確認すると、言葉を発した。
「クーちゃん、その傷、見せてくれない?」
「……どうして?」
「その傷を負ったのは私のせいだし……なにより、さっきから動かしてないのを見る限り、動かないんじゃないかって」
「……!クレア、あんた、動かせないの?」
「むぅ、さすがに気づかれるね……うん、ごめん。ほとんど、動かない」
クレアさんの告白に、誰もが息を呑み、ミルクちゃんは泣きそうな顔をした。
しかし、モモちゃんだけは違った。
「その傷、治せるかもしれない」
いつになく真剣な表情で、私たちにそう告げたのだ。
「ど、どういうこと?モモ、だって、さっきは力を強くしたり、やられにくくしたりって言ってたじゃない」
「それがね、クーちゃんの傷を見たら、何かできる感覚が湧いてきたの」
「……私もなんだけど、さっき何かできることはないかって考えながらウサギを見てたら、ウサギが次にどんな動きをするかわかるようになったの。だから、もしかしたら、まだ知らないだけで、できることがあるのかも」
モモちゃんと私の言葉に、ココアちゃんとクレアさんが何かを考える素振りを見せた。
「クレア。私、確認したいことがあるわ」
「そうだね……キナコの嫌な予感のことも気になる。どうして、あんなにすぐ近くまで気づけなかったのかな。今はこうして、敵に会わずに済んでるのに」
「キーちゃん、どこか落ち着けそうなところないかな?」
モモちゃんにそう尋ねられたキナコちゃんは、辺りをぐるりと確認して、足を止めた。
「今、ここなら何も感じられない。一度、話をしよう」
キナコちゃんは言われるまでもなく、すでに落ち着ける場所を探していたようだ。ただ、落ち着けるはずなのに、その表情はどこか険しく、私の方を向いていた。
*
私たちはそれぞれ、木にもたれかかるなどして、腰を落ち着けた。
キナコちゃんが、皆に嫌な感覚がした場合はすぐに伝えるが、それぞれ周辺を注意するようにと前置きを置いて、話が始まった。
「まず、私からいいかな?」
手を挙げながら、一番に声を上げたのはモモちゃんだった。その視線はクレアさんへと向いており、誰もが傷のことだとわかった。
「この傷、治せるの?」
クレアさんは、そういうと自身の傷を見せてくれた。その傷は、ぽっかりと円状に穴があいており、反対側が見えた。しかし、どういうわけか、血が出ることはなく、傷の断面もただ黒くのっぺりとしているだけだった。その上、刺されたときは衝撃だけであり、その時も今も痛みを全く感じないそうだ。
この現象に対して、少し話をしたが、現状では何かわかることもなく、こういうものだと納得した。
しかし、キナコちゃんはこれに対して、ある考えを出した。
「エミは、この世界を生き残れって言ってた。けど、傷が原因で失血死なんてことはないと考えると……首とか心臓とか、重要な部分を傷つけられちゃったら」
「そうだね。そういうことになると思う」
キナコちゃんの考えにはクレアさんも同意して、全員の共通認識となった。
「それじゃ、治すね?ただ……どうしてもピアノを弾く必要があって、少し時間がかかるかもしれなくって」
「クレアは戦いにおいて一番、重要よ。もし、何か来ても私とミルクで何とかしてみせるわ。だから、すぐに始めて。ミルク、いいわよね?」
「……う、うん、お姉ちゃん。クレアちゃん、心配、しないで?」
「……ありがとう。モモ、始めてくれる?」
「わかった」
クレアさんに、お願いされ、辺りに綺麗な音色が響き渡る。幸いなことに、怪我を治す演奏は激しいものではなく、ゆったりとしたテンポであり、騒がしいものではなかった。
ピアノの音色が光の粒子となり、傷へと集まり、徐々にではあるが、塞がっていく様子が見てとれた。
これには、皆がほっと息をなでおろし、安心した顔を見せた。やはり、ここにいる全員、クレアさんをかなり心配していたようだ。
音楽を鳴らし始めて、少し経ってもキナコちゃんから何も合図がないことを確認すると、話が再開された。
「ココア、確認したいことって?」
「それなんだけど……ちょっとやってみるわ」
ココアちゃんは、そう言うや否や、離れた場所で、、手のひらの上に爆発する球体を作り出した。目を閉じ、集中した様子を見せ、少しするとその球体を消して近づいてきた。
「……何か、わかっ、た?」
「ええ。やっぱり、威力があがらないわ」
「ど、どういうこと!?」
ミルクちゃんの問いに対するココアちゃんの答えは、驚くべきものであったため、私は声を大きくして驚いた。
「……おそらく、これをぶつける相手と会うまで威力を上げられないんだと思うわ。……あんたもそうみたいだけど、実際にその場面にならないとわからないものね」
「あ、そうだねー。ユユちゃんも相手の動きが読めるようになったーって言ってたもんね」
「な、なるほど。それなら、他のみんなは?」
私は、ココアちゃんと、モモちゃんの言葉に納得した素振りをした。モモちゃんは、傷を治せそうで安心したのか、間伸びした話し方に戻っていた。
そして、私の質問に対して、それぞれ順番に心当たりを話し始めた。私とモモちゃんは、今回みたいに何かできることの幅が広がるかもしれない、と。ミルクちゃんとクレアさんは、何となくこれ以上できることはない気がする、と。ココアちゃんは、今回わかったことはできることの制限だったが、少なくとも制限が増えることはない気がする、と。
キナコちゃん以外の、全員が話し終わると、自然と、キナコちゃんへと皆の視線が向いた。
「そうだ、さっきのウサギ。キナコは、ギリギリまで気付けなかった」
「ねぇ、それ、近くにいたのって、本当?今は、あっちの方にウサギの時と同じ嫌な感覚を感じるんだけど。まさか、テキトーなこと言ってるんじゃないの?」
クレアさんが、私の言葉を思い出し、ウサギが近くにいたのに気付けなかったことを指摘する。しかし、キナコちゃんはそもそも、それを言っているのは私だけで、テキトーなのではないかと反論する。
「むぅ?テキトーなの?」
クレアさんはその発言に流され、私に詳しい説明を求めた。
なんだか、戦っている時のクレアさんと普通に話してる時のクレアさんはまるで別人のように感じる。今は、少し気が抜けているのかな?と、思う。
「えっとね、最初、相手の能力とか弱点がわかるって言ったでしょ?けど、そうじゃなくてね」
「相手の動きもわかるんだよねー」
「うん。もっと言うと情報がわかるの。それこそ、近くにいた理由とか」
「もし、それが本当なら、キナコのできることはどうなるのよ。今は、ちゃんと使えてるじゃない」
私の言っていることが本当なら。証明が難しいことだが、本当ならといった方向で話を進めてくれた。私はそれに感謝しつつ、できる限りの説明を続けた。
「ウサギは音を聞いてから、気配を消してゆっくり近づいたって。私がわかったのはそこまでだったんだ」
「……あれ?お姉ちゃんが、原因な、だけ?」
「ミーちゃん、厳しいねー。否定しないけどー」
「……悪かったわよ。不用意に使わないようにするわ」
ココアちゃんが理由であったと、話がまとまり出していた。しかし、そこに待ったがかかる。
「むぅ?それなら、ウサギ、近くにいるかも……」
「……!そっか、気配、消されたら、気付けない」
クレアさんの言葉に、ミルクちゃんがその可能性に思い当たる。クレアさんは治療中であったが、すでに右手に刀を握り締め、周囲を見まわし始めていた。
その様子を苦々しい表情で見ていたキナコちゃんは、両手の拳を握り何か意を決した様子を見せ、
「あのウサギに、会いに行こう」
と、その場にいた誰もが驚愕する発言をしたのだった。
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