はじまり、はじまり
よろしくお願いします!
私は無事に帰宅した。
帰宅からは、誰かから連絡があったとか、特にこれといったことはなく、宿題をしたり、テレビや動画を見たりして時間を潰し、晩御飯を食べ、お風呂に入り、家族と談笑して、自室へと戻った。
なんて事ない、普段の生活だ。
ただ、少し違いがあるとしたら、眠気だ。いつもより、ちょっと眠いかな程度の違和感。今日はぐっすりと寝れそうと予感させられるものだ。
明日の支度を済ませて、誰かから連絡が来ていないかスマホを一度見て、何もないことを確認すると、私は布団へ入った。
その途端、眠気がどっと押し寄せてきた。それも、怖いと感じるほどに。ただ、それほどの眠気に耐えられるはずもなく、私は夢の世界へと旅立ったのだった。
*
気づけば、森の中だった。見覚えが、ある。そう思うと同時に、この世界について知ってる全てを、思い出す。
なんで、忘れてたの!?と、パニックに陥りかけた時、声がかかった。
「ユユちゃん……?」
私が、その声を聞き間違えるはずもない。ばっと声がした方へと振り返り、声の主の名前を口に出す。
「モモちゃん!」
モモちゃんの存在を確認し、私はほっとした。しかし、モモちゃんの表情は悲しそうな、希望を失ったかのようなものだった。
「どうして!?どうして、ユユちゃんまで……?!」
「モモちゃん……どうしたの?落ち着いて?」
「だって、これは、私たちへの……そう思ったのに。どうして、ユユちゃんまで……」
私が何とかモモちゃんを宥めようと苦戦していると、すでにいた皆が次々と現状を把握していった。
ミルクちゃんはココアちゃんと互いを抱きしめ合い、かたまっていた。キナコちゃんは、ハッとするとすぐに周囲を確認し出した。
「ここは……!皆、いる!?」
そう言ってみんなの無事を確認したのはクレアさんだった。その目が私を捉えたとき、
「なんで、ユユが……?」
と、疑問を口にした。その言葉に反応し、他の三人もこちらを向き、顔を驚きの表情へと変えていた。
「それは、私が説明するね!」
突然、どこかから声が聞こえた。
いち早く、それを察知したのはキナコちゃんだった。
「空を見て!」
その姿は、小悪魔そのものだった。威圧感、恐怖感は、小悪魔なんて生やさしいものではなく、本物の悪魔のようでそら恐ろしく、目を背けたくなった。
空を飛んでいる小悪魔、エミは私たちへとにっこりとした笑みを向けている。
「というか、言ったでしょ?友達、全員で協力して生き残ってねって。それでもう、わかるでしょ?ほんとにそれだけだから、頑張ってね?」
「ユユは……」
「キナコ!!!!!」
エミの言葉に対するキナコの言葉を遮り、大きな声を出したのはモモちゃんだった。
その声音からは、かなりの怒気が感じられた。そうでなくとも、モモちゃんが怒っているのはわかる。なぜなら、モモちゃんが友達に対して怒るとき、その子の名前を呼び捨てにする癖があるからだ。
しかし、モモちゃんは何に怒ったのだろうか。私にはキナコちゃんが何を言おうとしたのか、想像もつかなかった。
モモちゃんの剣幕に、キナコちゃんはたじろぎ、口をつぐんだ。そして、その場は沈黙が支配した。
「お話は終わったかな?ユユちゃんも相変わらずのようで」
「私……?」
「あ、気づいてないなら気にしなくていいよ!それじゃあ、これから一時間、みんなで協力してがんばってね!」
エミは、そう言うと、にっこりした笑みをにたりとしたものへと変え、
「夢の世界のはじまり、はじまり〜」
と、言い残して、虚空へと姿を消した。
この場を支配しているのはエミでなく、沈黙と気まずい空気になった。
*
気まずい空気をものともせず、
「まずは、それぞれのできることを確認しよう」
と、発言し、沈黙をやぶったのはクレアさんだった。
さすが、物怖じしない、マイペースなクレアさん。
その一言を皮切りに、一人一人、できることを説明していった。
「まずは、私から。この刀で斬る。あと、この刀を持ってる時は、身体能力が上がる」
クレアさんは実際に刀を手に持ち、近くの木の枝を切り落としてみせた。威力としては、さすがに岩だとか木の幹だとかを切るほど強くはなく、それほど期待できないらしい。その代わり、身体能力の向上により、かなり素早い移動が可能だそうだ。
「私はー、ピアノを演奏している間、皆の支援ができるみたい。力を強くしたり、やられにくくしたりーって感じ。一度にできるのは一つの効果までかなー?」
モモちゃんは、クレアさんにならい、実際に見せて説明してくれた。それは色とりどりのキラキラとした鍵盤で、宙に浮かんでいた。歩くと共についてきて、常に正面にある状態だ。ペダルによる音への影響は想像するだけでいいらしい。
「……えっと、私は、見えるけど、透明な壁?みたいのが、作れるよ。大きさは、正方形で、これくらい」
ミルクちゃんも、実際に壁を出して、見せてくれた。その大きさはかなり大きく、人が横に五人並んでも足りるほどで、後ろに立てばかなり余裕がある。作れる枚数には制限があるようで、一枚のみらしい。ウサギとかに挟まれたらと考えるとすこし物足りない気がする。
「私も、ミルクと一緒がよかったわ……ごめん、私が悪かったわ。だから、睨まないで、モモ。えっと、こんな感じ」
ココアちゃんは、投げやりに、いや、実際に何かを投げて説明をした。ココアちゃんが投げたものが落ちたところでは小さな爆発が起きた。ある程度の範囲を攻撃でき、その威力は込めた想いの大きさによって変化するとのことだ。その想いの量は時間に比例して上昇するとも言っていた。
「今のは瞬間的に込められるだけ込めたミルクへの想いよ!ちょっと、小さすぎた気がするけどね」
「実際、あれでどれくらいの威力があるの?」
「大体、思いっきり両手でどんって押したくらい。押し戻すくらいにしか使えないわよ。昨日見たウサギを倒すなら、五秒は欲しいわね。それで、あの範囲に触れれば、ハンマーで叩いたくらいの威力になるわ」
最大の威力はピンと来ないらしい。というのも、威力は相手をみることでどれくらいの時間が必要で、どれくらいの強さになるかがわかるようになるそうだ。
「ココアちゃんたちも、あのウサギに会ってたんだね。エミって子は、倒せそうだった?」
「……無理よ。一発とかそうでなく、効かない。そう感じたわ……それより、キナコ。あんたのできることは?」
ココアちゃんは、エミの圧倒的な差を教えてくれると、先程からの質問責めがきつかったのか、キナコちゃんへと、話題を逸らした。
「……私?私は、何となくなんだけど、危険な感覚がわかる。例えば、あっちからは昨日のウサギから感じられた嫌な感覚がする」
キナコちゃんはあっちと、指を差していた方向を変え、さらに続けた。
「あっちは絶対にだめ。さっきのエミ程じゃないけど、ウサギの数倍、嫌な予感がする」
皆がそちらを向くと、その方向から大きな音が聞こえてきた。私は、思わずごくりと息を飲み込んだ。
そのまま、ぼんやりとそちらを眺めていると、モモちゃんとクレアさんの視線が私に向けられていることに気づいた。
「ユユちゃんは、なにができる?」
「私は……」
モモちゃんの声で、他の三人も私の方を向いたのを確認し、伝えた。
「見た相手の、能力とか弱点がわかる、かな?」
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