第71話 七人での旅立ち
翌朝。
僕達はいつもより早く目を覚ました。
今日で、このマーラ・ドシタルともお別れだ。
荷物は昨日のうちにほとんど馬車へ積み終えている。
残っているのは、宿に持ち込んでいた最低限の荷物だけだった。
「忘れ物は無い?」
僕が確認すると、皆それぞれ自分の荷物を見直す。
「私は大丈夫です。」
リオさんが答える。
「ボクも!」
「私も問題ありません。」
ラウちゃん、マシューも続く。
ザン君は既に一度荷物を全て確認したらしい。
「ベル殿。馬車、バラッド共に問題ありません。」
「ありがとう。」
「ディー君は?」
フィオちゃんが聞く。
「僕も大丈夫。」
ミュラはそう言いながら、自分の荷物を軽く叩いた。
その瞬間。
僕とミュラの視線がほんの一瞬だけ合った。
昨日までの出来事。
そして、ギルドでの事。
だが――。
今ここで話す必要は無い。
「それじゃあ行こうか。」
僕達は宿を出た。
宿代については既に精算済みだ。
店主さんへ最後の挨拶を済ませ、町の外へ向かう。
朝のマーラ・ドシタルは、既に多くの人が行き交っていた。
店を開く準備をする商人。
荷物を運ぶ人。
仕事へ向かう冒険者。
「結構長くいた気がするねぇ。」
ラウちゃんが周囲を見渡す。
「色々あったからね。」
ミュラが答えた。
本当にそうだ。
この町へ来た時。
僕達は6人だった。
そして今は――7人。
「ベル君!」
フィオちゃんが馬車の横を歩きながら僕を見る。
「何?」
「あたし、何か変な感じ。」
「変な感じ?」
「うん。」
フィオちゃんは少しだけ笑った。
「今まで町を出る時って、いつもあたし1人だったから。」
そう言われて、僕は気付いた。
元司祭を辞めて旅芸人になってから。
フィオちゃんはずっと1人で旅をしてきた。
でも今日は違う。
「これからは1人じゃないよ。」
僕が言うと、
「うん!」
フィオちゃんはいつもの明るい笑顔を見せた。
「あたしもセイラスだからね!」
「そういう事。」
すると前を歩いていたラウちゃんが振り返る。
「フィオちゃん! 次の町まで馬車の中で何して遊ぶ?」
「もう遊ぶ話!?」
「だって暇になるじゃん!」
「じゃあ楽器持ってくる!」
「それ絶対楽しい!」
……本当に仲良くなったなぁ。
町の門が見えてきた。
その時。
「あっ!」
マシューが声を上げる。
「ベルさん、あそこ!」
門の近くに、見覚えのある4人が立っていた。
「グランさん達?」
リュートグランの4人だった。
僕達に気付くと、グランさんがこちらへ歩いて来る。
「皆さん。今日出発されるんですね。」
「はい。」
「昨日、宿で聞きまして。」
「わざわざ見送りに来てくれたんですか?」
「勿論です。」
グランさんは笑った。
「私達は皆さんに助けていただきましたから。」
アリーさんも腕を組みながら頷く。
「あたし達、本当に死ぬと思ってたからね。」
「大袈裟じゃなく、本当に助かりました。」
メリュスさんも続いた。
マビュセルさんも、
「次はあんな無茶なクエストを受けないようにします。」
と少し苦笑する。
「それが良いと思います。」
僕も笑った。
ただ――。
クエストの件は、まだ完全には終わっていない。
レイグ・アルドナ。
ガラバル。
存在しないクエスト。
そして、残された依頼書。
「グランさん。」
「はい?」
「例の依頼書、無くさないで下さいね。」
「勿論です。」
グランさんの表情が少し真剣になる。
「大切に保管しておきます。」
「何か分かったら、ギルドにも伝えて下さい。」
「分かりました。」
そこへフィオちゃんが一歩前へ出る。
「グランさん達も気を付けてね!」
「フィオさんも。」
「今度会った時は、セイラスの仲間としてもっと活躍してるかもしれないよ?」
「楽しみにしています。」
グランさんが笑った。
アリーさんも、
「フィオさん、次会った時も元気そうだね。」
「当たり前!」
「あはは。そうだね。」
しばらく話した後。
僕達は改めて町の外へ向かう。
「それでは皆さん!」
グランさん達が手を振る。
「お元気で!」
「またねー!」
ラウちゃんとフィオちゃんが大きく手を振り返す。
僕達もそれぞれ別れの挨拶をした。
町の門を抜ける。
少し進んだ所で、僕は一度だけ振り返った。
マーラ・ドシタル。
この町でも、本当に色々な事があった。
グランさん達との出会い。
行方不明になった彼らを探した事。
そして――。
フィオちゃんこと、フィオ・ベックハートとの出会い。
「ベル。」
ミュラが隣へ来る。
「どうした?」
「いや。」
僕は前を向く。
「行こう。」
「うん。」
バラッドが馬車を引き始める。
リオさん。
マシュー。
ラウちゃん。
ザン君。
ミュラ。
そして――フィオちゃん。
7人になった僕達。
「ベル様ー!」
前からラウちゃんの声が聞こえる。
「早くー!」
「今行くよ!」
僕は皆の元へ駆けていく。
次に待っているのは、どんな町なのか。
どんな人達と出会うのか。
まだ何も分からない。
だけど…それでいい。
僕達の旅は――。
まだまだ始まったばかりなのだから。
こうして僕達セイラスは、新たな仲間を加え――。
次の町へ向けて、再び旅を始めた。




