第70話 旅立ちの準備
6日間の仕事を終えた翌朝。
今日はもうバイトには行かない。
明日、このマーラ・ドシタルを出発するための準備をする日だ。
「皆、買う物は覚えてる?」
僕は宿の部屋で、昨日まとめた紙を机の上に広げた。
「食料が2週間分。」
「薬と医療用品ですね。」
リオさんが続ける。
「バラッドの飼料と馬車の確認!」
ラウちゃんが元気良く答えた。
「あとは細かい消耗品ですね。」
マシューも確認する。
「よし。じゃあ今日は分かれて買おう。」
7人全員で同じ店へ行っても邪魔になるだけだ。
僕とミュラは食料。
リオさんとマシューは薬や日用品。
ラウちゃんとフィオちゃんには調味料や保存の利く食品。
ザン君はバラッドと馬車関係を任せる事にした。
「カハちゃん1人だけ大変じゃない?」
フィオちゃんが聞く。
「問題ありません。馬車関係は私が一番確認しやすいですので。」
「じゃあ終わったら手伝うよ。」
「ありがとうございます、フィオ殿。」
こうして僕達は町の市場へ向かった。
まず僕とミュラ。
肉、野菜、穀物、干し肉、乾燥野菜。
それに保存の利くパンや豆類。
「ベル、これもあった方が良くない?」
ミュラが乾燥させた果物を手に取る。
「良いね。長持ちするし。」
「7人いるから、前より減るの早いぞ。」
「分かってる。」
以前なら6人分で考えれば良かった。
今はフィオちゃんが増えて7人。
ほんの1人増えただけでも、2週間分となれば随分違う。
「お兄さん、これだけ買うなら少し安くするよ。」
店主さんが大量の品物を見て笑う。
「本当ですか?」
「こんなに買ってくれる客は珍しいからね。」
ありがたい。
予定していたより少し安く済みそうだ。
一方。
「ラウっち、これ美味しそう!」
「フィオちゃん! それお菓子じゃん!」
「保存利くよ?」
「……確かに。」
別の店では、ラウちゃんとフィオちゃんが何やら楽しそうに選んでいた。
「これも買おうよ!」
「でもベル様に怒られない?」
「旅の疲労回復に甘い物は大事!」
「その理屈使えるね!」
……後で確認しておこう。
昼頃、一度全員で集まった。
「食料関係は?」
「大体終わったよ。」
僕は購入した品物を確認する。
食料、調味料、保存食。
少し予定外のお菓子も混ざっていたけど……まあ、この程度なら問題無い。
合計は17万6800ロド。
予定していた18万ロド以内に収まった。
「薬関係はこちらです。」
リオさんとマシューが持って来たのは、薬草や包帯、消毒用品、それに簡単な治療道具。
「回復薬も補充しました。」
「ありがとう。」
こちらは5万3400ロド。
予定より安い。
「フィオちゃんがいるからといって、医療用品を減らさないのは正解ですね。」
マシューが言う。
「あたしもその方が良いと思うよ。」
フィオちゃんも頷いた。
「回復魔法が使えない状況だってあるからね。」
そしてザン君。
「ベル殿、バラッドと馬車の確認も終了しました。」
「どうだった?」
「特に大きな問題はありません。」
蹄も異常無し。
馬車の車輪も破損無し。
ただし、固定具の一部が少し傷んでいたため交換したらしい。
「念のため予備も購入してあります。」
「流石ザン君。」
飼料と馬具関係で2万8600ロド。
馬車の消耗品や予備部品が2万4900ロド。
僕達は宿へ戻ると、買って来た物を馬車へ積み込んでいった。
重い物は下。
途中で使う物は取り出しやすい場所。
薬はすぐ出せる位置へ。
「これ、どこに入れる?」
ラウちゃんが袋を持っている。
「何それ?」
「お菓子。」
「やっぱり買ったの?」
「フィオちゃんが必要だって!」
「ラウっちも賛成したじゃん!」
二人が互いに責任を押し付け始めた。
「別に良いよ。」
「え?」
「予算内なんだし。」
「ベル様ぁ!」
ラウちゃんが嬉しそうに笑う。
「ただし一気に食べないでね。」
「はーい!」
夕方。
全ての準備を終え、僕は今日の出費を計算した。
食料関係。
17万6800ロド。
薬、医療用品。
5万3400ロド。
バラッド関係。
2万8600ロド。
馬車の消耗品など。
2万4900ロド。
「合計……28万3700ロド。」
「予定より大体1万7000ロド程、安く済みましたね。」
リオさんが言う。
「うん。」
昨日までの共有資金は334万2702ロド。
そこから今日使った28万3700ロドを引く。
「残りは305万9002ロド。」
「300万以上残った!」
ラウちゃんが喜ぶ。
これはかなり安心出来る金額だ。
次の町ですぐに仕事が見つからなくても問題無い。
万が一、馬車が壊れたり高額な薬が必要になったりしても、ある程度なら対応出来る。
「準備はこれで全部?」
ミュラが尋ねる。
僕は紙を見る。
食料。
薬。
飼料。
馬車。
荷物。
全て確認済み。
「うん。」
紙を畳む。
「明日の朝、マーラ・ドシタルを出よう。」
「いよいよですね。」
マシューが少し嬉しそうに笑う。
「次はどんな町なんだろうね!」
フィオちゃんも楽しそうだ。
考えてみれば――。
ベル、ミュラ、リオさん、マシュー、ラウちゃん、ザン君。
そしてフィオちゃん。
この7人全員で町から町へ移動するのは、これが初めてになる。
「今日は早めに休もう。」
「明日は朝から移動だからね。」
ミュラも立ち上がる。
マーラ・ドシタルで起きた色々な出来事。
リュートグランとの出会い。
フィオちゃんとの出会い。
そして、まだ答えの出ていない不自然な依頼。
気になる事はいくつか残っている。
それでも――。
僕達は旅を続ける。
明日。
7人となったセイラスは、この町を出発する。
次回、第3章の最終話です!




