第67話 妹の写真
ミュラがギルドへ戻った後。
僕達は先に宿へ戻り、部屋の中で彼を待っていた。
「ディー君、まだかなぁ?」
フィオちゃんが椅子に座りながら入口の方を見る。
「写真を探しているのでしたら、多少時間が掛かるかもしれませんね。」
リオさんが答えた。
「受付の近くって言ってたけどね。」
ラウちゃんも少し心配そうだった。
「誰かに拾われていれば良いんだけど。」
「大切な写真なんですよね?」
マシューが僕を見る。
「妹さんの写真だって。」
「そうみたいだね。」
僕は何も知らないように答えた。
勿論――。
ミュラが本当に何をするためにギルドへ戻ったのかは分かっている。
問題は、無事に話を通せたかどうか。
それだけだった。
「しかし、ミュラ殿に妹君がいらっしゃったのですね。」
ザン君が言う。
「あまり家族についてお話しされませんので、私は初めて知りました。」
「確かに。」
リオさんも頷いた。
「私も詳しく聞いた事はありませんでした。」
「ベル様は知ってるんだよね?」
「まあ、幼馴染だからね。」
「どんな子なの?」
「それは本人から聞いた方が良いんじゃない?」
「え~、気になる~!」
ラウちゃんが不満そうに頬を膨らませる。
そんな話をしていると――。
ガチャッ。
部屋の扉が開いた。
「ゴメンゴメン! お待たせ!」
「ミュラ!」
ようやく戻って来た。
「ディー君!」
フィオちゃんが立ち上がる。
「写真あった?」
「あったあった!」
ミュラは安心したように笑いながら、懐から一枚の写真を取り出した。
「何とか見つかって良かった……。」
「おおっ!」
ラウちゃんが真っ先に近寄る。
「これが妹ちゃん?」
「そう。」
ミュラは写真を皆に見えるように持つ。
そこには、一人の少女が写っていた。
「妹のチェラシー。可愛い妹だよ。」
どことなく嬉しそうな声だった。
さっきまでギルドの奥で何をしていたのかなど、まったく感じさせない。
「へぇ~!」
ラウちゃんが写真を覗き込む。
「可愛いじゃん!」
「本当ですね。」
マシューも笑顔になる。
「ミュラさんと少し似ている気がします。」
「そうかな?」
「目元なんか似ていると思います。」
「確かに。」
リオさんも写真を見る。
「とても可愛らしい方ですね。」
「でしょ?」
ミュラが少し得意そうに笑う。
「ディー君、完全にお兄ちゃんの顔になってるじゃん!」
フィオちゃんが笑った。
「そりゃ妹だからな。」
「チェラシーちゃんって何歳なの?」
「それは――」
ミュラは普通に皆との会話を続けている。
僕もその輪の中に入りながら、いつも通りに振る舞った。
「本当に見つかって良かったね。」
「あぁ。」
ミュラが僕を見る。
ほんの一瞬。
視線が合った。
「ベル。」
「何?」
「ちょっとこれ持って。」
「ん?」
ミュラが写真を僕へ差し出す。
僕は何気なく受け取った。
その時だった。
写真の陰に隠れるように――。
小さな何かが僕の掌へ滑り込んだ。
「…………。」
例の物だ。
ギルドへ戻る前、僕がミュラに渡した物。
誰にも見えないよう、僕はそのまま写真と一緒に握る。
「どう?」
ミュラが普段通りの声で聞く。
「チェラシー、昔とあんまり変わってないだろ?」
「そうだね。」
僕も写真だけを見ているように振る舞う。
「やっぱり面影あるよ。」
「だろ?」
それだけ。
他には何も言わない。
上手くいったのか。
責任者と何を話したのか。
それをここで聞く必要は無かった。
ミュラの表情を見れば――。
少なくとも、目的は果たしたのだろう。
「ベル様、ボクにも見せて!」
「あ、うん。」
ラウちゃんが近付いてくる前に、僕は掌の中の物を素早く服の内側へしまった。
そして写真だけをラウちゃんへ渡す。
「おお~! 確かにミュラ君に似てる!」
「ラウちゃん、さっきから僕の妹を随分気に入ってるな。」
「だって可愛いじゃん!」
「ラウっち、分かる! あたしも妹とか弟の話、大好き!」
「フィオちゃんは弟さんいるもんね!」
「うん!」
いつの間にか話題は完全に家族の話へ移っていた。
僕はその様子を見ながら、そっと服の上から例の物を確認する。
ちゃんと戻って来ている。
そして向かい側では。
ミュラが一瞬だけ僕を見て――。
小さく頷いた。
僕も、ごく僅かに頷き返した。
それだけで十分だった。
今はまだ――。
他の皆に話す時ではない。




