第66話 密かなやり取り
ギルドで一通りの確認を終えた僕達は、建物を後にした。
結局、例の依頼について分かったのは、ガラバルのレイグ・アルドナがグランさん達へ渡した可能性が極めて高いという事。
そして、その依頼自体はギルドの正式な記録には存在しないという事だった。
依頼書は証拠として残してある。
今の僕達に出来るのは、そこまでだ。
「それではベルさん、私達はこの辺りで。」
ギルド前でグランさんが立ち止まった。
「はい。また何かあったら声を掛けて下さい。」
「ありがとうございます。」
グランさん達4人と別れ、僕達七人は宿へ向かって歩き始めた。
「何かスッキリしないねぇ。」
ラウちゃんが腕を頭の後ろで組みながら言う。
「でも、これ以上調べても今は何も出てこないと思うよ。」
フィオちゃんも隣を歩いている。
「そうですね。」
リオさんが頷いた。
「少なくとも依頼書という証拠は残っています。今後何か分かった際に役立つでしょう。」
先頭付近では、そんな話が続いていた。
その少し後ろ。
僕とミュラは、他のみんなから少し距離を空けて歩いていた。
「……ミュラ。」
僕は前を見たまま、小さな声で呼ぶ。
「何?」
「さっきの……やっぱり……。」
「……僕も気になってた。」
互いに声量を抑える。
前を歩くみんなには聞こえていない。
「依頼書の……あれ。」
「うん。」
「もし……だったら……。」
ミュラの表情が僅かに険しくなる。
「かなりマズいな。」
「だから……頼みたい。」
僕は周囲を確認した。
誰もこちらを見ていない。
そのまま服の内側へ手を入れ――小さな何かを取り出した。
手の中に完全に隠れるほどの物だ。
「これ。」
ミュラへ差し出す。
ミュラは一瞬だけ目を見開いた。
「……持って来てたの?」
「念のため。」
「ベル……これを出すって事は……。」
「分かってる。」
僕は小さく頷く。
「頼む……ギルドに……何とか……。」
「……分かった。」
ミュラはそれ以上何も言わず、僕から受け取った物を懐へしまった。
そして数歩。
「あぁーーーっ!!」
突然ミュラが大きな声を出した。
「うわっ!?」
マシューが驚いて振り返る。
「ど、どうしたんですか!?」
ミュラは慌てたように自分の荷物を確認し始めた。
「ヤバっ!!」
「何?」
僕も知らない振りをして聞く。
「マズいなー……妹の写真をギルド内に落としたかも……。」
「写真?」
ラウちゃんが首を傾げる。
「大事な物じゃん! ボクも一緒に探すよ!」
「私も行きます。」
リオさんもすぐに引き返そうとする。
マシューやザン君も同様だった。
「いやいや、大丈夫。」
ミュラは慌てて手を振った。
「多分、受付の近くだから。僕一人で十分だよ。」
「でもディー君、大事な写真なんでしょ?」
「だからこそ場所は覚えてるよ。すぐ戻る。」
フィオちゃんにもそう返す。
「先に宿へ向かってて。」
「本当に一人で大丈夫?」
僕が尋ねる。
勿論、答えは分かっている。
「あぁ。すぐ追いつくよ。」
そう言い残し、ミュラは一人で来た道を引き返していった。
「……写真かぁ。」
ラウちゃんが遠ざかるミュラの背中を見る。
「ちゃんと見つかるといいね。」
「そうだね。」
僕はそう答え、何事も無かったかのように歩き出した。
――一方。
一人ギルドへ戻ったミュラは、先程対応してくれた受付の女性の元へ向かった。
「あら? ディレンさん。どうされました?」
「すみません。」
ミュラは周囲へ視線を向ける。
冒険者達はそれぞれ依頼書を見たり、仲間と話したりしている。
誰もこちらへ注意を向けていない事を確認すると、受付へ一歩近付いた。
そして、先程までとは違う小さな声で言った。
「ここの責任者の方と会いたいのですが……。」
「責任者、ですか?」
「はい。」
受付の女性は少し困った表情を見せた。
「ご用件を伺っても――」
その途中。
ミュラは懐へ手を入れた。
そして僕から預かった物を、受付台の陰になる位置でそっと見せる。
そこには――。
ある紋章が刻まれていた。
「…………!?」
受付の女性の顔色が変わった。
「こ、これは――」
「しっ。」
ミュラは人差し指を口元へ当てる。
声を出さないでほしい。
そう伝えるように、僅かに首を横へ振った。
受付の女性は口を閉じた。
もう一度紋章を見る。
次にミュラを見る。
そして緊張した様子で、小さく頷いた。
「……こちらへ。」
先程までの対応とは明らかに違う。
受付の女性は周囲に悟られないよう、普段通りの表情を作って立ち上がった。
ミュラも何も言わず、その後へ続く。
受付台の横。
一般の冒険者が立ち入る事の無い通路。
その先にある扉が静かに開かれる。
受付の女性はもう一度周囲を確認すると。
ミュラを、ギルドの奥へと案内していった。




