↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/79

第63話 存在しない依頼

グランさんの話を聞いた僕達は、そのままリュートグランの4人と共に冒険者ギルドへ向かう事になった。


目的は一つ。


グランさん達が受けたクエストについて、本当にギルドから正式に発行された物なのか確認するためだ。


「いらっしゃいませ――って、リュートグランの皆さん!」


ギルドへ入ると、受付にいた女性が驚いた表情を見せた。


「無事だったんですね!」


「はい。こちらの皆さんに助けていただきました。」


グランさんが僕達を見る。


「それは良かったです……! 数日間戻られていなかったので、こちらでも心配していたんですよ。」


その言葉を聞き、リオさんが僅かに眉を動かした。


「すみません。一つ確認していただきたい事があります。」


「はい?」


「グランさん達が受けたクエストについてです。」


僕がそう言うと、受付の女性は首を傾げた。


「グランさん達のクエスト……ですか?」


「これです。」


グランさんが荷物の中から一枚の紙を取り出した。


あの時に受け取った依頼書らしい。


失敗したとはいえ、依頼が正式に取り消された訳ではなかったため、まだグランさんが持っていたようだ。


「この依頼です。」


受付の女性は依頼書を受け取り、内容を確認する。


森の奥に生えている薬草の採取。


指定された本数。


簡単な地図。


そして、目的地を示す印。


「……少々お待ちください。」


受付の女性の表情が変わった。


奥に置かれていた分厚い帳簿を持ってきて、何度もページを確認する。


「どうしました?」


「この依頼……登録記録がありません。」


「えっ?」


グランさん達が固まった。


「登録されていない?」


ミュラも表情を険しくする。


「はい。このギルドを通して発行されたクエストであれば、必ず依頼番号と受注記録が残ります。ですが……この依頼に該当する記録がありません。」


「じゃあ偽物って事?」


ラウちゃんが聞く。


「それが……。」


受付の女性は依頼書を机に置いた。


「用紙そのものは、ギルドが使用している物です。」


「え?」


「それに、この印章も本物に見えます。」


「本物の依頼書なのに、記録が無い……。」


マシューが呟く。


何だ、それ。


余計に意味が分からなくなった。


「ベル。」


ミュラが依頼書を見る。


「これ、誰かがギルドの用紙を使って勝手に依頼を作ったんじゃないか?」


「僕もそれを考えてた。」


正規の紙。


正規の印章。


しかし、存在しない依頼。


普通に考えればおかしい。


「それじゃあグランさん。」


リオさんが尋ねる。


「この依頼を受けた時、こちらの受付で手続きをされたんですか?」


「はい。」


グランさんは頷いた。


「確かに、このギルドの中でした。」


「受付の人から?」


「いえ。」


「違うんですか?」


「受付台の近くにいた男性から声を掛けられたんです。」


僕達は顔を見合わせた。


「どういう風に?」


ラウちゃんがすぐに聞く。


「『ちょうど良い依頼がありますよ』と声を掛けられました。」


グランさんは記憶を辿るように答える。


「その人はギルドの仕事をしているような服装でしたし、依頼書にも印があったので、私達も疑わなかったんです。」


「それで、そのまま?」


「はい。」


すると受付の女性が首を横に振る。


「ギルド職員が個人的に冒険者へ依頼を勧める事自体はあります。ですが、その場合でも必ず受付で受注処理を行います。」


「……じゃあ、その男はそれをしなかった。」


フィオちゃんが呟く。


「そういう事になります。」


「グランさん達、その人どんな人だった?」


フィオちゃんが聞く。


「顔とか覚えてる?」


「ある程度は。」


「若い男性でした。」


アリーさんが横から答えた。


「あたしも顔は覚えてるよ。少なくとも年配じゃない。」


「若い男……。」


ザン君が考え込む。


「年齢はどの程度でしょうか?」


「二十代くらいだったと思います。」


グランさんが答えた。


受付の女性はすぐに他の職員を数人呼び、特徴を説明した。


しかし――。


「該当する職員はいませんね。」


「こちらにも思い当たる者はいません。」


誰も、その男性を知らなかった。


「となると……。」


リオさんの声が低くなる。


「ギルド職員ではない人物が、職員を装ってグランさん達に依頼書を渡した可能性が高いという事でしょうか。」


「現時点では、そう考えるしかありません。」


受付の女性も険しい表情をしていた。


「でも、何でグランさん達を?」


フィオちゃんが首を傾げる。


「わざわざこんな依頼作って、危ない森の奥まで行かせる理由って何?」


誰も答えられなかった。


単なる嫌がらせにしては手が込みすぎている。


しかも、本物の用紙や印章まで使われている。


「一つずつ調べよう。」


ミュラが静かに言った。


「まずは、その男が誰なのかを特定する。それが一番早い。」


「でも名前は分からないんですよね?」


僕が聞く。


「はい。」


グランさんが申し訳なさそうに頷く。


「名前を聞く必要が無いと思っていましたので……。」


「だったら、顔から探せば良いんじゃない?」


ラウちゃんが言った。


「顔?」


「うん。グランさん達4人とも見てるなら、特徴を合わせればかなり正確になると思う。」


「似顔絵ですか。」


リオさんが納得したように頷く。


するとマシューが少し考えてから手を挙げた。


「あの……私、描いてみましょうか?」


「マシュー、絵描けるの?」


「上手いかは分かりませんけど……顔の特徴を聞きながら描くくらいなら出来ると思います。」


流石マシュー。


こういう細かい作業には本当に強い。


ギルドから紙と筆記具を借りると、マシューは机に座った。


その正面にはリュートグランの4人。


「では、まず顔の形から教えてください。」


「少し細めだったと思います。」


グランさんが答える。


「髪は短かったよ。」


アリーさんも記憶を辿る。


「前髪は……確か、少し右に流れていました。」


メリュスさんが付け加える。


「目元はもう少し鋭かったですね。」


マビュセルさんも続く。


「分かりました。」


マシューは一つ一つ頷きながら、白い紙へ線を引き始めた。


この依頼を渡した――。


正体不明の、若い男。


僕達はその顔が少しずつ紙の上に浮かび上がっていく様子を、黙って見つめていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。