第62話 不自然なクエスト
フィオちゃんがセイラスに加わってから翌日。
7人となった僕達は、必要な物を買い揃えるため町を歩いていた。
「いや~、7人で歩くと結構多く見えるね!」
「そうかな?」
「そうだよベル君! あたし昨日まで一人だったんだから、余計にそう感じるの!」
フィオちゃんは楽しそうに僕達の少し前を歩いている。
その隣ではラウちゃんも上機嫌だった。
「フィオちゃん! この町を出た後も一緒なんだよね?」
「もちろん! 仲間に入れてもらったばっかりなのに、いきなり抜けないって!」
「やったぁ!」
「ラウっち、本当に喜んでくれるねぇ。」
そんな2人を見ながら歩いていると、向こうから見覚えのある4人組がやって来た。
「あっ。」
「ベルさん!」
「グランさん!」
リュートグランの4人だった。
グランさん、メリュスさん、マビュセルさん、アリーさん。
以前見た時とは違い、4人とも普通に歩けている。
フィオちゃんの回復魔法で怪我もほとんど治ったようだ。
「皆さん、もう大丈夫なんですか?」
「はい。お陰様で問題ありません。」
グランさんが答える。
するとアリーさんも笑いながら、
「本当に助かったよ。あの時はどうなることかと思ったからさ。」
と言った。
「良かったぁ。ちゃんと治ってたみたいだね!」
フィオちゃんも嬉しそうだ。
グランさんはそこで、僕達の中にいる彼女を見て目を丸くした。
「フィオさんもご一緒なんですか?」
「うん! あたし、昨日からセイラスの仲間になったんだ!」
「えっ!?」
4人が揃って驚く。
メリュスさんも、
「昨日からですか? 随分急ですね。」
と驚きを隠せない。
「グランさん達を探してる時から、この人達面白いな~って思ってたんだけどね。色々話してたら、もっと気に入っちゃって!」
「なるほど……。」
グランさんは納得したように笑った。
「改めて、おめでとうございます。」
「ありがと、グランさん!」
しばらく話していると、僕は以前から気になっていた事を思い出した。
「あの……グランさん。」
「はい?」
「あの森で受けていたクエストについて聞いても良いですか?」
グランさんの表情が少し変わった。
するとリオさんも口を開く。
「私も気になっていました。」
「クエスト……ですか?」
「はい。以前にも申し上げましたが、皆さんの実力と、あの森の危険度が合っていないように思えるんです。」
グランさんは少し考えてから答えた。
「私達が受けたのは、討伐クエストではありません。」
「じゃあ……収集ですか?」
マシューが尋ねる。
「はい。森の奥に生えている薬草を採取する依頼でした。」
「薬草……。」
僕は思わずミュラを見る。
「それだけで、あんな場所まで行ったの?」
「僕もそこが気になる。」
ミュラは腕を組んだ。
「グランさん。依頼書には森の危険性について何か書かれていましたか?」
「いえ。」
グランさんは首を横に振る。
「多少魔物が生息しているとは書かれていました。ただ、私達でも十分に対処出来る程度だと。」
「それはおかしいですね。」
ザン君が静かに言った。
「皆様を発見した場所の周辺には、かなり危険な魔物の痕跡がありました。私が見た限り、決してD級の方々が気軽に立ち入るような場所ではありません。」
「うん。」
フィオちゃんも頷く。
「あたしもグランさん達の怪我を治したから分かるけど、普通の魔物相手に付いた傷じゃなかったよ。」
フィオちゃんが使ったのは〖快癒〗ではない。
普通の回復魔法だ。
それでも元司祭だけあって、その腕は僕達より遥かに上だった。
「あれだけ深い傷を何ヶ所も負ってたんだもん。グランさん達が弱かったから、っていう感じじゃなかったよ。」
「あぁ。最初は本当に大したことなかったんだ。」
アリーさんが眉をひそめる。
「途中までは、いつものクエストと変わらなかった。でも奥に進むにつれて、出てくる魔物がどんどん強くなって……。」
マビュセルさんも続ける。
「引き返そうという話も出たんです。でも、目的地はもう少しだと思って進んでしまいました。」
「目的地?」
ラウちゃんが反応した。
「薬草の場所まで指定されてたの?」
「はい。」
グランさんが頷く。
「依頼書に簡単な地図が添えられていました。その地図に印が付けられていたんです。」
「……それ、ちょっと変じゃない?」
ラウちゃんの表情から、それまでの明るい笑顔が消えた。
「薬草を採るだけなんだよね?」
「そうです。」
「だったら、何でそんな危険な所をわざわざ指定するんだろ。」
「え?」
「その薬草って、そこにしか生えてないの?」
「いえ。」
メリュスさんが答える。
「珍しい薬草ではありますが、マーラ・ドシタル周辺でも採取例はあります。」
「やっぱり。」
ラウちゃんが腕を組む。
「それなら余計におかしいよ。」
確かにそうだ。
特定の場所を調査する依頼なら分かる。
だが今回は薬草の採取。
同じ物が別の場所でも採れるなら、わざわざ危険な森の奥まで行かせる必要が無い。
「さらに……。」
リオさんが真剣な表情になる。
「依頼書には実際の危険度が記載されていなかった。」
「リオっちが最初から気にしてた所だね。」
「はい。」
リオさんはグランさん達を見る。
「皆さんが受けたクエストが、本当にギルドから正式に発行された物なのか。一度確認した方が良いと思います。」
「僕もそう思う。」
ミュラが僕を見る。
「ベル、ギルドへ行こう。」
「うん。」
マシューも頷いた。
「もし同じ依頼がまだ残っていたら、別のパーティーが受けてしまうかもしれません。」
それだけは避けたい。
今回は僕達が探しに行き、フィオちゃんも協力してくれたから全員帰って来られた。
でも、次も同じように助かる保証は無い。
「グランさん。」
「はい。」
「僕達と一緒にギルドへ行ってもらえませんか?」
「もちろんです。」
グランさんは迷うことなく頷く。
「私達も、あの依頼については確かめたいと思っていました。」
「そうだね。」
アリーさんも頷いた。
「あたしも、今思えば変だったと思う。」
するとラウちゃんが何かに気付いたように顔を上げた。
「そうだ。グランさん。」
「はい?」
「その依頼を受けた時、受付してくれた人って覚えてる?」
「……覚えています。」
グランさんは少し考え込む。
「ただ……。」
「ただ?」
「今思えば、あの人……。」
そこでグランさんの表情が険しくなった。
「ギルドで見たのは、あの日が初めてだった気がします。」
「…………。」
僕達は顔を見合わせた。
依頼内容。
実際とは異なる危険度。
不自然に指定された場所。
そして、見覚えの無い受付担当者。
偶然が重なっただけなのか。
それとも――。
「とにかく、ギルドで確かめましょう。」
僕がそう言うと、全員が頷いた。
どうやら今回の一件。
ただのクエスト失敗では済まない何かが、隠れているのかもしれない。




