第58話 旅芸人の正体
フィオナさんが自分の泊まっている宿へ戻った後。
僕達四人は、ミュラとマシューの前に並んで座っていた。
「まず言っておくけど、僕はグランさん達を助けに行った事を怒ってる訳じゃない。」
ミュラは声を荒げる事なく、静かにそう言った。
「困ってる人を放っておけないのはベルらしいし、僕だってあの場にいたら捜しに行くって言ったと思う。」
「……うん。」
「でも、3日間も何の連絡も無しで帰って来ないのは別問題だ。」
その言葉に、僕達は何も返せなかった。
「僕とマシューがどれだけ心配したと思う? 最悪の場合、僕達まで捜しに出てたかもしれないんだぞ。」
「そうですよ……。」
マシューも怒鳴る事は無かったが、いつになく真剣な表情をしていた。
「ベルさん達が心配なのはもちろんです。でも、もし私達まで捜しに行って入れ違いになったり、何かに巻き込まれたりしたら……もっと大変な事になってました。」
「…………。」
まったくその通りだ。
グランさん達を助けたいという気持ちばかりが先に立って、待っている2人の事まで考えられていなかった。
「……すみませんでした。」
僕は深く頭を下げた。
「私もです。ベルさんだけの責任ではありません。」
リオさんも続く。
「ボクも……ちゃんと考えるべきだったよ……。」
「私も反省しています。」
ラウちゃんとザン君も頭を下げた。
「次からは必ず誰かに伝えてから行動するよ。」
「あぁ。それならいい。」
ミュラはようやく少しだけ表情を緩めた。
翌日。
僕達6人は町を歩いている途中で、グランさん達と再会した。
「ベルさん!」
「あ、グランさん。」
「昨日は改めて、本当にありがとうございました。皆さんが来てくれなければ、どうなっていたか……。」
「無事だったんですから、それで十分ですよ。」
そんな話をしていた時、僕は昨日から気になっていた事を思い出した。
「そうだ、グランさん。一つ聞いても良いですか?」
「はい?」
「昨日、フィオナさんを見た時……何か知っているような反応をしてましたよね?」
その瞬間、グランさん達の表情が変わった。
「……やっぱり気付きましたか。」
「フィオナさんって、一体何者なんですか?」
グランさんは少し迷った後、静かに口を開いた。
「皆さん……彼女からは、フィオナ・ブラムスと聞いているんですよね?」
「はい。」
「……それは本名ではありません。」
「えっ?」
僕だけでなく、皆から声が漏れる。
「彼女の本当の名前は――フィオ・ベックハート。」
グランさんはさらに続けた。
「かつて、ハイトランダ教大教会で司祭を務めていた人です。」
「司祭……!?」
旅芸人だと思っていたフィオナさん。
いや――フィオ・ベックハートさん。
〖快癒〗を使えた理由。
呪いについて異常なほど詳しかった理由。
今まで感じていた違和感が、一つに繋がった気がした。
けれど…。
「どうして元司祭の人が……旅芸人を?」
その疑問だけは、まだ残ったままだった。




