25話 魔の森の怪異
軽く夏バテでまいっている高錫裕貴です。
もう終盤ではありますが、夏といったらなんでしょう?
お祭り? 花火? スイカ割り?
・・・そう、怪談です。と言っても、自分は苦手ですが。
そんなわけで、今回は最後が少しだけホラー・グロ注意です。
時は再び遡り、アートレア王国王城にて。
「件の少年を第三王女殿下の成人パーティーに招待・・・ですか」
宰相のクレスが諜報部隊から挙げられた報告を伝え、国王ベルンハルトはシグルへの対応を決めた。
「クレスよ、お前の考えてることは分かる。その通りだ」
「ではやはり婿候補に考えておられると?」
「そうだ。だが別になんとしても婿に迎えるというようなことはしない。あくまでそうなれば喜ばしいというだけだ」
ベルンハルトは悪徳貴族の妨害をはね除けながら平民も暮らしやすい善政をしく賢王。故に人の機微にも聡く、報告で聞いた彼の行動パターンからシグルがどんな価値観を持っているのかをある程度理解していた。
「報告で聞いた限りでは、彼はあまり贅を好むようなタイプではない。ガルベージ伯爵の件で得た大金にもほとんど手を着けていないようだしな」
そのような者を下手に金や地位で釣ろうとすれば逆に不興を買うことになるだろう。
ならば、せめて顔見知りくらいにはなっておきたい。そして指名依頼を快く受けてくれる程度に好印象を持ってもらえれば御の字だ。
最大限の利益を追求しつつも、欲をかきすぎることはしない。
求めなければ得ることはできないが、過ぎたる欲は身を滅ぼすというのは基本中の基本だ。・・・中にはそんなことも理解できない愚か者もいるわけだが。
「これはあくまで勘だが、彼はこの国に嵐を呼ぶかもしれん」
「それは・・・彼が災いを起こすと?」
クレスは、ベルンハルトがシグルを“嵐”と表現したことに少し違和感を覚えた。かの少年が悪事を働くとは思えないし、それはベルンハルトも承知のはずだからだ。
「それは語弊があるな。嵐というのは、ただ人に被害をもたらすだけではない。豊かな水を運んできて大地を潤してくれるし、道端のゴミを隅々まで洗い流してくれる。見方を変えれば、むしろ自然の恵みとも言えるのだ」
「なるほど、つまりは・・・」
「彼の周りで起こるかもしれぬ騒動に備えて常に目を光らせ、耳をそばだてておけ。大掃除のチャンスだ」
「御意」
ー ー ー ー ー ー
『安らぎの泉亭』に宿泊し始めてから二日。マリアを狙う襲撃者に備えていたが、特に怪しい動きは見られなかった。
あのようなレベルの高い裏の人間に襲われるからには何らかの理由があるはずなのだが・・・まだまだ分からないことだらけだ。とにかく、警戒は怠らないようにしないとな。
わりと長期戦になりそうなので、マリアの両親にはギルドを通して俺達に指名依頼を出してもらった。
冒険者としてタダ働きをするわけにはいかないというのもそうだが、ギルドに知らせておけば何か新しい情報が手に入るかもしれないと考えたからである。
何しろ冒険者ギルドの情報収集能力は非常に高い。そして一般市民、しかも幼い子供が狙われたと知れば必ず調べを入れるだろう。
それを見越して、既に奴らに関する情報を共有してもらえるようダニエルに話をつけておいた。これでしばらく待っていれば少しは進展するはずだ。
しかし、いつまでもじっとしているわけにもいかない。他にもやらなくてはならないことが山ほどあるからな。
そんなわけで、今日は魔の森の調査だ。
調査では何が出てくるのか分からないので最も戦闘力の高い俺と、森との相性が良いエルフであり、様々な場面で臨機応変に対応することができるシェーラの二人で向かい、残りの二人とフェンはマリアの護衛として留守番してもらうことにした。
留守番と聞いて少し不服そうな二人だったが、理由をきちんと説明すれば納得してくれた。
「よし、それじゃマリアのことは頼んだぞ」
「・・・ん。任せる」
「もちろん、不埒な輩には指一本触れさせませんのでご安心を。シグルさんこそ気を付けてくださいね?」
「おう。じゃあ行こうかシェーラ、準備は良いな?」
「ええ、いつでも大丈夫よ」
こうして、俺とシェーラは留守番組に見送られながら魔の森へと向かった。
ー ー ー ー ー ー
さて、王都を出てからしばらく歩いて魔の森に着いたわけなのだが。
俺は早速帰りたくなってきた。なぜなら、その森は・・・
・・・真夜中のように真っ暗だったからである。
「・・・なんでだよ」
おかしいと思わないか?いくらうっそうとしている森でも木漏れ日くらいはあるもんだろしかもカラスみたいなのがギャーギャー鳴いてて気味が悪いし上はどうみても夜空だしおかしいし今は真っ昼間だろ何で
「・・・ル? ねえシグルってば!」
「っ!? な、何だよ!?」
「何だよ、じゃないわよ。急に反応しなくなるんだもの」
シェーラはやれやれ、とでも言いたげに肩をすくめている。
「まさかとは思うけど・・・」
「何だよ、今度はニヤニヤして・・・」
「シグル、もしかして怖いの?」
「ばっ、何言ってやがる、誇り高き竜人であるこの俺がここここわいなんてあるわけが」
キーッ、キーッ、バサバサバサッ!
「~~~~~~っ!?」
「ふ~ん、怖くない、ねぇ?」
「ちょ、ちょっとホラーな雰囲気が苦手なだけだ!」
「へ~、そうなんだ~?」
実はそうなのだ。
おそらく前世からなのだろうが、俺はホラーが大の苦手なのである。ゾンビやモンスターが出るパニック系は平気だが、心霊系はダメ。全然ダメ。心霊系ホラーなんてものを作ってくれやがった人を呪ってやりたいくらいである。
「くっ、“魔の森”なんて名前ついてんだからこんくらい想定しておけよ、俺のアホ・・・」
「ふふん、怖いなら腕に掴まっていても良いのよ?」
「だから、怖いんじゃなくて苦手なだけだって! 止めろ、抱き寄せるな、頭を撫でるな、嬉しいけど今じゃねえっ!」
「まさかシグルにこんな弱点があったなんてね。意外だったわ。もう、可愛いんだから~♪」
「くそぅ、後で覚えてろよ・・・」
そこで、俺はとあることに気付いた。
「ん? そういえば、昼間でも夜中のように暗くなるなんて魔の森の特徴にあったか?」
「・・・言われてみればそうね。シグルを弄るのに夢中で忘れてたわ」
「おい」
シェーラのおふざけはともかく、魔の森について事前に調べたとき、このような現象が起きるというのはなかった。つまり、今のこの状況はイレギュラーな事態だ。
ということは・・・
「“妖怪”の仕業、ってことか?」
「多分ね」
そうか、ならばよし!
「大丈夫? 急に元気になったみたいだけど?」
「フフフ、その通りだ。少しでも原因が理解できさえすれば何も怖くない!!」
「・・・やっぱり怖かったんじゃない」
シェーラが何か言ってるが気にしない。
大体、“よく分からないモノ”に対して恐怖を覚えるのは当たり前のことであって、何も恥ずかしいことではないのだ。
「そもそも、何がそんなに怖いのよ」
「理由は簡単だ。よく聞くだろ? ゾンビやモンスターは殴れるけど幽霊は殴れないからさ」
「いや、聞いたことないけど・・・」
これは脳筋系のヒロインがよく言うテンプレのひとつだが、俺はこれが真理だと思っている。
物理が効く相手なら殴れば良い。でも物理が効かないと抵抗のしようがない。だから怖いのだ。
・・・例によって、父さんには鼻で笑われたが。
「まあいい。それで、肝心の“妖怪”は一体どこにいるんだ?」
その時。
『・・・クスクス・・・』
ゾクッ・・・!
幼い子供の笑い声が微かに聞こえた。
それも、あまり聞き取れないくらい遠いはずなのにやたらと頭に響き、背筋が凍りつくような声だ。
「な、なあ、今何か聞こえなかったか?」
「え? 何も聞こえないけど?」
頼む、単なる空耳であってくれ。いや待て、どうせ例の“妖怪”仕業だ。そうに決まってる。だから、
『・・・ミ~ツケタ~・・・♪』
「ヒィッ!?」
「だから何なのよ、さっきから」
「い、今確かに聞こえたんだって!」
「はぁ。そろそろ真面目に仕事しないと怒るわよ」
『・・・アトスコシ・・・』
その声は少しずつ、しかし確実に近づいてくる。
「や、や、ヤバいヤバいヤバいってぇ・・・」
「うーん、精霊魔法でもそれらしき気配も感じられない・・・何が起きてるっていうの?」
『・・・ツカマエ゛、タァ゛ッ!』
バッ!
「ギャアアアアアアアアーーーーーーーーーッッ!!!?」
バタッ。
気を失う前の最後に見た記憶は、
異常に肌が白く、空っぽの両目から血を流している五歳くらいの男の子が、ケタケタ嗤っているところだった・・・
作品を読んでいただき、ありがとうございます。
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