第64話 奇跡
作者の体調不良により、後書きはありません。
申し訳ありません
〜神社 社家〜
「……」
「マコト様、起きてらっしゃいますか? 」
「……うん」
「報告ですが、村の復興は滞りなく進んでいます。スサノ様、璃狐、枯狸が主体となって頑張っているようですよ」
「……うん」
結果から話しますが、シロは亡くなりました。肉体は既に瘴気に侵され、心臓も止まっていたそうです。霊体の方はまるで抜け殻のようにその場に漂っているだけ……私は、彼女を助けられなかったんです。
その後は人々の治療や村で破壊された建物などの修繕に追われ、アレコレやっている内に早くも3ヶ月の時間が経過しました。私は暫くまともに食事を取る事も出来なかった、身体が受け付けなかったんです。見えませんが胸にぽっかりと穴が開き、吹く風が其処を通り抜けるような感覚を覚えました……動かなければ空しく、悲しい感情が溢れてくる。それを誤魔化すかのように村の復興に手を掛け、がむしゃらに働き、そして倒れました。
「お粥を作ってみたのですけど、食べられませんか? 」
「……」
「そうだ、おばちゃんの漬けてくれた沢庵もありますよ。味見してみたのですが良い塩梅で――」
「ゴメンね、まだ食べれそうにないや」
「し、しかしッ、このままではマコト様が……! 」
クロは必死に説得してくれている、彼が言っている事も重々承知しているよ。神様と言えど地上で受肉してるわけだし人と同じようにお腹が空く、何も食べなければいずれ死んでしまう……鏡に映った自身の姿が見えたけどコレは危険な状態であるのはよく分かった。
説得が失敗に終わったクロは項垂れながら用意した食事を下げようとする、申し訳なく思った私は彼を引き留めました。
「ちょっと待って、せっかく用意してくれたのに一口も食べないのは駄目だったね。頑張って食べてみるよ」
「は、はい! 身体も弱っておられますし、ゆっくりとお食べください。僕は襖の奥で作業してますので、何かあれば声を掛けてもらえばすぐにでも……」
「うん、ありがと」
クロは私の身体を起き上がらせると、目の前に低めの机を置き、その上に食事の乗ったお盆を置いてくれました。彼も気を使ってくれたみたいで、お米の量は少なめにしてくれていました。木製のスプーンですくって口に運ぶ……すぐには飲み込まないでゆっくりとお米を嚙み締めました。
「……う」
思っていた通り、何かを食べようとするのがとても辛い。吐き気がし、戻しそうになりましたが必死に耐えて飲み込みました。……逆流してくる様子は感じられません、久しぶりに食事を取りました。胃の中にお米と水分んが到達するのを感じた時は少し驚きましたね。
1時間、いやもう少しかな? ゆっくりと食べ進め、ようやく完食。クロに声を掛けようとしましたが急に眠気が襲ってきました。思った以上に体力を使ったみたいです……何とか食器の乗ったお盆を布団の脇に移動させ、私はそのまま意識を失ってしまいました。
「……マコト様? 入りますよ? 」
食事の音が聞こえなくなり、数十分の時間が経過した。クロは食器を回収する為にマコトの部屋に入ろうとする、念のために声を掛けるが返答は帰ってこない。
なるべく音を立てないように襖を開けると、布団に横たわるマコトの姿が見えた。一瞬ドキリとしたクロであったが、静かな寝息が聞こえた事でホッとする。彼は慣れた手付きで片付けを進め、マコトを正しい姿勢になるよう布団に戻した。
「お疲れ様でした、ゆっくりお休みください」
※※※
〜ヒノモト村〜
クロは警護の為に神社へ式神を配置し、村へと降りていった。彼の後ろにはシロの霊体がいる、まるで背後霊のように……しかし感情を表に出したり自ら動くことなく、クロが行く先に付いていくだけだ。
だが例外はある。それは周囲に誰もおらず、彼が一人でいる時だ。
ガスッ
「痛いってば、シロ」
『……』
彼女が答える様子は全くない、一定の間隔でクロの背中に蹴りつけているのだ。まるで何かを伝えたいかのようにも感じるが、単に蹴りたいから蹴っているだけなのかもしれない……表情が変わらないので何の為に蹴っているのかはさっぱりだ。蹴りの強さは軽く押す程度のようだが、角度によって痛い時もあるらしい
意志示すのが無駄と思ったクロはため息をついて宿の帳簿整理を再開する、その後もシロからの執拗な蹴りは続いた。無視を続けたからかその間は心なしか蹴る力が強くなっていた気がしたクロ……しかし実体の彼ではシロを掴む事はできない。お札を使ってしまっては彼女を霧散させてしまうかもしれない、クロは動きを封じるために霊体となる、その瞬間にシロは動いた。
『なツ……!? 』
「……」
シロの霊体はクロの身体に入り込んでしまう、突然の事で彼も理解が追いついていない。身体を奪ったシロはまるで自分の身体を慣らすのような動きをする。そして深呼吸をした後、宿の管理人室を飛び出した。
身体は何処かぎこちない動きで神社の方角へ向かっていく、まだクロの身体に慣れていないらしい。ぶつかったり、転んだりした時は霊体であるクロへ痛みが伝わってくる……それゆえに彼もまともに追いかけられないでいた。
『ま、待って! 』
「……」
ゴツンッ、ガツッ!
『あ痛ッ!? 痛い痛い! くぅ~……こ、小指は痛いィ』
そのような事は問答無用で突き進む自身の身体、クロは必死に痛みに耐えながら追いかけていく……そして身体は神社境内にあるマコトの家の前で立ち止まった。
「……あ、ああ。ふむ、ようやっと声が出せたな」
『ぜぇ、ぜぇ……し、シロなの? 』
「そうだ、アチキはシロだ。貴様が無視するから遅くなってしまったではないか」
奇跡と言うべきなのだろうか、シロの人格が蘇ったようだ。クロの理解は追いつかず、質問を続ける……どうやら彼女は暗鬼との戦いで自身が肉体を失う事を予想していたらしく、自由を奪われる直前に霊体の一部、いわゆるバックアップを村の各所に飛ばしていたようだ。マコトが地区を解放していくにつれて自由になり、クロの身体に宿っていったと説明してくれる。偽物と対峙した際に姿を現していたが、それも同様の存在としてとの事……最重要な部分を彼の身体に残し、マコトと一緒に戦っていたそうだ。
そして今、シロは霊体として復活する事が出来たのであった。




