第65話 さようなら、また会う日まで
「……ん、なんか少し身体が軽い? 」
久しぶりに食事をしたからか、今まで感じていた睡眠後の気怠さがありません。やはり地上で生きる上で食事は大切なんですね、今度からは少し無理をしてでも食べた方が良いかもしれません。
寝ている間にクロは仕事に戻ってしまったみたいですね。
「フム、汗も搔いてるし身体を拭こう。ちょっと気持ち悪いや、えっと手ぬぐいはっと……」
布団から身体を起こすところまでは良かったのですが、そこから立ち上がろうとするのがとても辛いッ。戦いの後はほとんど布団の上でしたからね……筋肉が衰えてしまってるのでしょう、腕と足を霊力で補助すればなんとか立てるかもしれませんね。
「ん……ムムム、ぷはっ。こ、ここまで弱っていたとは」
机や箪笥に手を掛けながらようなく立ち上がる事が出来ました、しかし何かに掴まっていないと倒れてしまいそうです。もう足がガックガクですよ、生まれたての小鹿のように震えています。おかしいですね、補助は掛けている筈なんですが上手く作用していない……いや霊力そのものが弱っている?
「むぅ、これは少し誤算だったかも。あ――」
ズルッ
おっとこれは危ないですね、身体を支えていた手が汗で滑って外れてしまいました。このままでは机の角に頭をぶつけてしまいます。たんこぶで済めば良いのですが、今の身体の状態を考えれば最悪……うん、ヤバいですね。何故こういう時は時間の流れがゆっくりに感じるのでしょうね? 嫌ですよ、鋭い痛みがゆっくり伝わってくるなんて辛すぎます、 いや普通に伝わってきても嫌ですけど……これはもう回避も難しいですし、大人しく目をつぶって耐えてくれる事を祈るしか――
「ッ~……ん? 痛く、ない? 」
おかしいですね、いつまでたっても私のおでこに衝撃が伝わってきません。恐る恐る目を開くと机の角ギリギリのところで身体は止まっていました、そして誰かが身体を支えてくれてます。力強いこの感じはクロでしょうか?
「やれやれ、危ない所だったな主殿」
「ふぅ……ありがとうクロ」
「おいおい、アチキが分からないのか? 」
「へ? 」
『し、シロ! いい加減に僕の身体を返してよ! 』
「ええええええッ!? 」
く、クロが二人!? いや、片方は浮いてて少し半透明ですが……実体の方は少し話し方が変で、今私の事を"主殿"って呼びましたよね、それに自分の事を"アチキ"って、まるでこれはシロのような話し方です。でもシロはもう……
「疑うのも分るが安心してほしい、偽者であれば既にクロを消している」
『ひぃッ』
「そ、それもそう、なのかな? ……本当にシロなの? 」
「飯でも作ろうか? 」
「大丈夫ですッ! 」
反射的にですが言葉が出てしまいました、今の状態で彼女の作ったご飯を食べたら本当に逝ってしまいそうです……おっと失言でした、中々刺激的な味なので今回は遠慮しておきましょう。隣で慌てているクロの様子を見る限り本物なのでしょう、私も突然の事だったので疑ってしまいましたがあの身体から伝わってくる霊力の波長は間違いなくシロのもの、少し詳しく話を聞きましょう。
その前に――
「とりあえず、座りましょうか」
「アチキは別に大丈夫だが……見ているクロが耐えられんか」
『……』
あ~、そうだよね。指の間から覗いているみたいですし、おでこをぶつける前に体勢を戻しましょう……え、違う、そうじゃないって?
「――というわけなんだ、クロが鈍感で遅くなってしまったよ」
『シロ、無言で蹴り続けられても分からないよ……』
「わ、私も分からないかな……でも良かった」
う~んなんともシロらしいと言いますか、今回は霊体を止めるために自身の身体から飛び出したクロに花丸をあげましょう。
しかし問題はあります、彼女の身体……お葬式の際に火葬をしたのでもうこの世には存在しないんです。華ちゃんと水ちゃん曰く、瘴気に侵された身体を放置しておくと土地に染み込んでいき新たな物ノ怪が誕生してしまうそうで、ギシンとの戦いが終わってすぐに処置を行わなければならなかったんです。
「二本の霊刀の力で清めた身体は瘴気の抜けた灰となり、現在は神社内に設置した慰霊碑の下に埋められています」
「あの状態では肉体を捨てる以外に方法はなかっただろう、主殿が気にする事じゃないさ」
「私にもっと力があれば――」
「いいや無理だ、あそこまで瘴気に侵されている身体を浄化できるのは神界でもほとんどいない」
「で、でも――」
「神使一人の犠牲で多くの命を救ったんだ、中々できる事ではない……主殿は十分頑張ってくれたさ」
そう言うとシロは微笑みながら頭を撫でてくれます、するとポロポロと涙が溢れ、溢れる感情を抑えきれず衝動的に私は抱き着くと大きな声を上げながら泣き出しました。何度も、何度も謝り、彼女はそれに対して何も言わず優しく撫でてくれました……
※※※
場所は室内から外へ、丁度境内の真ん中あたり……シロはぽつりと言葉を漏らしました。
「さて、そろそろ行くか」
「行くって……何処へですか? 」
「そりゃあもちろん、神界に決まっているだろう。いつまでもクロの身体を借りておくわけにはいかないからな」
そう言うとシロはクロの身体から抜け出し、霊体となって目の前に姿を現しました、一方クロはようやく自身の身体に戻れてホッと一息……霊体化は身体があって安全に行えるモノなんです、霊体は瘴気の影響をすぐに受けてしまいますからね。
「すぐに戻ってきますよね、シロ? 」
「マコト様、それは――」
『無理だな、新たな身体を形成するにしても時間が掛かる』
な、なんと……話によればシロがまた地上に降りて来るのは数百年後になるようです。まず彼女の霊体の検査、浄化と損傷個所の治療、新たな身体との波長合わせ等々、とても時間が掛かるらしいです。神界に行っても会えるかどうかは分からない、とても長い時間顔を合わせられないのです。
『なぁに、消滅したわけじゃないんだ。またすぐに会えるさ』
「うう~……シロぉ」
『主殿、お前はこれから多くの別れを体験するだろう。その度に悲しみに飲まれ、身体を壊していては駄目だぞ? 』
「……うん」
『悲しむなとは言わん、だが最後は笑顔で送ってくれ』
「……うんっ! 」
涙でぐちゃぐちゃだったけど、袖で拭って今できる精一杯の笑顔をシロに向けました。すると空から光が降りてきてシロの身体を優しく包みます、どうやら特別なお迎えのようです。ゆっくりと上がっていき、光は小さくなっていきます……そしてついには見えなくなりました。
別れは辛いけど彼女は言いました、"会える"と。
私も立ち止まっていてはいけませんね、明日からまた頑張ろう。
なんだか後書きを書くのがとても久しぶりな気がします、ど~もKUMAです。
シロ、霊体で復活は出来たんだけど身体を失ったので神界へ強制送還……しかし"また会える"と言ってたのできっと会えるのでしょう、出来ない事は言いませんからね、彼女は。マコトに関してもこの後は徐々にですが快復していき、数日後には普段通りに動けるようになります。
さてさて、此処からはちょっと重要なお話です。次の更新で本作は最終話となります、時間も一気に進み、現代へ。変わったモノもあれば変わらないモノもある、その中で彼女たちはどのように過ごしているのか……おっと、続きは更新をお待ちください。
次回が最後となりますが精一杯書かせていただきます、それでは~




