第27話 やはり呑気な土地神であった
ヒノモト山の何処かに存在している洞窟……内部は所々凍っており、道も枝分かれに伸びている。
その最奥には大きな空洞があり、中央には天に伸びるように氷や雪が積もっていた。まるで小さな山がその空間に収まっているように……その天辺には巨大な氷塊が設置されていた。
「フフフ、貴方様だけがいればそれで……」
白を基調とした花魁衣装を纏う女性……彼女は目の前の氷塊に語り掛けていた。
手を振れると呼応するように発光する、その内部には人が閉じ込められているようだ。
しかし氷が厚い事もあり何者かまでは分からない。
本来光の届かないはずの洞窟も周囲を視認できるほど明るいのは氷塊から漏れる霊力の輝きのおかげ。光となって洞窟内に所々にある氷に反射していき、ほのかに照らしてくれているのであった。
「私は何時、如何なる時でも御傍におります……マコト様」
静かな笑い声が洞窟内に響き渡る。
ドゴンッ
1つの轟音が彼女の声を掻き消した。
振動で天井から氷柱がいくつか落ち、細かい粒子となって砕ける。
音の鳴った方向では氷が粉塵のように舞っており、奥の様子が分からない。
「な、何事?! 氷像たち!! 」
彼女の指示に従い麓付近へ配置されていた氷像が数体駆けこんでいくが、1体また1体と乱雑に砕かれて押し戻される。最後の個体が吹き飛ばされると同時に視界を遮っていた氷の粉塵も掻き消された。
その先に立っていたのは……
全身に殺気を纏うシロであった。
後ろには犬の状態のクロも控えているがどこか様子が違う、尻尾が下がり後ろ脚の間に入っている……明らかに彼女に対して怯えていた
「……見つけたぞ」
一言呟くと氷塊目がけて坂を駆け出した。
白花魁の女性は即座に氷像を創り、討ち取るように指示を出す。
出現したのは近接型だけでなく弓を構える遠距離型も混じっていた。
坂道を駆け上るシロに向けて氷柱の矢が降り注ぐ。
しかし勢いは止まる事は無い。
むしろさらに加速し、刀で矢と近接型の氷像を砕きつつ前進。
「何をやってるの?! 早く撃ち墜としなさい!! 」
「当てるつもりならもっと速く……正確に撃て、それではアチキの羽織にすら当たらんぞ」
降り注ぐ氷柱の合間を縫うように進み、遂には氷塊のある最上段に辿り着いた。
「退けぇッ!! 」
薙刀を片腕で力任せに一閃。
霊力を込めて放たれた一撃は刃が大きく伸び、氷像たちを真っ二つに斬り裂く。
残っているのは白花魁の女性とその後ろにある氷塊のみであった
「な……」
「さて、その氷塊の中にいるのは我ら神使の主殿。マコト様であろう? 」
シロは薙刀の切っ先を氷塊に向けて彼女へ問いかける。クロも少し遅れて追いつき、警戒の体勢を取っていた。しかし相手は何も答えない、無言のまま両手を前に出すと周囲に冷気が漂い始める。
「この御方は渡さない!! 」
彼女の目の前に巨大な氷柱が出現し、シロへ発射される。
ほんの一瞬だがクロは相手よりも速く動き、足元へ土壁の札を放っていた。
『僕らだって、殺られるわけにはいかないんだ! 』
「ぬぉっ?! 」
突如シロが斜め前方に打ち上げられる、すれ違いで頬を斬るが傷は浅かった。
氷柱は土壁と相殺され、白花魁の女性の真上を取る事に成功する。
「でかしたぞクロ! 獲ったァッ!! 」
「クッ……! 」
※※※
さてさて、やっとこさ終わったぞ。アリの巣上に広がる洞窟を歩き回り、遂にはめんどくさくなって氷を砕きながら進んでいたのが良かったらしい。偶然にもここに辿り着き、今回の土地神行方不明事件の下手人はコイツだったわけだが……返答次第ではコチラも手荒な手段を取らねばならん。
「オイ、いい加減に答えろ。お前さんの目的はなんだ? 村の支配か? 」
「……」
『あの~答えないと今の状況より大変な事になるよ? 多分』
「ッ……脅しには屈しない」
自身の首のすぐ近くに薙刀が突き刺さってるのに何も言わんぞこの女……もう正体を言ってもいいか。
コイツは妖怪 雪女、主な能力は冷気や氷を操る事。伝承は地方によって様々あるが、この世界ではどのような存在なのか気になる所でもある。
「しかし謎だ、何故雪女であるお前が同じ女の主殿を連れ去る? 」
「……貴方も同じことを言うの? 私はマコト様と此処で静かに暮らしていきたいだけなの」
アチキが同じ性別である事を告げると雪女は急に話し始めた。
要約すると、彼女は主殿に好意を抱いていたらしい。
きっかけは夏。その日は日差しの特に強く、雪女は運悪く体調を崩してしまう。木陰で休むも一向に回復せず途方に暮れていた時、主殿が偶然通りかかった。その場で霊力とお札を用いて介抱し、村の長屋まで連れて行ってアレコレ世話をしてもらった事で惚れたそうだ。
長屋でと言う事はこの雪女は村人の一人か。しかしなぁ、見覚えは全くないぞアチキは。
そして何故コイツは主殿を男と思い込んでいる? 見間違えることはまずないと思うのだが……まさか。
「一つ確認したい、今アチキの指は何本立ってる? 」
『シロ? いったい何を---』
「シッ」
問いかけるクロの鼻先に指を当て言葉を止める。
アチキの考えが正しければコイツは……
「今度は何? まぁ良いわ……1本、いや3本かしら」
大当たり……目が悪いぞ、この雪女。アチキが上から押さえつけている程の距離なのに当てられていない。ちなみに立てているのは2本だ。おそらく顔も相当ぼやけて見えるだろうな。
「声では分からないのか? 」
「……殿方にしては少し細い気もするけど、いざという時に身体を張って頑張ってくれそうね」
「コイツぁ……フム、重症だな。」
「でもいつも貴方達は邪魔だった、マコトさまが戦っている時も視界の端に入ってきたりして」
待て待て、コイツ今物の怪と戦っている時と言ったか? 主殿は年明け前でも結構な数を処理していたが建物や茂みの影から見ていた……? さすがにアチキも寒気がしてくるぞ。
「私は毎日マコト様を遠くから見守り、時にはお食事も準備した! なのに……なのに!! 」
あぁ、成程。主殿が一時期宿まで飯を食べに来ていたのはこういった理由があったのか。
最初は不気味に思っていたらしいが、興味本位で食べたら毒もなく普通に美味いと……その後クロに怒られいたな、不用心すぎると。
「そして吹雪の強かったあの日、わたしは決死の思いで伝えたというのにこの御方は自分は女だと嘘をついて---」
「あ~分かった分かった。ならば見てもらった方が早いだろう 」
合図を出すと氷塊は炎に包まれる、話を引き受けている間に準備をしてもらって良かった。
みるみるうちに小さくなっていき、適当な大きさになったら上からクロが仕上げの一発。
身体を覆う氷が砕け、主殿は解放された。外傷は特に無し、呑気に寝息を立てている……冷凍睡眠と言うヤツか?
クロには火を焚くように告げると、アチキは服に手をかける。
『シ、シロッ?! 』「貴様……! 」
「このままでは風邪をひかれるだろう? お前たちが恥ずかしがる必要もなかろうて、では失敬して」
慣れた手つきで服をはいでいく、上半身を脱がせるとサラシを巻いていた。
まぁふくらみはあるんだが……早速雪女に触らせてみるか。
「ホレ、触ってみろ」
「なッ……ふ、ふふ触れるだなんて」
「めんどくさいな、ホレ」
雪女の手を無理やり掴み主殿の胸に当てさせる。数回揉んだのち顔色が変わっていく……元々白めだったのだが今では真っ青だ。
「そ、そんな……まさかマコト、様が言っていたのは本当に---」
「そらついでにコッチもだ」
「え……~ッ?!!?」
主殿には申し訳ないが実体験してもらった方が手っ取り早い。
受け入れがたい真実を知った雪女は変な悲鳴を上げながら卒倒してしまう。
……ん? 服も花魁風な装束から地味なモノへと変わったな。髪も透き通った空色から黒に、しかもやけに湿ってる。雪女に見覚えはないが、こっちの姿には記憶にあるぞ。
たしか長屋の端部屋に住んでいる妖怪で、その一角だけ妙に湿気っていた。住んでいるのは妖怪の女子だったはずだ。
「クロ、この雪女はまさか……」
『え、僕は見たことないよ。村に居たかな? 』
聞いたアチキがバカだった、そういえば昼寝をするためにアチキが率先して見回りを買って出ていたのを忘れていたよ。まぁそれは良いとして、まずは此処からの脱出だ。クロには主殿を担いでもらうとしよう。
※※※
報告書
記入者:シロ
神格:神使
所属:ヒノモト村
ヒノモト山のある洞窟にて救出対象を発見。
内部はアリの巣上に広がっており、最奥部には天井が高く広い空間があった。
本事件の下手人は瘴気に穢されているわけではなく、本人の意思で土地神マコトを村から連れ去った事に偽りはないと供述。
また下手人、氷山シズクは特異体質を持つ妖怪であった。
父が人間、母親が雪女であり2種族の混血である事が影響されていると考えられる。
普段は濡れ女子、冬に近づくにつれてもう一方の力が強まり変異するものであった。
変異によって土地神マコトに対する抑えていた感情が解放され、今回の事件が発生したのではないかと……
「クロ~変わってくれぇ……アチキは頭が熱くなってきたぞ」
「何言ってんの、普段からサボっていた罰が当たったんだよ。頑張って」
「そんな殺生なぁ……主殿ぉ、クロが、クロがアチキを~……」
シロは神界への報告書を作成していた。
今回の事件で普段仕事の合間にサボっていた事がクロに知られてしまい、彼の無言の圧に押され引き受けたそうだ。助けを求められたマコトは布団から身体を起こしてその様子を見守っていた。頬が若干赤くなり、何処か気怠そうだ。
「コホッ……フフ、なんか新鮮だね。普段は凛としてるのにここまで弱ってるのは中々見れないかも」
「うぅ~……主殿もアチキを見捨てるのかぁ」
「さすがに怒るよ? マコト様も無理はなさらないでください。さて、お粥が出来ましたよ」
救出から3日経過している。丸1日目を覚まさなかったが、覚醒した瞬間に風邪をひいてしまったようだ。
そこ、神様が風邪ひくの? とか言わない。
「ありがとうクロ、コホッコホッ! おぉ……生姜擦ってくれたんだ」
「ネギと梅干、鰹節もありますよ。お好きな薬味でゆっくりお食べください」
「いただきまぁす……あ、そういえば彼女はどうしたの?」
マコトは今回の下手人の事を聞き出す。どうやら現在は宿にて八頭の監視下で働いているとの事。
判決に関しては被害者であるマコトに委ねるそうだ。村人たちの評判は不明、ほとんど交流もなく住んでいたことすら知らなかったらしい。彼女を知っているのは与作と玄内、甘味処のおばちゃんのみである。
「むぅ委ねられちゃうか……じゃぁとりあえずは現状維持で。あ、お粥美味しい……ムグムグ」
「良いのですか? 再びマコト様を攫う可能性もあるんですよ」
「その時はその時だよ。間違えたなら道を正せばいいし、ほらスサノちゃんみたいにさ」
回答を聞いたクロは眉間に手を当てていた。
「たとえ私でも二度目はちゃんと怒るよ、スサノさんの遊び相手をした時みたいにゲンコツだね」
……違うそうじゃない、神使二人はその場に崩れる。
そのような事はお構いなしに話が終わると、マコトは黙々とお粥を食べ始めるのであった。
体調があまりよろしくないので後書きは……と思っていましたが、やっぱりちゃんと書く事にしました。
ど~もKUMAです。
1月の後半は体調が絶不調で中々書き進められない日が続きましたが、何とか更新する事が出来ましたよ。
すぐに医者へ行くべきでした、判断を誤ったよ( ;∀;)
腹痛、食欲不振、吐き気……「これインフルじゃね? 」と思われてもおかしくなさそうな症状だったのですが、診断では異常ナッシング。気候の変化によるストレス、または精神的な所からくるのではと言われましたね~。後者に何件か心当たりはありますが、まぁ気のせいと言う事にしておきましょう。
さて、今回出て来た妖怪は雪女! 冬だからね、メジャーな所だよね。
ただの妖怪ではなく、人間との混血のため春~秋は濡れ女子、冬になると雪女に変化するという少々特異体質持ちにしてみたものとなっています。
濡れ女子:黒の長髪で常に湿っており、顔を髪で隠し猫背で目立たない様にしている。物陰からマコトを見ている
雪女:色が黒から澄んだ空色に変化し、髪をかき上げて氷の櫛で結っている。性格は濡れ女子の時よりも激しくなっている。性格:激情家、好いた相手を奪おうとする者には容赦ない
……とメモに残されていました。とりあえず話の中で描写されてない気がしたので此処に記載しておきます。
とりあえずは今回は此処まで。
また次の更新でお会いしましょう、ではでは~。
……間に合えば2月の中頃にもう一回更新するかも、出来なかったらゴメンナサイです(;´・ω・)




