第26話 土地神行方不明
冬の厳しさが本格的になってきた……まぁおかげでウチの温泉宿は繁盛しているんだがな。
先月に鎌鼬の襲撃もあったが貯えは十分、何か問題が起こらなければ冬を越すことはできるだろう。
ソワソワ……キョロキョロ…………
ん? 先ほどから黒い何かが動いてるって?
あぁ、クロの事か。問題が無ければと言ったがすでに発生しているのだ。
「クロ」
「速く……に行かないと…………ブツブツブツ」
「はぁ……クロッ! 」
「ウワァッ?! な、なんだ? い、いきなり声を荒げないでくれよっ」
ここ最近、一週間程この調子だ。おかげでアチキも客に出す料理の手伝いをする羽目に……八頭様は風呂の番頭としてそちらに付きっきり。八岐大蛇、大元が蛇という事もあって寒いのは苦手らしい。
そして朝仕事の終わったスサノ様は村の子供たちと楽しく遊んでいる。彼女の力加減は卵を使って特訓した、朝食に卵を一つ、綺麗に割れるようになるまで何度も繰り返したんだ、人間を怪我させる様なことは起きないだろう。
さて、何が起きたのかと言うとだな……
「なら仕事に集中しろ。主殿が行方不明となって焦るのは分かるが、いつまでもその調子では山に連れて行けないぞ」
「分かってる―――イっ?! 」
指を切ったか、コレはもう色々と重傷だな。まぁそんな事はどうでもいい、今言ったようにアチキ達の主……マコトが絶賛行方不明中である。人々の治療と建物の修復も落ち着くと雪も降り始め、月も師走へと変わった頃だったかな? フラリと神社からその姿を消してしまったのだ。
残っていたのは凍り付いた社家住宅とそこから山の方角へと伸びる足跡、階段の途中にある山道入り口ではなく神社の裏側へと伸びていた。
「ホレ、さっさと薬塗ってきな。客に運ぶのはやっておくから」
「ごめん、シロ……」
まぁ完全に手がかりがないというわけでもない、時間は経ったが匂いはまだ分かる。この事はまだクロにも言っていない、一人で突っ走ってしまうからな。やはり主殿の事となると周りが見えなくなる……まだまだ修業不足だ。
ガタン……
「おおっと……ふぅ、アチキも同じか」
段差に躓いて危うくお膳をぶちまけてしまう所だった、アチキも気にかけていない訳ではない。
主殿がいるかいないかで村の雰囲気は大きく変わる。村人も皆暗くなるのでな、サボ―――休憩時の気分が良くない。もちろん人間が神に頼り切るのは良くない事だ、その為に神無月というのもある。
人と神、コレの距離感の調整は難しい。
ましてや人間から土地神へと変わった主殿ならなおさら。鎌鼬の一件では精神的に相当参っていたからな、まともに休めてもいないだろう。アチキなりに考えて、クロと一緒にもてなしてやるかと思っていたらコレだ。
「ただいまッ! 雪って面白いね、真っ白で……フワフワでとっても綺麗!! 」
「スサノ様、おかえりなさいませ。ちゃんと手を洗ってくださいね? 」
「もう【様】はつけなくていいってば。敬語も無し、他の子と同じように扱って」
「……フム、分かった。 雪が降ってる以外に外で異変は無かったか? 」
スサノ様から情報収集、話によると特に異常はないが降る雪に妙な霊力を感じるそうだ。
……ん? アチキも目上の方には敬語位使うさ、本人が必要ないと言うならそれに従うまでのこと。
霊力は主殿ではなく別の者、妖怪である事までは分かった。物の怪じゃない分まだ良かったと思おう。
アチキの感知力に関してはまだその域まで到達していないからな……とても助かる。
今回の捜索にはクロの代わりにスサノ様に同行してもらうべきか?
「ねぇシロ、マコトちゃん……大丈夫だよね? 」
「あぁ、きっと大丈夫。あの能天気な土地神様だ、こんな顔をしながらそのうちヒョイっと戻るさ」
主殿の顔まねをしてみせるとスサノ様は笑顔に、まるで太陽の様だ……子供は笑顔で元気なのが一番、当たり前じゃないか。……トラウマはどうした、だと? 一応は克服はできている、地上に降りられてから最初に謝りに来られたのだ。アチキ達もそれに応えないといけないだろう。
「……夕時は風呂も混みあう、帰って早々で悪いが八頭の手伝いをお願いできるか? 」
「ウンッ、オロチは暖かい所にいると寝ちゃうからね。行ってくるッ」
やはり連れて行くわけにはいかないな、万が一の事があったら陽光様に顔向けできん。
彼女は仕事着に着替えへ、韋駄天の如く走って行かれた。体力は神界に居た時よりも抑えられている筈なのに元気だな。スサノ様と入れ違うようにクロが入ってくる、指には包帯が巻かれていた。
「スサノ様が外から戻られたんだね」
「今のお前よりも仕事熱心だぞ、コレは賃金を弾まんとな」
「ウッ……」
クロは何も言い返してこない、グゥの音も出ないようだな。
今日これからの仕事ぶり次第で判断するとしよう。
……そして朝が来た。
今日は宿の仕事を八頭様とスサノ様にお願いし、主殿の捜索を行う。
冬の山に入る事もあって準備を入念にしてきた。
炎系のお札を多めに用意し、食料に防寒、雪道対策は万全……もちろんクロも付いてくるぞ。
よくよく考えたらあの身体は雪道で目立つ、犬の状態で匂いを辿ってもらう予定だ。
「よし、行くぞクロ。匂いをしっかりと追えよ」
『任せて、絶対に見つけ出して見せるさ』
マコトさまの家から手ぬぐいを拝借し、クロに嗅がせる。
キリッとした表情は崩れ、安心しきった……いや腑抜けたモノに変わってしまったな。
ぺシンッ
『アイタッ?! 』
アチキは無言でクロの頭を叩き、仕切り直させる。
……今度は大丈夫なようだ。手ぬぐいをしまい、山へと入った。
途中で獣道に入り、抜けた先は一面銀世界。
生えている木々には雪が積もり、巨人の様にも見えなくもない。なだらかな傾斜を黒い塊と共に進んでいくとしよう。……にしても目立つなぁクロよ、お前を連れてきて良かったぞ。
※※※
進むほど天候は悪化していき、現在は猛吹雪の中を進んでいる。
クロを視認するのも難しいぞ、コレは。
「ク、クロ……! 」
『コッチからマコト様の匂いと霊力を感じる……速く行こう、シロ! 』
ええぃ雪と風が厄介すぎる! こちらの事はお構いなしにズンズン進む……今クロを見失ってしまえばアチキが遭難してしまうではないか。
……一緒に犬の状態となって進めば良いじゃないかとな? 生憎アチキ達は荷物を一緒に変化させるほど器用ではない。特殊な道具があれば別なんだが、無いモノを強請ってもしょうがない。クロは霊力感知が得意の様だからアチキは荷物持ちを買って出たわけだよ。まずはアイツの動きを止めないとな。
「声が届かんか―――『クロッ前に出過ぎるな!! 』
『ギャァッ?! 』
やっと動きが止まった……念話に切り替えて正解だったようだな。
雪をかき分けながら追いつき、移動速度を下げるように伝える。温存しながら進まないといざという時に困るからな。クロの感じた距離で次の行動を決めよう。
『クロ、匂いは大分近づいてきたか? 』
『うぅ……つ、強くはなってるよ。ただまだ時間は掛かるかもしれないね』
『ここらで一旦休憩すべきか、少し待ってろ』
いつまでも札の使用が苦手とは言ってられんからな、少し負担は掛かるが土壁の札を複数枚使用して壁と天井を作ってやれば簡易的な休憩場はできる。形はかまくら状、出口は後で作ればいい。外の様子を見れるように透視の札を……これは高価なモノだから3枚しか用意できんかった、外で使えるのは残り2枚だな。
今後の行動予定を組み立て、十分な休息を取った後主殿の捜索を再開した。
~数刻後 ヒノモト山にて~
相手は追跡を恐れていたのか随分と遠回りな道を辿っていたようだがついに見つけたぞ。
クロの話では目の前にある洞窟の奥から匂いがするそうだ、いや……そんな事よりも―――
「なぁクロよ、この氷像……どう思う? 」
『うん、僕の目にはマコト様にみえるかな。そっくりだね』
洞窟へ入ってすぐの場所。なだらかな傾斜のついた通路だが、その左右には氷像が2体設置されていた。……どこからどう見ても主殿にしか見えない、持っているのは氷で作られた薙刀や刀だが門番のつもりなのだろうか? そんな事を考えていると一瞬だが氷像は動いた気がした。
「動いた……よな? 」
『シロ、気を付けて。僕は嫌な予感しかしないよ』
警戒姿勢を取ると氷像は自身に積もっていた雪を払い、武器を構え始めた。
主殿の姿をした敵を攻撃するのは気が引けるのだが……こればかりは仕方がないだろう。
『来るよッ』
「分かってる! 」
纏っていた簑と笠を投げ相手を牽制、氷であっても切れ味は抜群の様だな。
投げたモノの中には一緒に札を数枚仕掛けておいた……ばら撒かれると同時に起動すると簑と笠は勢いよく燃え上がる。炎に巻き込まれた氷像は体の一部を溶かしつつも後退、位置的にはアチキ達は洞窟の入り口側、相手を見下ろす形になった。
「あの武器、もしかしてアチキ達を模しているのか……」
『僕も人型になった方が良いかな? 』
「いや、お前はそのままで頼む」
向こうの動きを見て判断した事だ、相手は1体ずつでしか攻撃をしてこない。
連携を取るには狭すぎるのだろう、アチキも薙刀は振るにはちと狭くてな。ならこちらは片方を犬のままにしていた方がまだ動ける。仮にアチキ達の動きを真似ているのであればなお対処はしやすい。
片腕を失った刀の氷像が斬りかかってくる、薙刀は後方で待機か……手負いを仕留めてしまおう。
「その愚直過ぎる動き、やはりクロか」
脚運びから斬撃の挙動、どれを見ても再現は完璧だな……だがアチキが何回クロの相手をしてきたと思っている、そのような攻撃では目を閉じていても容易に避けられるぞ。
アチキは袈裟切りを薙刀で受け流す。そのまま武器を軸として利用し、回し蹴りを喰らわせる。
壁に叩きつけた氷像は粉々に砕け散った。
『うわぁマコト様が…………』
「姿が同じなだけだろう、さて次はアチキの動きを真似た氷像か」
相手は薙刀を前に突き出して待機していた、てっきり突撃してくると思っていたがそこまで馬鹿ではないらしい。こちらの隠し持っていた札に気づいていたのか?
ジリジリと距離を詰めてくる……薙刀の切っ先同士が触れ合うほどまで近づくと相手から動き出した。
踏み込みながらの連続突き、振る事が出来ないのなら突けばいいのか。
初めは回避に専念していたが次第に目が慣れてきた、そろそろ反撃に出てみるとしよう。
「おぉ速い速い、ではアチキと突き比べといってみよう……かッ! 」
後ろに大きく後退……もちろん傾斜である事は考えているさ。
武器を手に取ると同じように連続突きを繰り出す。
切っ先同士が勢いよくぶつかりあい、その度キラキラと何かが散っていた。
『く、砕けてすぐに再生しているのか……! 』
「じゃあその速度を超えればいいだけ、そらそらそらぁっ! 」
氷像の薙刀は霊力で硬度を上げているようだがアチキの薙刀をなめるなよ、毎日手入れは怠っていないのだからな。少し速度を上げると相手の武器はみるみるうちに砕けていき、遂には腕まで到達。
しかしそれに怯むことなく腕を武器にして対抗してきた……意外と根性あるじゃないか。
鋭利に尖らせた腕を突き出す、言葉のとおり自身を削りつつ何度も何度も……だが―――
「これで終いだ、フンッ! 」
互いが繰り出した渾身の一撃、その衝撃で周囲に風が巻き起こる。
数秒の沈黙……変化は突然訪れた。
ビシッ、ビシビシビシッ
氷像の腕から身体へと亀裂が入っていき、透き通っていた身体は白く染まる。
薙刀を引くと外から入る風によって静かに散っていった。
「ふぅ、終わったか」
『僕、結局何もやってない……』
「いやぁこれから活躍してもらうさ、此処は入り組んでそうだからな。よろしく頼むぞ」
クロの頭をグシグシ撫でて奥へと進んでいった。
この先何度かあの氷像たちと戦う事もあるだろう、気を引き締めんとな。
新年あけましておめでとうございます。
ど~もKUMAです。
さて、新年早々なんて話を書いてんだって言われそうですが……うん書きたかった話だからしょうがない。
ヒノモト村の土地神、マコトが絶賛行方不明中です。
鎌鼬の騒動があったというのに再び厄介事に巻き込まれたもよう……シロとクロは匂いと霊力の残り香をたよりに山へ向かう。いったいマコトをさらったのは誰? 村人の一人なのか、はたまた外部の人間or妖怪なのか……そのあたりは次回判明、するかもしれないですね。
最後に今年の抱負でも言いましょうかね。
1つ、毎月更新を継続する。
2つ、可能であれば新作も出したい。
……3つ目は思い浮かばないな、とりあえず無病息災としましょう。
さ~てさて、言う事も言ったし今回は此処まで。
また次の機会にお会いしましょう、ではでは~
今年も『土地神ライフ』とマコト達をよろしくお願いします!




