【09】 デビュー戦3日目② ~1マークの修羅場に突っ込めない理由~
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『ボートレース戸田』3日目 7R 予選(男女混合)
【出走表】
1号艇 塚田 竹之(44歳/B1)[◎]54213
2号艇 竹下 伸二(45歳/A1)[△]36231
3号艇 城内 俊之(40歳/B1)[○]6 265
4号艇 高足 淳子(49歳/A2)[-]13225
5号艇 田並 浩次(42歳/B1)[×]1 266
6号艇 速水 爽香(20歳/B2)[-]6 6 6
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初客「兄さん、また隣いいかい? 今度は女子が2人いるな。4号艇のベテラン女子はどうなんだい?」
常連「4号艇の高足は別格ですよ。男子顔負けの捌きをする。ここは実力通り『2-4』本命で堅いでしょうね。6号艇の爽香ちゃんは……まあ、消しです」
初客「よし、乗った!『2-4』に5百円!」
初客が舟券売り場へ走る。
◇
水面上の爽香は、前を見据えてヘルメットのシールドを下げた。
爽香(隣はベテランの田並さん……。この人にだけは食らいつく!)
実況『スタートしました!』
全艇が一斉にスリットを駆け抜ける。互角のスタート。
第1ターンマーク。6艇が鋭い引き波を立てながら一気に集中する。
ズバアアンッ!
強烈な水しぶきが爽香のシールドを真っ白に染めた。前後左右から迫るエンジン音。視界が消える。
爽香(前が見えない……どこに隙間があるの!?)
一瞬の躊躇。そのわずかな怯みが、致命的な差を生む。
艇群の「渦」に巻き込まれるのを恐れ、爽香はまたしても安全な外側に舵を切ってしまった。
結果は再び大差の6着。5着の田並の背中は、周回を重ねるごとに遠ざかるばかりだった。
爽香(田並さんにも勝てなかった……。あの1マークの修羅場に突っ込んでいく勇気が、私にはない……!)
陸へ上がった爽香は、悔しさに唇を噛み締めた。
◇
観客席。
初客「『2-4』当たったよ! 配当390円だけど、当たるのは嬉しいねぇ!」
常連「お見事。やっぱりボートは冷静な分析が必要なんですよ」
◇
その夜。選手宿舎の食堂。
爽香は、向かいに座る田並に思いをぶつけた。
爽香「田並さん……先輩方は、どうしてあの激しい1マークへ恐怖心なく突っ込んでいけるんですか?」
田並「恐怖心がないわけないだろ」
田並は淡々とアジフライを口に運んだ。
田並「横殴りの大雨の中、時速80キロで交差点に突っ込むようなもんだ。『勇気』と『無謀』は違う。イチかバチかで突っ込めば、自分どころか他人も巻き込む大事故になる」
爽香「……」
田並「あの狭い艇間を安全に、かつ最短で突き抜けるには、相応の『技術』と『瞬間の判断力』がいるんだよ。勇気だけで行けるほど、この水面は甘くない」
爽香は黙って頭を下げた。
(足りないのは度胸じゃない。圧倒的な技術と経験だ)




