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【07】 デビュー戦2日目 ~軽量レーサーには3つの武器がある~

『ボートレース戸田』2日目 第1レース(予選・男女混合一般戦)

====================

【出走表】

1号艇 田並 浩次(42歳/B1)

2号艇 小河 智幸(40歳/B1)

3号艇 原島 加那(25歳/B2・育休明け)

4号艇 木森 沙也(28歳/B1)

5号艇 桑田 純一(56歳/B1)

6号艇 速水 爽香(20歳/B2・新人)

====================


初客「おいおい、3号艇と6号艇、勝率『0.00』だぞ? 印刷の間違いか?」

スタンドでは、昨日とは別の初心者が新聞を広げて首をひねっていた。常連客が吸いかけのタバコを消しながら応じる。


常連「3号艇は子育てでお休みしてた育休明けの選手ですよ。6号艇はピカピカの新人です」

初客「へぇ! 競艇って育休もあるのか。それにしても男女一緒に走るなんて、やっぱり男の方が圧倒的に有利なんだろ?」

常連「まあ、基本は腕力と脚力がいりますからね。旋回するときは正座から一気にスクワットして腰を浮かせ、ハンドルをしがみつくように握り込む。観客席から見ると、獲物に襲いかかるライオンみたいな格好ですよ」

初客「ライオン! モンキーターンってやつか!」

常連「そうです。ボートの機首はスピードを上げると浮き上がっちゃうんで、自分の体幹と腕力で舟を押さえつけなきゃ進まないんです。だから筋肉が必要でしてね」

初客「なるほどなぁ……ん? じゃあ女子レーサーには何のメリットもないじゃねぇか」

常連「そこで『体重』ですよ。最低体重制限は男子51キロ、女子47キロ。この差がデカい」

初客「体重が軽いと何が良いんだ?」

常連「三要素あります。『最高速度が出る』『加速(伸び)が良い』『小回りが効く』。物理の法則ですよ」

初客「へぇ~! 軽い方がロケットみたいに飛んでいくわけだ。奥が深ぇなぁ、ボートレースってのは!」


ファンファーレが高らかに響き渡り、6艇のボートが水面へと躍り出た。


6号艇の緑色のカポックに身を包んだ爽香は、ヘルメットの中で強く奥歯を噛み締めた。


爽香(今日は……昨日みたいな無様ぶざまな走りは絶対にしない!)


15秒前――14、13、12……!

スロットル全開。衝撃とともにボートが跳ねる。


爽香(4秒前、青白通過! 2秒前、黄白通過! 0秒手前……赤白通過!)

爽香(完璧! スタート正常――!!)


1号艇から5号艇までが綺麗な横一閃を描く。

しかし――ほんのわずか、半艇身ほど6号艇の爽香だけが届いていない。


爽香(くっ……また全速で踏み込めなかった……!)


艇体を沈め、必死に風を切り裂いて第1ターンマークへ突っ込む。

だが、そのわずかな「半艇身の遅れ」が致命傷となった。目の前で渦巻く巨大な引き波の壁。爽香のボートは航跡に揉まれ、大きくバランスを崩した。



――2分後。


結果は2-1-3。

爽香はまたしても、5着に大差をつけられての6着。一歩も進歩のない敗北だった。


ピットへ戻り、ヘルメットを脱いだ爽香の目から悔し涙がこぼれ落ちる。


爽香(6コースでスタート遅れたら、何もできない……! 悔しい……ッ! 今頃、養成所の松木教官が『それ見たことか』って笑ってるんだ……!)


ふと掲示板を見上げ、爽香は目を丸くした。


爽香(……えっ? 勝率3点の田並さん……2着に入ってる!? 辞めるなんて言ってたのに、めちゃくちゃ上手いじゃん……!)


爽香の胸の奥で、小さく、けれど激しい対抗心が再び燃え上がり始めていた。


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