懐かしい国境
翌朝、俺たちは、エルンストを発ち、アルドレア王国との国境へと向かった。
「―ここが、国境か」
大きな門と、その両脇に立つ、見覚えのある紋章を掲げた衛兵たち。俺は、その光景に、思わず息を呑んだ。
アルドレア王国の紋章―双頭の鷲。前世で、何百回と目にしてきた、あの紋章だった。
「リド、大丈夫か?」
セラが、心配そうに声をかけてきた。
「ああ、問題ない」
俺は、静かに気を落ち着けながら、答えた。
「身分証を、提示してください」
衛兵の一人が、事務的に告げた。俺たちは、それぞれの冒険者証を提示した。
「―冒険者パーティか。目的は」
「調査依頼と、個人的な用件です」
俺は、簡潔に答えた。衛兵は、しばらく書類を確認した後、静かに頷いた。
「通ってよろしい。……王国へようこそ」
門をくぐった瞬間、俺は、言葉にできない感覚に襲われた。
空気の匂い、木々の緑、遠くに見える山々の稜線――全てが、前世の記憶と、鮮明に重なる。
「…懐かしい」
思わず、そんな言葉が、口からこぼれ落ちた。
「懐かしい?」
セラが、怪訝な顔でこちらを見た。
「……いや、何でもない」
俺は、慌てて言葉を濁した。だが、フィアとゼインは、静かにこちらを見つめていた。二人とも、俺の様子から、何かを察しているようだった。
俺たちは、王都リンデンを目指し、王国内を進んでいった。道中の景色一つ一つに、俺は、前世の記憶を、静かに重ねていた。
かつて、弟子たちと共に鍛錬に励んだ野原。休息のために立ち寄った、小さな村。全てが、変わらず、そこにあった。
「随分と、感慨深そうだな」
ある日の夜営、ゼインが、静かに声をかけてきた。
「そう見えるか」
「ああ。……この国に、来たことがあるのか」
俺は、しばらく沈黙した後、静かに頷いた。
「……ある。随分と、昔の話だが」
「昔、か」
ゼインは、静かに、探るような目でこちらを見た。
「お前は、一体、いくつなんだ」
「体は、十五だ」
「体は、と言ったな」
ゼインの声に、緊張が滲んだ。
俺は、静かに、しかし確かな覚悟を込めて言った。
「王都に着いたら、全てを話す。約束通りに」
ゼインは、しばらく黙り込んでいたが、やがて、静かに頷いた。
「……分かった。」
その夜、俺は、なかなか寝付くことができなかった。
エドヴァルドとの再会。ゼインへの告白。そして、無属戦役の真実。
数多くの対峙が、目前に迫っていた。前世で培った冷静さをもってしても、胸の奥の緊張を、完全に抑えることはできなかった。
窓の外、月明かりに照らされた、アルドレアの静かな山並みを見つめながら、俺は、静かに、来るべき日々への覚悟を固めていた。




