王国境の街
旅は、順調に進んでいた。
アルドレア王国との国境に近い街―エルンストに到着した頃には、旅の疲れも、仲間との連携で自然と和らいでいた。
「ここまで来れば、王国まではあと数日だ」
俺は、地図を確認しながら言った。
「随分と、あっという間だったな」
ガロが、周囲の街並みを見渡しながら言った。
エルンストは、帝国とアルドレア王国、双方の文化が入り混じった、独特な雰囲気を持つ街だった。
「アルドレアの建築様式、初めて見るわね」
セラが、興味深そうに、石造りの建物を見上げた。帝国の華美な装飾とは違う、質実剛健な造りが目立つ。
俺は、その光景に、静かな懐かしさを覚えた。前世で、何度もこの様式の建物を見てきた記憶が、鮮明に蘇る。
「リド、また、難しい顔してるぞ」
フィアが、小声で言った。
「ああ、少し、な」
「無理に隠さなくていい。……あんたのペースで、いい」
フィアの言葉に、俺は、静かに頷いた。
その夜、俺たちは、宿での夕食を終えた後、それぞれの部屋へと戻っていった。だが、俺は、一人、宿の外に出て、夜風に当たることにした。
「―付き合おう」
ゼインが、静かに、俺の後をついてきた。
「珍しいな、お前がついてくるとは」
「たまにはな」
俺たちは、静かに、街の外れまで歩いた。国境に近いこの場所からは、遠くに、アルドレア王国の山々が、月明かりの下、静かにその稜線を浮かび上がらせていた。
「綺麗な景色だな」
ゼインが、静かに呟いた。
「ああ」
「なあ、リド」
ゼインが、静かに切り出した。
「王国に着いたら、お前は、何をするつもりだ」
俺は、しばらく沈黙した後、静かに答えた。
「―向き合わなければならない過去がある、と言っただろう」
「ああ、覚えている」
「その過去と、正式に、向き合うつもりだ」
ゼインは、静かにこちらを見た。
「その過去に、俺も、関係があるのか」
俺は、答えられなかった。だが、その沈黙こそが、何よりの答えだったのかもしれない。
ゼインは、しばらく黙り込んでいたが、やがて、静かに息を吐いた。
「急かすつもりはない、と言ったはずだ」
「ああ」
「だが、正直に言えば……お前と初めて会った時から、ずっと、妙な既視感があった」
俺の心臓が、大きく跳ねた。
「既視感、とは」
「言葉にするのは難しい。……ただ、お前の戦い方、物事の考え方、時折見せる仕草…どれもが、俺が知る、ある人物と、重なる瞬間がある」
ゼインの声には、隠しきれない緊張があった。
「その人物は、俺が、この手で殺した」
沈黙が、二人の間に、重く落ちた。
「―ゼイン」
「答えなくていい」
ゼインは、静かに、しかし確かな覚悟を込めて言った。
「今はまだ、その時じゃないんだろう。……だが、いつか、必ず、聞かせてもらう」
俺は、静かに頷いた。
「約束する」
ゼインは、静かに踵を返した。
「―王国に着いたら、な」
彼は、それだけ言い残し、宿へと戻っていった。
俺は、一人、月明かりの下に立ち尽くしていた。
胸の奥に、これまでにない緊張が、静かに広がっていく。だが同時に、確かな覚悟も、そこにはあった。
もう、逃げるつもりはない。
俺は、静かに、遠くに見える王国の山々を見つめながら、来るべき告白の時への、静かな決意を固めていた。




