王国への道
帝都エルアヴィスを発ち、俺たちは、アルドレア王国を目指す長い旅路についた。
「―王国までは、どれくらいかかる」
ガロの問いに、俺は、地図を確認しながら答えた。
「馬車を使っても、半月近くはかかるはずだ」
「随分と、遠いのね」
セラが、街道の向こうに広がる景色を眺めながら言った。
ゼインも、今回の旅に同行することになっていた。影楔の追及からは一時的に距離を置き、独自に情報を集めながら、俺たちと行動を共にするという形だった。
「アルドレア王国、か」
ゼインが、静かに呟いた。
「何か知っているのか」
「詳しくはない。ただ、帝国とは友好的な関係にありながら、独自の路線を貫いている国、という程度の認識だ」
俺は、静かにその言葉を聞きながら、前世の記憶を、静かに反芻していた。
騎士団の指南役として過ごした日々。共に鍛錬に励んだ、多くの弟子たち。そして、王太子エドヴァルドとの、確かな友情。
あの国に、もう一度足を踏み入れる日が来るとは、正直、想像もしていなかった。
「リド、大丈夫か?」
フィアが、心配そうに声をかけてきた。彼女だけが、俺の抱える秘密の一端を知っている。
「ああ、少し、考え事をしていただけだ」
「無理はするなよ」
フィアの言葉に、俺は、静かに頷いた。
道中、俺たちは、これまでと変わらず、依頼をこなしながら旅を進めた。冒険者としての実績は、着実に積み重なっていった。
「―そういえば、聞いたか」
ある町で、宿の主人が、興味深そうに話しかけてきた。
「帝都の一件、随分と話題になってるぞ。貴族街の屋敷で、大掛かりな陰謀が暴かれたとか」
俺たちは、顔を見合わせた。
「詳しくは、俺たちも知らないな」
俺は、あえてそう答えた。目立つことは、これまで以上に避けるべき状況だった。
「まあ、そうだろうな。でも、そんな大きな事件を解決した冒険者パーティがいるとかいないとか……いやはや、世の中、何が起こるか分からんもんだ」
宿の主人は、そう言いながら、上機嫌で仕事に戻っていった。
「―また、噂が広まってるみたいね」
セラが、苦笑しながら言った。
「そのうち、顔まで割れそうだな」
ガロも、肩をすくめながら言った。
俺は、静かに考えを巡らせた。目立たないようにと心がけていても、成果を積み重ねる限り、評判は自然と広がっていく。それは、この世界で生きていく上での、避けられない性質なのかもしれない。
夜、野営の焚き火を囲みながら、ゼインが、静かに口を開いた。
「おい、リド」
「なんだ」
「お前とフィア、地下室で何があったのか、まだ詳しく聞いていない」
俺の心臓が、僅かに跳ねた。
「……いずれ、話す」
「いずれ、か」
ゼインは、静かに、しかし探るような目でこちらを見た。
「お前たちの間に、何か、大きな秘密があることは、察している。……急かすつもりはないが、いつか必ず、聞かせてもらう」
俺は、静かに頷いた。
「約束する」
その言葉に、ゼインは、小さく頷いた。
焚き火の炎が、静かに夜の闇を照らしていた。
避けられない告白の時が、王国への旅路の中で、確実に近づいていた。




