新たな地へ
地下室での戦いの後、俺たちは、ガレスの協力のもと、実験体にされていた若者たちを、一人、また一人と、正常な状態へと戻していった。
「もう、大丈夫だ」
最後の一人の拘束具を外し終えた時、俺は、静かに安堵の息を吐いた。
ガロとセラも、屋敷の外での役目を終え、地下室に合流していた。
「リド! 無事だったか!」
ガロが、駆け寄りながら声をかけてきた。セラも、心配そうな表情を浮かべている。
「ああ、なんとかな」
俺は、静かに答えながら、倒れ伏すガレスへと視線を向けた。
「この人が」
セラが、緊張した面持ちで尋ねた。
「導師―影楔の中枢にいた人物だ。詳しい経緯は、後で話す」
俺は、静かにそう答えるに留めた。カイエンとしての過去を、今この場で、セラとガロに明かすことは、まだできなかった。
その後、俺たちは、駆けつけた帝都の治安機関に、事態の全容を報告した。ガレスは、正式に拘束され、影楔に関する詳細な情報提供と引き換えに、罪の一部が軽減される取り決めがなされた。
数日後、俺たちは、宿の一室で、これまでの出来事を、静かに振り返っていた。
「―影楔の中枢は、ガレス様の拘束によって、大きく揺らいでいる」
ゼインが、静かに報告した。
「組織全体の瓦解までは、まだ時間がかかるだろうが……確実に、一つの区切りがついた」
セラが、安堵の表情を浮かべた。
「これで、少しは、安心できるのかしら」
「まだ、油断はできない」
俺は、静かに首を振った。
「影楔は、大陸各地に根を張っている。今回の一件は、あくまで、その一部を崩しただけに過ぎない」
ガロが、腕を組みながら頷いた。
「まあ、それでも、大きな前進だ。……焦らず、一つずつ、片付けていくしかねぇな」
俺たちは、静かに頷き合った。
その夜、俺は一人、宿の外に出て、夜風に当たっていた。
「―少し、話せるか」
背後から、ゼインの声がした。
「なんだ」
「今回の戦い……お前とフィアだけで、ガレス様と対峙したんだったな」
「ああ」
「何があったか、詳しく聞いていないが」
ゼインの目に、探るような色が浮かんだ。
「フィアの様子が、少し変わった気がする。お前を見る目に、以前とは違う、何か特別な感情が見える」
俺は、内心で、静かに動揺した。
「気のせいだろう」
「そうか」
ゼインは、それ以上、深くは追及してこなかった。だが、その沈黙の中に、彼なりの鋭い観察眼が、確かに存在していることを、俺は感じ取った。
(―いずれ、お前にも、全てを話す時が来る)
俺は、心の中で、静かにそう誓った。裏切られた過去と、それでも今、共に歩んでいる現在。その両方に、いつか、きちんと向き合わなければならない。
翌朝、俺たちは、レンドルと合流し、今後の方針について話し合った。
「ガレス様の資料の中に、興味深い記述がありました」
レンドルが、静かに切り出した。
「顕在化の起源、そして地下闘技場遺跡に関する、より詳細な情報です。……そして」
「そして?」
「アルドレア王国に関する記述も、いくつか見つかりました。……無属戦役の理論が、あの国と、深い関わりを持っているようです」
俺の心臓が、大きく跳ねた。
アルドレア王国―前世で、俺が指南役を務めていた、あの国。
「王国に、向かう必要があるかもしれないな」
ガロが、静かに呟いた。
セラも、頷いた。
「影楔の全容を掴むためにも、そして、お父様の研究を完成させるためにも……行ってみる価値はあると思う」
フィアも、静かに同意した。
「私も、賛成だ」
俺は、仲間たちの顔を、順に見つめた。
前世の祖国。そこには、かつての教え子―エドヴァルドとの再会、そして、避けられない過去との対峙が、待っているはずだった。
「―決まりだな」
俺は、静かに、しかし確かな決意を込めて言った。
「次は、アルドレア王国へ向かう」
窓の外、朝日が、静かに帝都の街並みを照らしていた。
積み上げてきた絆と、確かな決意を胸に、俺たちの旅は、新たな章へと進んでいく。




