積み上げた答え
全身に走る痛みの中、俺は、必死に思考を巡らせていた。
(―このままじゃ、押し切られる)
ガレスの力は、実験体から吸い上げた分だけ、着実に増している。正面からの力比べでは、いずれ限界が来る。
だが、俺には、前世から積み上げてきた、そしてこの世界で新たに培った、確かな武器があった。
「フィア、動けるか」
俺は、剣を構えながら、静かに問うた。
「……ああ、まだやれる」
フィアが、痛みを堪えながら、大剣を握り直した。
「なら、もう一度だけ、力を貸してくれ」
俺は、素早く、これまで積み上げてきたガレスの戦闘データを、頭の中で整理した。三度の攻防―そこから見えてきた、微かな傾向があった。
(奴の力は強大だが、"実験体から吸い上げる"という行為そのものに、僅かな隙が生じる)
力を吸収する瞬間、ガレスの意識は、僅かながら、その対象へと向けられる。その一瞬こそが、唯一の勝機だった。
「―ガレス様」
俺は、静かに、しかし確かな意志を込めて言った。
「あなたの理論は、本来、こういうものじゃなかったはずだ」
「今更、何を」
「才能のない者が、それでも積み上げれば、何かを掴めるという希望。……それを、あなた自身が、忘れているんじゃないか」
ガレスの表情が、僅かに揺らいだ。
「黙れ」
彼は、再び、実験体たちから力を吸い上げようとした。その瞬間を、俺は、待っていた。
「―今だ!」
俺とフィアは、同時に踏み込んだ。
意識が僅かに逸れたガレスの隙を、俺たちは、逃さなかった。
「はぁあああッ!」
フィアの大剣が、ガレスの右腕を捉えた。
「ぐ……ッ!」
杖が、ガレスの手から零れ落ちる。
俺は、間髪入れず、彼の懐へと踏み込んだ。剣先が、確かにガレスの喉元に届いた。
「―そこまでだ」
俺は、静かに、しかし確かな圧を込めて言った。
ガレスは、荒い息を吐きながら、静かに、その場に膝をついた。
「……終わり、か」
「まだ、終わってはいない」
俺は、静かに剣を下ろした。
「あなたが、罪を認め、これ以上の悪事を止めるなら―俺は、あなたを、殺すつもりはない」
ガレスは、驚いたように顔を上げた。
「―なぜだ。私は、この理論を悪用し、多くの人間を犠牲にした」
「それでも、あなたは、俺に、才能がなくとも積み上げれば強くなれると教えてくれた人だ。……その恩を、忘れるつもりはない」
沈黙が、地下室を包んだ。
やがて、ガレスは、静かに、しかし深く、頭を垂れた。
「……私は、間違えた。……あまりにも、長く」
その声には、隠しきれない後悔が滲んでいた。
「憎しみに囚われるあまり、自分が本来大切にしていたものを、見失っていた」
俺は、静かにその言葉を受け止めた。
「実験体にされた彼らを、元に戻す方法は」
「……ある。私の研究資料の中に、詳細な手順が記されている」
ガレスは、静かに、力なく頷いた。
「案内しよう。……もう、抗う気力もない」
その時、地下室の入り口から、慌ただしい足音が近づいてきた。
「―無事か!」
ゼインの声だった。彼は、私兵たちの一部を退けながら、こちらへと駆けつけてきたようだった。
「ゼイン、こっちだ」
俺は、静かに声をかけた。ゼインは、地下室の光景―倒れたガレス、そして横たわる実験体たちを見て、大きく息を呑んだ。
「これが」
「影楔の、真の姿だ」
俺は、静かに言った。
「詳しい話は、後でする。今は、彼らを救出することが先決だ」
ゼインは、静かに頷いた。
「……分かった」
地下室に、静かな安堵の空気が広がっていった。
だが、俺は、内心で、静かに気を引き締めていた。
―ガレスとの決着は、確かについた。だが、影楔という組織そのものは、まだ全容を現していない。そして、ゼインへの、避けられない告白の時も、確実に近づいていた。




