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裏切られた英雄、奴隷剣闘士として本物の絆を選び直す  作者: CHARA
第二部「金の影、諜報の網」
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積み上げた答え


全身に走る痛みの中、俺は、必死に思考を巡らせていた。


(―このままじゃ、押し切られる)


ガレスの力は、実験体から吸い上げた分だけ、着実に増している。正面からの力比べでは、いずれ限界が来る。


だが、俺には、前世から積み上げてきた、そしてこの世界で新たに培った、確かな武器があった。


「フィア、動けるか」


俺は、剣を構えながら、静かに問うた。


「……ああ、まだやれる」


フィアが、痛みを堪えながら、大剣を握り直した。


「なら、もう一度だけ、力を貸してくれ」


俺は、素早く、これまで積み上げてきたガレスの戦闘データを、頭の中で整理した。三度の攻防―そこから見えてきた、微かな傾向があった。


(奴の力は強大だが、"実験体から吸い上げる"という行為そのものに、僅かな隙が生じる)


力を吸収する瞬間、ガレスの意識は、僅かながら、その対象へと向けられる。その一瞬こそが、唯一の勝機だった。


「―ガレス様」


俺は、静かに、しかし確かな意志を込めて言った。


「あなたの理論は、本来、こういうものじゃなかったはずだ」


「今更、何を」


「才能のない者が、それでも積み上げれば、何かを掴めるという希望。……それを、あなた自身が、忘れているんじゃないか」


ガレスの表情が、僅かに揺らいだ。


「黙れ」


彼は、再び、実験体たちから力を吸い上げようとした。その瞬間を、俺は、待っていた。


「―今だ!」


俺とフィアは、同時に踏み込んだ。


意識が僅かに逸れたガレスの隙を、俺たちは、逃さなかった。


「はぁあああッ!」


フィアの大剣が、ガレスの右腕を捉えた。


「ぐ……ッ!」


杖が、ガレスの手から零れ落ちる。


俺は、間髪入れず、彼の懐へと踏み込んだ。剣先が、確かにガレスの喉元に届いた。


「―そこまでだ」


俺は、静かに、しかし確かな圧を込めて言った。


ガレスは、荒い息を吐きながら、静かに、その場に膝をついた。


「……終わり、か」


「まだ、終わってはいない」


俺は、静かに剣を下ろした。


「あなたが、罪を認め、これ以上の悪事を止めるなら―俺は、あなたを、殺すつもりはない」


ガレスは、驚いたように顔を上げた。


「―なぜだ。私は、この理論を悪用し、多くの人間を犠牲にした」


「それでも、あなたは、俺に、才能がなくとも積み上げれば強くなれると教えてくれた人だ。……その恩を、忘れるつもりはない」


沈黙が、地下室を包んだ。


やがて、ガレスは、静かに、しかし深く、頭を垂れた。


「……私は、間違えた。……あまりにも、長く」


その声には、隠しきれない後悔が滲んでいた。


「憎しみに囚われるあまり、自分が本来大切にしていたものを、見失っていた」


俺は、静かにその言葉を受け止めた。


「実験体にされた彼らを、元に戻す方法は」


「……ある。私の研究資料の中に、詳細な手順が記されている」


ガレスは、静かに、力なく頷いた。


「案内しよう。……もう、抗う気力もない」


その時、地下室の入り口から、慌ただしい足音が近づいてきた。


「―無事か!」


ゼインの声だった。彼は、私兵たちの一部を退けながら、こちらへと駆けつけてきたようだった。


「ゼイン、こっちだ」


俺は、静かに声をかけた。ゼインは、地下室の光景―倒れたガレス、そして横たわる実験体たちを見て、大きく息を呑んだ。


「これが」


「影楔の、真の姿だ」


俺は、静かに言った。


「詳しい話は、後でする。今は、彼らを救出することが先決だ」


ゼインは、静かに頷いた。


「……分かった」


地下室に、静かな安堵の空気が広がっていった。


だが、俺は、内心で、静かに気を引き締めていた。


―ガレスとの決着は、確かについた。だが、影楔という組織そのものは、まだ全容を現していない。そして、ゼインへの、避けられない告白の時も、確実に近づいていた。


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