奪われた力
ガレスの体から放たれる圧力が、これまでとは比較にならないほど、強く膨れ上がった。
「…これが、本気か」
俺は、その圧力に、思わず息を呑んだ。
「まだ、序の口だ」
ガレスは、静かに、周囲に横たわる実験体たちへと、視線を向けた。
「彼らの力を、少し借りるとしよう」
杖の紋様が、より強く輝き始める。横たわっていた若者たちの体から、淡い光が、まるで吸い上げられるように、ガレスの杖へと集束していった。
「―やめろ!」
俺は、思わず叫んだ。
「彼らを、これ以上犠牲にするな!」
「犠牲、か。……そう呼ぶのは簡単だが、大きな目的のためには、必要な過程だ」
ガレスの体が、これまで以上の力を纏い始めた。
「―くっ……」
フィアが、その圧力に、僅かに顔を歪めた。
「リド、あの若者たちを、先に助けないと……このままじゃ」
「分かってる」
俺は、素早く思考を巡らせた。ガレスを倒すだけでなく、実験体にされている若者たちを救出する必要がある。二つの目的を、同時に達成しなければならない。
「フィア、時間を稼いでくれ。俺が、彼らの拘束具を外す」
「一人で、あいつを抑えるのか?」
「短い時間でいい。頼む」
フィアは、一瞬躊躇ったが、やがて、力強く頷いた。
「―分かった。存分に暴れてやる」
フィアが、大剣を構え、ガレスへと突撃した。俺は、その隙に、横たわる若者たちの元へと駆け寄った。
「くそ、複雑な仕組みだ」
拘束具には、精緻な魔法陣のような紋様が刻まれている。俺は、素早くその構造を分析した。
(顕在化の流れを、強制的に操作する仕組み……それなら)
俺は、自己数値化の理論を応用し、拘束具の"数値的な弱点"を探った。前世で培った分析力が、この危機的状況でも、確かな武器となる。
「…ここか!」
俺は、拘束具の一点に、剣の切っ先を突き立てた。紋様が、大きな音を立てて砕け散る。
「な……!」
一人目の若者が、静かに意識を取り戻し始めた。
「くそ、あと何人だ……!」
俺は、次々と拘束具を破壊していった。だが、その間にも、フィアとガレスの戦いは、激しさを増していく。
「―ぐ、う……!」
フィアの声に、俺は、思わず振り返った。
ガレスの一撃を受け、フィアが、大きく吹き飛ばされていた。
「フィア!」
「大丈夫、だ……!」
フィアは、痛みを堪えながら、なんとか立ち上がった。だが、その顔には、明らかな疲労の色が浮かんでいる。
「そろそろ、決着をつけようか」
ガレスが、静かに杖を掲げた。その先端に、これまで以上の力が集束していく。
俺は、素早く状況を分析した。残る拘束具は、まだ数個。だが、悠長にそれを解いている時間は、もうない。
「―フィア、俺と入れ替わる!」
「リド……!」
俺は、フィアの前に躍り出た。ガレスの放った光の奔流が、俺目掛けて放たれる。
「くっ……!」
俺は、剣を盾のように構え、その衝撃を受け止めた。全身に、凄まじい痛みが走る。
「まだだ……!」
俺は、痛みを堪えながら、なおも前へと踏み出した。
前世で失った、多くのもの。この世界で積み上げてきた、確かな絆。その全てを胸に、俺は、目の前の敵と、真っ向から対峙し続けた。




