師弟の刃
ガレスが、静かに杖を掲げた。
その切っ先―いや、杖の先端に埋め込まれた紋様が、淡く輝き始める。
「退いてくれるつもりはないのか」
俺は、静かに問うた。
「ここで退けば、これまでの全てが無駄になる。……お前こそ、退く気はないのだろう」
俺は、答える代わりに、剣を構えた。
「フィア、下がっていろ」
「―何言ってる」
フィアが、大剣を構えたまま、こちらを睨んだ。
「一人で背負い込むな。……あんたの事情がどうであれ、今は、私たちの戦いだ」
その言葉に、俺は、静かに頷いた。
「すまない」
「謝る暇があるなら、勝つことを考えろ」
ガレスが、静かに笑った。
「良い仲間を持ったようだな、カイエン」
「リドだ」
俺は、静かに、しかし確かな意志を込めて言った。
「今の俺は、カイエンであり、リドでもある。……どちらの名も、否定するつもりはない」
ガレスの目に、微かな驚きが浮かんだ。
「面白いことを言う」
杖の先端から、鋭い光の奔流が放たれた。
「――くっ!」
俺は、咄嗟に横に跳んで躱した。着弾した床が、大きく抉れる。
「顕在化を、直接操作する力……!」
フィアが、驚愕の声を漏らした。
「ああ。研究の成果の一端だ」
ガレスは、静かに続けた。
「顕在者の力を強制的に増幅させる、あるいは、無理やり奪い取る。……その両方が可能だ」
俺は、素早く状況を分析した。搦め手を得意とするガレスに対し、正面からの力比べは不利だ。
「フィア、奴の狙いを分散させる。俺が、隙を作る」
「了解だ」
フィアが、大剣を構え、勢いよく踏み込んだ。ガレスは、冷静にその一撃を、杖で受け流す。
「若さだけの、粗い剣だな」
「うるさい!」
フィアの猛攻に、ガレスは、僅かに後退した。その隙を、俺は見逃さなかった。
「そこだ!」
俺は、素早く踏み込み、ガレスの懐へと入り込んだ。前世で培った技術の全てを、今、この一撃に込める。
「ほう」
ガレスは、驚いたように目を見開きながらも、辛うじてその一撃を受け止めた。
「積み上げてきたのは、事実のようだな。……お前の理論、確かに正しかったということか」
「あなたが、教えてくれた理論だ」
俺は、剣を押し込みながら、静かに言った。
「なら、その理論の本当の意味も、思い出してほしい」
ガレスの表情が、僅かに揺らいだ。
その一瞬の隙を、フィアが逃さなかった。
「―はぁあああッ!」
大剣の一撃が、ガレスの側面を捉えた。
「ぐ……ッ!」
ガレスが、大きくよろめく。だが、彼は、すぐに体勢を立て直した。
「……この程度で、終われる相手ではないな」
ガレスは、静かに杖を構え直した。その姿から、これまでとは違う、より強い力が漲り始めるのが分かった。
「本気を出させてもらう」
杖の紋様が、これまで以上に強く輝き始める。
俺は、フィアと視線を交わし、静かに頷き合った。
「―来い」
俺たちは、覚悟を決め、迫りくる強大な力に、正面から立ち向かっていった。




