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裏切られた英雄、奴隷剣闘士として本物の絆を選び直す  作者: CHARA
第二部「金の影、諜報の網」
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決行の夜


「―作戦を、最終確認する」


宿の一室、俺たちは、地図を広げながら、最後の打ち合わせを行っていた。


「ゼイン、屋敷内部の見取り図は」


「監査の権限を使って、最低限のものは入手した。……ただし、地下部分は、記録にない」


「未知の領域、か」


俺は、静かに頷いた。


「セラは、屋敷の外で、ヴァレスから得た情報を元に、逃走経路の確保を頼む。ガロは、正面からの陽動役だ」


「陽動、俺一人でか」


「お前の存在感なら、十分に注目を引ける。……無理はするな、あくまで時間稼ぎだ」


ガロは、不敵に笑った。


「上等だ。派手にやってやるよ」


「フィアは、俺と共に、地下への潜入を担当する。ゼイン、お前は、内部からの増援を食い止めてくれ。監査人の権限を使えば、屋敷内の私兵の動きを、ある程度制限できるはずだ」


ゼインは、僅かに眉を動かしたが、静かに頷いた。


「分かった。……お前らが潜入してる間、極力、敵の増援を屋敷内に留めておく」


フィアが、静かに頷いた。


「役割は、いつも通りだな」


「ああ」


俺は、仲間たちの顔を、順に見つめた。


「今回の相手は、これまでで最も危険な可能性がある。無理はするな。撤退の判断は、俺が下す」


「分かった」


皆が、静かに頷いた。


夜半、俺たちは、それぞれの持ち場についた。


ガロが、屋敷の正門近くで、堂々と姿を現す。


「おい! ここの主人に用がある! ドレイファスとやら、出てこい!」


ガロの怒声が、静かな貴族街に響き渡った。私兵たちが、慌てて集まってくる。


「―何者だ、貴様!」


「名乗るほどの者じゃねぇ。ただ、言いたいことがあるだけだ!」


私兵たちの注意が、正門に集中していく。その隙に、俺とフィアの二人は、屋敷の裏手へと回り込んだ。ゼインは、屋敷内部―私兵たちの詰め所の方角へと、単独で向かっていった。


「ここから」


俺は、事前に調べておいた、警備の薄い裏口を指し示した。


俺たちは、慎重に屋敷の中へと侵入した。


内部は、外観に違わぬ豪奢な造りだった。だが、俺たちの目的は、あくまで地下だ。


「―ヴァレスの証言によれば、ワイン貯蔵庫を装った入り口があるはずだ」


俺たちは、使用人の目を避けながら、慎重に屋敷の奥へと進んだ。


「あった」


厨房の奥、階段の先に、重厚な扉が見えた。表向きは、確かにワイン貯蔵庫のような造りだったが、扉の奥から、微かに、これまでの拠点と似た気配が漂ってきていた。


「フィア」


「任せろ」


フィアが、慎重に、しかし力強く扉を開けた。


地下へと続く階段。俺たちは、静かに、しかし確かな緊張を伴いながら、足を踏み入れた。


階段を降りきった先に広がっていたのは、これまで見てきたどの拠点よりも、洗練された、そして異様な光景だった。


石造りの壁一面に、複雑な魔法陣が刻まれている。その中央、いくつもの装置に囲まれるようにして、複数の人影が横たわっていた。


「…これは」


俺は、息を呑んだ。


横たわる人々は、皆、若く、そして、明らかに衰弱していた。その体には、精緻な紋様が刻まれた金属の器具が取り付けられている。


「実験、体……」


俺は、低く呟いた。声に、隠しきれない怒りが滲んでいた。


「―随分と、踏み込んでくれたな」


低く、抑揚のない声が、広間の奥から響いた。


俺たちは、素早く振り返った。


そこに立っていたのは―フードを脱ぎ捨てた、導師その人だった。


その顔を目にした瞬間、俺は、雷に打たれたような衝撃を受けた。


「まさか」


前世の記憶の奥底に眠っていた、微かな輪郭。それが今、はっきりとした形を持って、俺の目の前に現れていた。


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