帝都エルアヴィス
帝都エルアヴィスは、これまで見てきたどの都市とも、一線を画す規模だった。
高く聳える城壁、その内側に広がる、整然と区画された街並み。中央には、ヴァレンス帝国の威光を象徴するかのような、壮麗な宮殿が聳えている。
「…圧巻ね」
セラが、感嘆の声を漏らした。
「これが、帝国の中心地、か」
ガロも、周囲を見渡しながら、感慨深げに呟いた。
俺は、静かにその光景を見つめていた。前世でも、これほどの規模の都市を訪れたことは、そう多くはなかった。
「入市には、身分証の確認が必要だそうよ」
セラが、事前に調べていた情報を伝える。俺たちは、冒険者証を提示し、無事に帝都への入城を果たした。
「さて、まずは拠点を確保しよう」
俺の言葉に、皆が頷いた。
帝都の冒険者ギルド本部は、これまで見てきたどの支部よりも、遥かに大きな建物だった。俺たちは、正式な手続きを済ませ、当面の宿を確保した。
その夜、俺たちは、今後の方針について話し合った。
「影楔の中枢、帝都のどこにあると思う」
ガロの問いに、俺は、レンドルの資料を広げながら答えた。
「まだ、明確な場所は分からない。だが、帝都という土地柄、恐らく、政治の中枢に近い場所に、隠れ蓑を持っているはずだ」
「政治の中枢……つまり、貴族や官僚の中に、協力者がいる、ってことか」
「可能性は高い」
セラが、深刻な表情で言った。
「かなり、危険な調査になりそうね」
その時、宿の窓の外で、小さな物音がした。俺は、素早く警戒態勢を取った。
「―誰だ」
窓を開けると、そこには、フードを目深に被った人物が立っていた。
「静かにしろ。俺だ」
聞き覚えのある声―ゼインだった。
「随分と、危険な訪問の仕方をするな」
「表立って会うわけにはいかない立場でな」
ゼインは、静かに部屋の中に入ってきた。
「お前も、帝都に?」
「ああ。監査の一環という名目で、帝都に戻ってきた。……それに合わせて、独自に調べたことがある」
ゼインは、静かに一枚の地図を取り出した。
「導師の正体について、手がかりを掴んだ」
俺たちは、緊張しながら、その地図に目を凝らした。
「帝都の貴族街―その中でも、特に警戒が厳重な、とある屋敷がある。表向きは、引退した高官の隠居所ということになっているが」
「そこが」
「導師の、隠れ家である可能性が高い」
俺は、静かに拳を握りしめた。
「屋敷の主は」
ゼインは、一瞬、躊躇うような表情を見せた。
「―元帝都補給局長官、ドレイファス」
その名に、俺とガロは、揃って息を呑んだ。
「ドレイファス……ガロの、あの一件の」
セラが、驚いたように呟いた。
ガロが、拳を強く握りしめた。
「繋がった、か。全部」
俺は、静かに頷いた。
「レイストンを操っていた黒幕、そして影楔の導師―同一人物である可能性が高い」
ゼインが、静かに続けた。
「もしそうなら、奴は、帝国の腐敗そのものの中心にいることになる。……相当な権力を持っているはずだ」
沈黙が、部屋を包んだ。
「簡単な相手じゃない、ってことだな」
ガロが、低く呟いた。
「ああ」
俺は、静かに、しかし確かな決意を込めて言った。
「避けては通れない。……ここまで来た以上、決着をつける」
仲間たちが、静かに頷いた。
窓の外、帝都の夜景が、静かに広がっていた。その煌びやかな光の奥に、俺たちが挑むべき、大きな闇が潜んでいた。




