表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
裏切られた英雄、奴隷剣闘士として本物の絆を選び直す  作者: CHARA
第二部「金の影、諜報の網」
PR
48/59

掌の中


地下施設からの脱出後、俺たちは、安全な宿の一室に集まり、今夜の出来事を整理していた。


「導師の最後の言葉、気になるな」


ガロが、腕を組みながら言った。


「"お前たちは既に私の掌の中"、か」


セラも、不安げな表情を浮かべた。


「単なる脅し文句、とも思えないわね」


俺は、静かに考えを巡らせていた。導師の口ぶりには、確かな余裕があった。単なるはったりとは思えない、何か根拠のある自信のようなものを感じた。


「フィア、お前はどう見る」


「……分からん。だが、あの気配、明らかに只者じゃなかった。私の勘だが、あれは、相当な手練れだ」


フィアの言葉に、俺は静かに頷いた。


その夜、俺たちは、交代で見張りを立てながら、休息を取ることにした。


深夜、見張りに立っていた俺のもとに、静かに人影が近づいてきた。


「…ゼインか」


「勘がいいな」


ゼインは、静かに俺の隣に腰を下ろした。


「戦いの後、様子を見に来ただけだ。大した用件じゃない」


「わざわざ、危険を冒してか」


「……借りを作ったままなのは、性に合わない」


ゼインは、そう言いながら、静かに夜空を見上げた。


「―導師について、もう少し話しておく」


「聞かせてくれ」


「奴は、影楔の中でも、特別な立場にいる。組織の表向きの指導者たちすら、奴の正体を完全には把握していないという噂がある」


「正体不明の存在が、なぜ組織の中枢にいる」


「奴自身が、無属戦役の理論―自己数値化の研究において、決定的な役割を果たしたからだ、という話を聞いたことがある」


俺の心臓が、大きく跳ねた。


「決定的な役割、とは」


「詳しくは知らない。だが……お前が、無属戦役に関わる何かを知っているなら、奴と接触した際に、何か気づくことがあるかもしれない」


ゼインの目が、静かにこちらを見据えた。


「お前は、一体何を隠している」


俺は、静かに視線を逸らした。


「答えられない」


「そうか」


ゼインは、それ以上、追及してこなかった。


「一つ、聞いてもいいか」


俺は、静かに切り出した。


「お前は、なぜ、影楔から離れない。監視対象になってまで、組織に留まる理由があるのか」


ゼインの表情が、僅かに翳った。


「……守らなければならないものが、ある」


「以前、セラが言っていたな。誰か、大切な人を守ろうとしているんじゃないか、と」


ゼインは、しばらく沈黙した後、静かに息を吐いた。


「……ああ、その通りだ。……妹がいる。……組織に、人質のような形で握られている」


その告白に、俺は、静かに拳を握りしめた。


「解放する方法は」


「分からない。……これまで、あらゆる手を尽くしてきたが、糸口すら掴めていない」


ゼインの声には、隠しきれない絶望が滲んでいた。


俺は、しばらく沈黙した後、静かに言った。


「―もし、俺たちが、影楔の中枢に近づくことができれば、その過程で、妹さんの手がかりも、見つかるかもしれない」


ゼインは、驚いたようにこちらを見た。


「……本気で言っているのか」


「以前も言ったはずだ。利害が一致するなら、手を組む理由になる」


ゼインは、しばらく黙り込んでいたが、やがて、小さく頷いた。


「……分かった。今回だけは、お前たちの動きに、期待させてもらう」


彼は、静かに立ち上がった。


「次に会う時までに、俺自身も、できる限りの情報を集めておく」


「ああ」


ゼインは、静かに闇の中へと姿を消していった。


俺は、一人、夜空を見上げながら、静かに息を吐いた。


前世で裏切られた男との、新たな関係性。それは、単純な赦しでも、和解でもない。だが、確かに、何かが、少しずつ変わり始めていた。


翌朝、俺は、仲間たちに、ゼインとのやり取りを伝えた。


「妹さんが、人質、か」


セラが、痛ましげな表情を浮かべた。


「その情報、信じていいの?」


「確証はない。だが、少なくとも、嘘をついているようには見えなかった」


ガロが、静かに頷いた。


「まあ、あいつが手を貸してくれたのは、事実だ。今は、信じてみる価値があるんじゃねぇか」


フィアも、静かに同意した。


「私も、同感だ」


俺は、仲間たちの顔を見つめながら、静かに頷いた。


「次は、導師の正体、そして影楔の中枢に、より深く迫る必要がある」


窓の外、朝日が昇り始めていた。新たな手がかりと共に、俺たちの旅は、次の局面へと進んでいく。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ