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裏切られた英雄、奴隷剣闘士として本物の絆を選び直す  作者: CHARA
第二部「金の影、諜報の網」
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黒鷲商会、地下区画


三日後の夜。


俺たちは、トマスの案内で、黒鷲商会の裏口近くまで辿り着いていた。


「ここから先は、俺の役目は終わりです」


トマスが、緊張した面持ちで言った。


「本当に、大丈夫ですか。危険な役目を任せてしまって」


「いえ……あなたたちのおかげで、ようやく、この商会のおかしさに、正面から向き合う勇気が持てました。……消えた同僚のためにも、真実を知りたい」


俺は、静かに頷いた。


「必ず、真実を明らかにする。……あなたは、これ以上深入りせず、身の安全を優先してくれ」


トマスは、深く頭を下げると、静かにその場を去っていった。


「行くぞ」


俺の言葉に、セラ、ガロ、フィアが、それぞれ頷いた。レンドルは、今回は安全な場所で待機することになっている。


裏口の警備は、トマスの情報通り、この時間帯は手薄だった。俺たちは、慎重に商会の建物内へと侵入した。


「―地下への入り口は、確か倉庫の奥」


セラが、小声で案内する。


倉庫の奥、木箱の陰に隠された、目立たない扉。俺たちは、それを慎重に開けた。


地下へと続く階段は、これまで見てきたどの拠点よりも、厳重に整備されていた。壁には、精緻な魔法陣のような紋様が刻まれている。


「…これは」


俺は、思わず足を止めた。この紋様には、見覚えがあった。地下闘技場遺跡、そして、あの小規模な古代遺構でも目にした、顕在化の起源に関わる紋様と、酷似していた。


「知ってる紋様か?」


フィアの問いに、俺は静かに首を振った。


「……いや、確証はない。だが、何か、関連がある気がする」


俺たちは、慎重に階段を降りていった。


地下は、これまで見たどの拠点よりも、洗練された造りをしていた。石造りの通路には、精緻な装飾が施され、まるで神殿のような荘厳さすら感じさせる。


「ここは、ただの隠れ拠点じゃないな」


ガロが、低く呟いた。


「もっと、重要な意味を持つ場所かもしれない」


俺たちは、物音を立てぬよう、慎重に奥へと進んだ。


やがて、俺たちは、一際大きな扉の前に辿り着いた。扉の隙間から、微かな灯りと、複数の話し声が漏れ聞こえてくる。


俺は、そっと扉に近づき、中の様子を窺った。


広間のような空間に、複数の人影があった。その中央に立つ、一際存在感のある人物―フードを目深に被った、老齢と思しき人物が、静かに何かを語っていた。


「"導師"か」


俺は、小声で呟いた。


その人物の声が、微かに聞こえてくる。


「……顕在化の起源を解明する研究は、順調に進んでいる。あと少しで、我々は、真の意味で"力の序列"を、思うがままに操れるようになるだろう」


集まった人々が、静かに頷く。


「無属戦役の理論―自己数値化についても、応用の目処が立った。この二つを組み合わせれば、我々は、顕在化を持たぬ者にすら、意のままに力を与え、あるいは奪うことができるようになる」


俺は、拳を強く握りしめた。


前世で確立した理論が、これほどまでに悪用されようとしている現実に、強い怒りが込み上げてくる。


「リド」


フィアが、小声で呼びかけてきた。


「あの声の主、聞き覚えは」


俺は、静かに耳を澄ませた。導師と呼ばれるその人物の声には、確かに、微かな既視感があった。だが、それが誰なのか、はっきりとは思い出せない。


「……分からない。だが、無視できない存在だ」


その時。


広間の中の一人が、不意にこちらの方向を振り返った。


「―誰かいるな」


俺たちは、素早く身を隠した。だが、既に、その気配は察知されていたようだった。


「侵入者か。……ちょうどいい、実験の材料が増えた」


導師と呼ばれる人物の声が、静かに、しかし確かな悪意を帯びて響いた。


俺たちは、互いに視線を交わし、覚悟を決めた。


ここからが、本当の戦いだった。


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