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裏切られた英雄、奴隷剣闘士として本物の絆を選び直す  作者: CHARA
第二部「金の影、諜報の網」
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入念な準備


ゼインの忠告を受け、俺たちは、黒鷲商会への潜入計画を、一から練り直すことにした。


影楔(えいけつ)の上位の人間、か」


宿の一室、地図と資料を広げながら、俺は静かに考えを巡らせた。


「これまでの相手とは、格が違うと考えたほうがいい」


「あの黒外套の男以上、ってことか」


ガロの問いに、俺は頷いた。


「可能性は高い。慎重に動く必要がある」


セラが、収集した情報を整理しながら言った。


「黒鷲商会の警備体制、これまでの拠点よりずっと厳重よ。表の商会員だけでも、かなりの数がいる。しかも、その中に、明らかに戦闘要員と思しき人間が紛れてる」


「正面突破は、現実的じゃないな」


フィアが、腕を組みながら言った。


「なら、どうする」


俺は、しばらく考えてから、一つの案を口にした。


「内部の人間を、味方につける」


「協力者を作る、ってことか」


「ああ。商会には、影楔の意志とは無関係に、単に生活のために働いている人間も多いはずだ。全員が、組織の目的を理解し、賛同しているわけじゃない」


レンドルが、静かに頷いた。


「私の経験からも、それは頷けます。……影楔のような組織は、末端になるほど、真の目的を知らされていないことが多いものです」


「セラ、商会の従業員名簿は」


「一部だけなら、手に入れてある。あとは、実際に接触してみないと」


俺たちは、数日かけて、黒鷲商会の周辺で働く人々に、慎重に接触を試みた。表向きは、商会への就職希望者や、取引を検討する冒険者を装いながら。


その中で、俺たちは、一人の若い商会員―トマスという青年に目をつけた。


「―あの、すみません。少しお話が」


セラが、市場でトマスに声をかけた。


「私たち、実は、黒鷲商会について、少し気になることがあって」


トマスは、警戒するような表情を見せたが、セラの誠実な態度に、次第に態度を和らげていった。


「……気になること、とは」


「最近、商会の内部で、何か変わったことはありませんか。……夜間の不審な動きとか」


トマスは、しばらく躊躇っていたが、やがて、声を潜めて言った。


「……実は、俺も、薄々おかしいとは思ってました。夜になると、普段は立ち入れない地下の区画に、限られた人間だけが出入りしてる」


「地下の区画」


「詳しいことは分かりません。ただ……最近、同僚の一人が、その区画に興味本位で近づいて、そのまま姿を消しました」


俺たちは、顔を見合わせた。


「消えた、というのは」


「表向きは、突然の退職ってことになってます。でも……不自然すぎる」


トマスの声には、隠しきれない不安があった。


「もし、俺にできることがあるなら、協力します。……あの商会、何かがおかしい」


俺は、静かに頷いた。


「ありがとう。だが、無理はしないでほしい。あなたの安全が最優先だ」


トマスは、少し驚いたような顔をした。


「……変わった人たちですね、あなたたち」


「よく言われる」


数日かけて、俺たちは、トマスを通じて、商会内部の詳細な情報を集めていった。地下区画の場所、警備の交代時間、そして―内部に出入りする、影楔の上位者と思しき人物の存在。


「名前は分かるか」


俺の問いに、トマスは首を振った。


「いえ……ただ、皆、その人物のことを、"導師様"と呼んでいるのを聞いたことがあります」


導師。


その呼び名に、俺は、微かな胸騒ぎを覚えた。


「―導師、か」


前世の記憶の中に、その言葉に近しい何かが、微かに引っかかっている気がした。だが、それが何なのか、はっきりとは思い出せない。


「リド、大丈夫か」


フィアが、心配そうに声をかけてきた。


「……ああ、問題ない」


俺は、静かに気を引き締めた。


準備は、着実に整いつつある。だが、その先に待つ相手が、これまで以上に大きな存在であることを、俺は、はっきりと予感していた。


「潜入は、三日後の夜。警備が最も手薄になる時間帯を狙う」


俺は、静かに、しかし確かな決意を込めて言った。


仲間たちが、揃って頷いた。


避けられない対峙へ向けて、俺たちの準備は、最終段階へと入っていった。


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